好きじゃないのに 2024/03/25

 教室に来てから最初にするのは、和也の席を見ること。

 別にアイツのことが、好きだからという訳じゃない。

 なぜならアイツの隣が私の席だから。

 そして自分の席ではなくあいつを探すのは、髪が少し派手なので目印にちょうどいいから。

 だから何も変なこともない自然な事。

 アイツの事を見つけて少し体が熱くなるのは、自分の席を見つけられた安心感からなのだ。


 彼の頭を目印にして、自分の席に向かう途中、不意にアイツと目が合う。

 驚いて心臓が跳ね上がった私の事なんて気付かず、『おはよう』と挨拶してくる。

 私は極めて冷静に『おはよう』と返す。

 すこし、声が変だったかもしれないけれど、仕方がない。

 だって私は朝が弱い。

 アイツも知ってる事で、変に思われることはない

 

 そして始まる朝の会話。

 毎朝の恒例行事。

 和也とは、趣味が合うので話が楽しいのだ。

 一日で最も楽しい時間。

 でも間違いが起こることはない

 私達はただの友人同士で、これからもずっと変わることはない。


 アイツと話すようになったのは最近のこと

 先月の席替えの時、席が隣同士になったのだ。

 今まで接点が無く、名前すら怪しいクラスメイトだったけど、話してみると以外に話は弾んだ。

 共通の趣味から、1㎜も理解していない物理の話まで。

 不思議と話しやすく、何を話しても盛り上がった。

 それ以来、機会があればよく話している。

 あまりに気持ちよく話せるので、ふとした時にアイツを探すようになった。


 でもアイツは異性として好きじゃないし、自分のタイプからもかけ離れている。

 友人としては好ましく思っている。

 仲のいい友人、それだけ。

 それにアイツには彼女がいる。

 仮に私がアイツの事が好きでも迷惑なだけ。

 だから、私のこの感情は『好き』じゃないのだ。


 教室に来てから最初にするのは、和也の席を見ること。

 アイツの事なんか好きじゃないのに、気づけばアイツのことを探してる。

 でも勘違いしちゃだめだ。

 だってこれは叶わない恋なんだから。

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