幸せに 2024/03/31

 ピピピ ピピピ

 幸せに寝ていた私を現実世界に引きずり出すべく、アラームが鳴り響く。

 夢の世界にしがみつこうとするも、目覚ましのアラームはずっと鳴り響き、健闘虚しく夢から覚める。

 幸せな時間を邪魔されたたことに怒りを覚えつつ、不快に鳴り響くスマホを取ってアラームを解除する。


 今の時間を見れば朝六時。

 いつもなら仕事に出る時間。

 だが今日は違う。

 今日は有休を取った。

 つまり仕事が無い日である。

 仕事が無い日である(大事な事なので二回言いました)。


 どうやら昨日の私はアラームを解除し忘れたらしい。

 まったく弛んでいるな。

 貴重な休日の朝を何だと思っているのか……

 その貴重な朝を無駄に寝て過ごすのが、私の趣味だ。

 なのに何が嬉しくて、こんな早くに起きなければいけないのか


 というわけで、これから二度寝タイム。

 じゃあ、さっきまで見ていた夢の続きを――



「ちょっと美幸!いつまで寝てんの」

 ドアが勢いよくあけ放たれ、母さんが入ってきた

「あと一時間~」

「いいから起きなさい」

「今日休みだよ。寝かせてよ」


――そんなこと言ってないで、布団から出なさい

 そう言われると思ったのに、返ってきたのはふかーい溜息だった。

「あんたねぇ。今日が何の日か分かってんの?」

 母さんが呆れたような顔で私を見る。

 なんの日かだって?

「昼まで寝ていい日」

 私の答えに母さんが心底呆れたような顔をする。


「今日はあんたの結婚式でしょ」

 母さんの言葉に一瞬戸惑う。

 けっこんしき? 

 どこか聞き覚えのある言葉。

 寝ぼけた頭を少しずつ回転させる


 けっこんしき……

 血痕四季………

 結婚式……

 ……

 …

 ぐう


「こら寝るな」

 いつの間にか側にいた母さんに頭を叩かれる。

「痛いんですけど」

「ならよかったっわ。痛くなるよう叩いたから」

 なんて親だ。


「それで思い出した?」

「思い出しました。今日は私の結婚式です。はい」

「はあ、全く……」

 母さんは何度目か分からないため息をこぼす。


「あんたが寝起きに弱いのは知ってたけど、まさかここまでとは……

 普通、自分の結婚式を忘れる?」

「あはは」

 目を逸らしながら笑う。


「そんなに寝ていたいのなら、結婚式キャンセルの連絡するけど……

 どうする?」

「起きます!」

 私はシュバッと布団から飛び出す。

「待ちなさい」

 身支度をすべく部屋を出ようとした私を、母さんが呼び止める。


「まだ何かあるの?」

 振り返ると、母が真剣な顔でこちらを見ていた。

「幸せになってね」

 予想外の言葉に私は目をぱちくりさせる。

「母さん、それは結婚式の後で言ってね」

「その時、あんた寝てるかもしれないじゃない」

「さすがに寝んわい!」

 ふざける母さんを置いて、洗面所に向かう。


 冷たい水で顔を洗えば、寝ぼけた頭が完全に覚醒する。

 そうだ、今日は私の結婚式。

 寝ている場合じゃなかった。

 急に実感がわいてきて、緊張していることを自覚する。


 鏡を見て、寝癖を軽く直し、リビングへ行く。

 何をするにも腹ごしらえをしてから。

 人生で一番長い一日が始まる。

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