伝えたい 2024/02/12

 私は恋人の卓也と一緒に、マンションの屋上に来ていた。

 理由は逢引き――ではなく、星空を見に来た。

 『なんだ逢引きじゃないか』と思われるかもしれないが、そんなロマンチックなものではない。


 私たちは双眼鏡を手に、宇宙人を探している。

 『宇宙人なんていない』とおっしゃる方もいるだろうが、残念ながら存在する。

 でも誰も信じないので、毎晩こうして証拠探しをしている。

 けれど基本的に何かが見つかることは無いし、あっても流れ星くらいなもの。

 それでもこの時間は楽しい。

 きっと卓也と一緒にいるからだろう。


「何かあった?」

 私は卓也に尋ねる。

「ダメだな。なにも無い」

「まあ、気長にやるしかないね。少し休もう」

「そうだな」

 卓也は双眼鏡を覗くのをやめて、私の近くに座る。


「はい、お茶。なんと宇宙人のテクノロジーで熱々のまま!」

「何言ってるんだよ。魔法瓶に入れてただけだろ」

「バレたか」


 卓也とお茶を飲みながら、星空を見上げる。

「ねえ、宇宙人に会ったらどうしたい?」

「あれ言ったことなかったっけ?」

「聞いたけど、もう一回聞きたい」

「仕方ないな」

 卓也は手に持ったお茶をすする。


「会ったら伝えたいことがあるんだ。

 地球の文化、自然とか、地球のいいところをたくさん知ってもらう。

 それで宇宙人が住んでいる星の事もたくさん聞きたいんだ」

「夢があるね」

「多分だけど、宇宙人って地球に興味があると思うんだ。

 アニメとかゲームとか、面白いものがたくさんあるしね」

「それは私も保証するよ。絶対に気に入る」

「そうだろ。

 よし、体も暖まったし、宇宙人探しを再開するか」

 そう言って卓也は双眼鏡を手にして、星空を見上げる。

 だけどそんな卓也を見て、私はため息をつく。


 実は私は卓也に秘密にしていることがある。

 彼の夢に叶えるために伝えなければいけないこと。

 でも話せないこと。

 それは私が宇宙人だということ。


 『自分が宇宙人ということを地球人に教える』

 それは宇宙条約で禁止されている。

 破ったら厳罰で、知った地球人も記憶を消されてしまう。

 『地球はまだまだ未開だ』と言って、頭の固いお偉いさんによって決められたのだ。

 でも地球は宇宙を渡る技術が無いだけで、素晴らしい文化があると思っている。

 卓也の言ったように、アニメやゲームは素晴らしい。

 ぜひとも故郷の星の人々にも堪能して欲しいくらいだ。


 他の宇宙人もそう思っているようで、撤回運動が展開されていると聞いたことがある。

 でもお偉いさんは頑なに拒否しているそうだ。

 何がそんなに怖いのだろうか。

 地球のこと、もっと知ればそんな事は思わなくなるのに……

 私が卓也の求めているものだって分かったら、どんな顔をするのだろう。


 いつかあなたに伝えたい。

 あなたの夢は叶っているって。


 いつかあなたに話したい。

 私の故郷の星の文化、自然やいいところをたくさん。


 そして最後に伝えたい。

 あなたを心の底から愛してるって。

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