Thy soccs
中田もな
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細々と燃える暖炉のそば。
妻はあかぎれの目立つ細い指で、いつも靴下を編んでいた。
「あなた。今回も良い出来だわ」
棒針を器用に動かし、つま先の部分を編んでいる。左の針に掛けた糸を、右の針に滑らせる。
それが済んだら、もう一度。同じ動きを繰り返す。
「ほら、見てくださいな。子ども用の靴下ですから、リボンなんかを付けてみましたの」
妻の仕事は、靴下を編むことだった。「靴下を編む」という内容なら、どんな粗悪な依頼でも引き受けていた。
「あら、いけない。もう、こんな時間だわ」
妻は窓の外を見て、慌ててこう呟いた。色々な靴下を作ってきた妻にも、楽しい時とそうでない時がある。中でも子ども用の靴下を作っている時は、楽しい部類に入るらしかった。
「待っていてくださいね。今、スープを温めますから」
いそいそと台所に入り、妻は鍋に火をつける。
ミルクスープと、硬いパン。それがいつもの食事だった。
「今日はあなたの弟さんも、一緒にお食事をなさるんですよね。多めに作っておいて、良かったわ」
戸棚からパンを取り出して、几帳面に切り分ける。私と弟の分は一切れ。妻の分は、その二分の一にも満たない薄さだった。
「さ、あなた。席について、お待ちなさいな」
自分のだからと、薄く、うすく。風が吹けば飛ばされてしまいそうなほど、薄くうすく──。
──この時から、私は決心したのだ。
妻がこれ以上、パンを薄く切らなくても良いように。
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