寒さが身に染みて 2024/01/11

 学校からの帰り道。

 いつもは付き合っている彼女と帰るのだが、今日は一人で帰っている。

 今日、彼女と些細なことで喧嘩した。

 一応謝ったけど、なんとなく気まずくて、そのまま出てきた。


 強い風が吹いてきて、思わず体が震える。

 二人なら気にならない寒さも、さみしい独り身では寒さが身に染みる。

 付き合う前は、今年の冬がこんなに寒いとは気づかなかった。


 寂しい。

 そんな感情が頭を駆け巡る。

 失ってから気づくと言うが、今の自分には痛いほど分かった。


 明日彼女と仲直りしよう。

 ちゃんとはっきり言葉にして。


 そんなことを考えていると、突然後ろから抱きしめられる。

「コラ、なんで一人で帰るのさ」

 喧嘩したことなど忘れたかのように、明るい声で話しかけてくる。

 いや忘れてないからこそ、このノリか。


「ゴメン。忘れてた」

 自分も乗っかって、喧嘩したことなど忘れたように軽く返す。

 すると彼女は「ひどい」と連呼し始めた。

 彼女が「ひどい」と言うたびに耳に彼女の息がかかってこそばゆい。

 さてはわざとやっているな。


 けどそれとは別に、息が荒い気がする。

 もしかして……


「会いたくて走ってきたの?」

「違うよ。寒かったから体を暖めるために走ったの」

 言い訳が下手なことだ。


「君も寒いんじゃない。

 私はちょうど暖まってるから、熱を分けてあげよう。

 私の優しさに感謝しなさい」

 さっきより抱きしめる力が強くなる。

 気のせいかもしれないけれど、彼女の熱が自分の体に伝わってくる。


「もういいだろ。離れろ」

「もう寒くない?」

「ああ、寒くない」

 自分の言葉を聞くと、彼女は体を離して隣に立って、これ見よがしに手を出してくる。

「じゃあ、帰ろうか」


 手を繋ぐと暖かいものが、彼女の手から体の芯まで染み込んでくる。

 帰り道はもう寒くなかった。

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