たった一つの希望 2024/03/02

 今日は期末試験の日。

 この結果次第では休み返上で補習がありうるほど重要な試験である。

 俺には休みのスケジュールはぎっしり詰まっているので、この試験だけは落とすわけにはいかないのだ。

 だが俺は答案用紙に何も書き込めないでいた。

 筆記用具が無いわけじゃない。

 純粋に答えが分からないのだ。


 これまでの試験は、授業聞いてちょっと勉強すれば何とかなった。

 それどころか、平均より上を取るのも難しくはない。

 だから今回は全く勉強しなくても大丈夫だろうと思ったのだが、この有様である。

 あと最近面白いゲームが出まくったのでそのせいでもある。

 ……いや、ゲームのせいにするのは良くない。

 すべては期末試験と言う制度が悪いのだ。


 だがそんな現実逃避をしても目の前の解答欄は埋まらない。

 こういう時、凡人ならばカンで答えるだろうが、俺はそんな無粋な真似はしない。

 秘策があるのだ。

 この絶望的な状況を切り開いてくれるたった一つの希望。

 それはサイコロ鉛筆である。

 断面が丸ではなく、六角形の鉛筆。

 これに数字をそれぞれの面に書けばあら不思議、答えを教えてくれる魔法の鉛筆に早変わりだ。


 昨晩寝る前に、『さすがに全く勉強しないというのは、いくらなんでも不味いのでは?』という不安に駆られ急遽きゅうきょ作ったものだ。

 使わないに越したことは無いと思っていたが、結局使う羽目になってしまった。

 反省すべきことはたくさんあるが、それは家に帰ってからの話。

 ともかくこれで合格間違いない。


 俺は鉛筆を転がし、解答欄を埋めていく。

 先生もそんな俺の様子を見ているが何も言わない。

 これはカンニングではないから当然だ。

 もしも口出ししようものならSNSで炎上待ったなし!

 最近の先生は大変ですな。


 すべての解答欄を埋めると、ちょうど試験終了のチャイムが鳴る。

 さすがに記述形式のものは埋めることはできなかったが、選択問題は全て埋めた。

 けっこう調子が良かったので、平均は堅いだろう。


 少しの休憩ののち、次の教科の試験が始まる。

 この試験もこの魔法の鉛筆さえあれば、赤点回避は確実だろう。

 配られた解答用紙を受け取り、教師の合図とともに書き込み始める。

 ぱっと見で選択問題が多い。

 これはサイコロ鉛筆の独壇場だな。

 勝利を確信し、回答用紙に名前を書きこもうとして、しかし鉛筆が止まる。

 俺は致命的なミスを犯したことに気が付いたのだ。


 さっきのテスト、名前書いてない

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