第3話 ◼️◼️
爆発で粉々になった電車。
その瓦礫の上に、黒服に身を包んだ二人が降り立つ。
「突然強くなったドスけど、なんドスか。あの気色悪いほど、ヤバい異能は?」
ネグロールの脂肪が、たっぷりとついた身体。
その身についた汗を拭いながら口を開いた。
「さぁな。あのガキとおっさんが親子だったと言うことは、何か特別な家系の可能性もある。標的は回収したんだ。ずらかるぞ」
そう言ってマイクロは背負った少女をチラりと見る。
「待てよ」
わずか0.7秒。
マイクロは目線を一瞬離しただけだった。
だが再び正面に向き直るその前に、吹き飛んだ。
…! バカな。
ネグロールは慌てて吸収を出そうとする。
だが遅い。
俺にはそう感じてままならない。
事実、ネグロールより早く動くことができた。
だが、その拳がネグロールに届く前。身体は内側から爆発した。
痛いと言えば痛い。
それでも実の父親を目の前で殺されたことによる、心の痛みに比べれば屁でもない。
「テメェらは、テメェらだけは許さねぇ」
走った。
分析する。
まずネグロールの異能はおそらく吸収だ。
オヤジとの戦闘を見るに、異能を吸収すると見て間違いない。
そして、こいつら二人のもっとも厄介なのが、オヤジもやられた連携攻撃だ。一人が正面から迎え入れ、余ったもう一人が背後に周り刃をたてる。
この連携を壊すための手段は…ひたすらに掻き乱し、暴れまくる。
さいわい異能ってのと、俺の身体能力は相性が良いらしい。意味不明なほどの力が俺の身体中を巡っている。それは、生まれた時から得ていた俺の潜在能力を十分に引き出した。
ただ走っているだけなのに、いつもより数百倍の速さが出る。それはもはや、視界にとらえるとこすらままならない。
俺は二人の周囲をぐるぐると周回する。
「ちょこまかとめんどくさいな…ネグロール。お前の吸収で頼む」
「しょうがないドスぇ」
ネグロールはそう言って高速で動く俺に焦点を当てることなく、明後日の方向に手をかざした。
「お前のパパは弱かったから死んだのドスぇ。親も親なら子も子。すぐにパパの元に送ってやるから安心するドスぇ。
砂埃が上がり、ネグロールを中心に、地面が、壁が、瓦礫が、全てが、細い物体と化して吸収されていく。
今までとは桁違いな効果範囲だ。
それでも俺はスピードを緩めなかった。さいわい異能のおかげなのか、いくら走ってもまったく疲れないどころか息もあ上がらない。
吸収が始まっている地面や壁は避け、ネグロールと、さらに後ろで何やら異能を出そうとしているマイクロの二人を交互に見る。
連携攻撃を仕掛けられる前につぶす。
さらにギアを上げた。
まずはネグロールに殴りかかる。驚いた表情をするネグロールは、慌ててガードしようとした。それでも俺の力の方が勝った。ガードの上から叩き、吹き飛ばす。
マイクロの元までネグロールはごろごろと転がっていった。
「吸収が通じないのか⁉︎ ならば…
俺の周囲の空気が歪んだ。
次の瞬間。
マイクロが持つ最大火力の攻撃。それは、大気そのものを爆弾に変えて、爆破させる。絶対に当たる波状爆破だった。
殺意を持った攻撃が俺の全身を包み込む。
涙で視界がぼやける。目の前が真っ白になる。
それは一度色づいたら二度と戻ってくることはできないほどの痛みと苦痛。
負ける。俺もあいつらの言う通り、すぐにオヤジの元に送られるのだろう。
-失っていく意識の中、真っ白の空間の先にオヤジとの記憶がまるで映画のワンシーンのように浮かび上がってくる。
中学を卒業した俺にとっても、もうずいぶんと昔のことになる。あれはまだ俺が小学生にもなっていない時のことだから、はっきりとは覚えていなかった。
ベビーカーから卒業して、やっと立てるようになった頃。オヤジに抱っこされ、耳元で囁かれたあのセリフ。
「◼️◼️奥義」
それは俺にとって最古の記憶でもあった。
「なぜ、今になって思い出した…⁉︎」
自分でも不思議だった。だが、分かる。オヤジの言葉は異能という存在を知った今この時のためにある。
痛みを耐えろ。足の踏ん張りをきかせながら自分自身を励ます。
今こそオヤジの無念を晴らすときだ。
すぅーと息を吸い名を呼ぶ。
「◼️◼️
オヤジの時と同じような蒼い花が三百六十度あたりを埋め尽くす。ただオヤジとの決定的な違いがある。規模だ。
破壊された駅のホームの全てを覆い尽くすほどの量。一瞬の内にお花畑が出来上がってしまった。
「クッソヤバい異能の上、吸収も効かないドスぇ、マイクロどうするドスぇ」
「………仕方がない。女を置いていく」
マイクロは口惜しそうにそう言って、背負っていた紫髪の女子高生を地面に下ろした。
大量の花が輝きを放つ。
「逃げるぞ。爆散!!」
その瞬間マイクロは球を足下に投げた。地面に当たった瞬間に砕け、中から煙が上がってきた。
それは瞬く間に二人の姿を包み隠した。
煙が湧き上がっていようが俺には関係ない。
全てを破壊してあいつらを倒す。
正義が勝って悪が負ける。それが本当のあるべき形だ。
「◼️◼️◼️◼️」
その呼び名はこの世で誰も知らない。俺自身も、
大量の花から出たレーザービーム。
煙が立つ場所に向かう。
その時、煙の隙間からさっきの女子高生が地面に倒れているのが見えた。
女子高生はピクリとも動かない。
さっき二人が拉致しようとした女の子だ。
「うわっ、まっずい!!」
レーザービームの止め方が分からなかった俺は、必死に走って駆け寄って行った。
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