スマイル 2024/02/08
『スマイル 値上げへ』
手に持った新聞の一面にはそう書かれている。
なんというセンセーショナルな見出しだろうか。
私は寝起きにもかかわらず、一気に目が覚めてしまった。
スマイルというものは0円のはずだ。
いったい何が起こったというのか?
朝の支度も忘れて新聞を読み込む。
『近年の急激な物価高により利益が確保できず』、『またスマイルを提供する人材の人件費が高騰』、『もともと利益が確保できていなかったため今回の値上げに踏み切った』と書いてある。
なるほど、どうやら時代の流れらしい。
スマイルは登場以来ずっと0円だった。
だが企業努力ではもう限界なのだろう。
これもまた一つの時代の終わりなのだ。
諸行無常、変わらないものが無いのは分かっているが、それでもどこか寂しさを感じる。
私は急にスマイルが欲しくなった。
普段は何とも思わなかったくせに、手に入りにくくなると急に物欲しくなる。
我ながら最低だな。
だが欲しい物は欲しい。
家を出て近所で一番近い店に向かう。
店に着くと、朝が早いにもかかわらず、行列ができていた。
みんな朝の新聞を読み、スマイルが欲しくなったのか。
お店的には売上が増えるが、複雑な心境であろう。
そんな何の役に立たないことを考えていると、ついに自分の番がやってきた。
何も考えていなったが、とりあえず目についたセットとスマイルを注文する。
すると対応してくれた店員は、即座にスマイルをくれた。
うむ、いい笑顔だ。
私はそういえば、と思って聞きたいことを聞くことにした。
新聞には値上げの事が書かれていたが、値段のことは書いてなかったのだ。
「新聞にスマイル値上げって書いてあったんですけど、いくらぐらいになるんですか?」
言った後で、忙しい中こんなことを聞くのは迷惑だということに気づく。
慌てて訂正しようとするが、店員は気を悪くした風もなく笑顔で答えてくれた。
「お客様の笑顔です。
実は先ほど無料分の笑顔が切れまして、お客様より有料となります。
ではお客様、笑顔をどうぞ」
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