逆光 2024/01/25

 <存在しない前回のあらすじ>

 美紀が商店街で散歩していた時、突如怪人が現れ街で暴れ始めた。

 美紀は逃げるが、転んで足をひねってしまい動けなくなる。


 動けなくなった美紀を見つけた怪人は、他の人間に対する見せしめに殺そうとする。

 怪人は持っていた斧で美紀を斬ろうとするが、間一髪のところで謎の男に助けられる。


 謎の男の正体とは――


 ☆ ☆ ☆



 目を開けると、さきほど私を殺そうとした怪人から離れていた。

 そして私がさっきまでいた場所には、深く斧が突き刺さっている。

 自分があそこにいたかもと思うと、体の芯から冷える感覚がする。


「大丈夫かい?」

 声が聞こえたので振り向くと、逆光で見えなかったものの男性の顔があった。

 なぜこんな近くに男性がいるのか?

 ふと自分の体の見てみると、この知らない男性に抱きかかえられていた。

 お姫様抱っこだ。

 少し恥ずかしいが、どうやら状況的に彼が助けてくれたのだろう。


「ありがとうございます」

 私は助けてくれた彼に礼を言う。


「無事なら何よりだ」

 彼は口端を上げニヒルに笑った――ような気がした。

 逆光で見えなかったのだ。

 逆光?

 この男、もしや……


「貴様、何者だ?」

 対して怪人はいらだっていた。

 当然である。

 自分の獲物を横取りされたのだ。


「ふっ、私がわからんか」

 男は怪人に向き直る。

「私は悪を挫き、弱きを助ける。

 人呼んで――

    逆  光  仮  面  !」

「なに!?逆光仮面だと!?」

 怪人が驚愕する。


 逆光仮面!

 怪人が暴れるとどこからともなくやってくる正義の味方。

 卓越した戦闘力で怪人を倒し、巻き込まれた人々を救助する。 

 そしてその善行に対して何一つ見返りを求めない。

 まさにヒーロー。


 そんな彼の最大の特徴は、誰も顔を知らない事。

 名前のように仮面をつけているわけではない。

 彼の顔を見るとなぜか逆光で目が眩み、だれも顔を見ることが出来ないのだ。

 誰が呼んだか逆光仮面。


「ふん、貴様が逆光仮面とやらか。

 どおりで顔が見えないはずだ」

 私からも逆光で見えないが、怪人からも見えないらしい。

 どういう理屈だろうか?


「まあいい。邪魔するのなら消すだけだ」

 怪人は一歩前へ出る。


「このまま走って逃げるんだ」

 そう言って彼は地面に優しく下ろしてくれた。

 実に紳士的である。

「でも足を挫いてしまって……」

「そうか、じゃあここから動かないように。すぐ終わるからね」

 そういうと、彼は怪人の方を見る。

 だけど、彼の横顔も逆光で見えない。


「ほう、やってみるといい」

 逆光仮面が一歩前に出る。


「お前を殺して、その女も殺す」

 怪人も一歩前に出る。


「怪人、聞き忘れていたことがある。名前は?」

 近づきながら怪人に問う。


「俺は斧怪人オーノ。貴様を殺す名だ」

 両者がゆっくりと歩み寄り、徐々にスピードを上げていく。

 そしてすれ違う寸前に、光が彼から放たれる。


 私は眩い光に目が眩み、一瞬目をそらす。

 光が収まって、視線を戻すと両者はすでにすれ違っていた。

 どちらも動かない。

 どちらが勝ったのか?

 少しの静寂の後、オーノが膝をつく。


「くそ、目が、眩ま、なけ、れ、ば……」

 そして怪人オーノは目に倒れ込む。

 勝ったのは逆光仮面だった。


「今日も一つ悪が滅びた。ではお嬢さん、さらば――」

「待ってください」

 私は彼を引き留める。


 一瞬彼が驚いたような顔が見えたが、すぐに逆光で見えなくなる。

「ふむ、何かね?」

 彼は何事も無かったかのように私に歩み寄る。


「あの、私、ファンです。一緒に写真を撮ってください」

「いいとも。ファンサービスもヒーローの務め。スマホで撮るのかい?」

「いいえ、この私のカメラでお願いします」


 こうして私は持っていたカメラでツーショットを撮ったのだった。



 ☆ ☆ ☆


 私はジャーナリスト。

 真実を追い求めるのが仕事。

 あの場に怪人が出るかもしれないという情報があり、私はそこに派遣された。

 もちろん目的は逆光仮面だ

 そして情報通り、怪人は現れ、死にそうになりながらも、写真を撮ることができた。

 だが――


「やはり逆光か。最新型の逆光対応のカメラならあるいは、と思ったのだが」

 私が撮った写真を見た上司が呟く。

 写真の彼の顔は見事に逆光で映っていない。


「すいません」

 私は少しも悪いと思ってないが、とりあえず謝る。


「いいよ。期待してなかったから」

 その言い草にカチンとくる。

 ならお前が行けよ。

 こっちは死にそうになったんだぞ。


「じゃあ、次の取材に行ってこい。今度は書けるネタ取って来いよ」

「はい、行ってきます」

 こいつ、言い方もそうだが無駄に偉そうで嫌いなんだよな。

 怪我人だぞ、嘘でもいいから労われ。


 私は痛む足を庇いながら、地下駐車場に停めてある自分の車に乗り込む。

 そして周囲に誰もいないことを確認して、一枚の写真を取り出す。

 その写真は私と彼のツーショット写真。

 そして彼の顔がきれいに映ったものだった。


 そう、逆光対応カメラはちゃんと彼の顔を映していたのだ。

 上司に渡したものは、印刷する前にパソコンで加工した。

 推しとのツーショットだぞ。

 嫌いな上司に渡せるかよ。


 笑顔の私と、少しはにかんでいる彼。

 あんまり女性慣れしていないのかな?

 あんなに勇敢なのに、ちょっとおかしくて笑ってしまう。


「よし頑張ろう」

 その写真を見て気合を入れる。

 上司に腹が立つがそれはそれ。

 私は誰かの役に立ちたいからジャーナリストになったんだ。

 いつか私も彼のようなヒーローになるんだ。

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