徒然なるままにブラウザに向かって

敷知遠江守

今でも尊敬している先輩

 皆さんには尊敬すべき仕事上の先輩っていますか?


 良くしてくれたから、いつも優しく接してくれたから、だから尊敬できる。

そんな先輩もいるでしょう。


 叱ってくれたから、みっちり指導してくれたから、だから尊敬できる。

そんな先輩もいるでしょう。


 私も幸運にもそんな先輩に何人も出会う事ができました。

また自分も他人に対しそんな先輩でありたいと思っていました。


 そんな中一人、今でも尊敬している先輩がいます。



 もう何年も昔のお話です。

その先輩は異動したく無いと思って移った部署で偶然異動してきた方でした。


 歳は父子くらい離れた方で、常に明るく、あまり怒ったところを見ない、そんな方でした。


 そんな年齢の方ですから暫くすると役職付きになりました。

上司ではなく主任という感じの役職です。


 私はお世辞にも素行が良かったとは言い難く、模範的な社員とはほど遠い勤務態度でした。

ただ仕事はそれなりに早く短期集中型という感じ。


 早く仕事ができるのだから人よりも多く仕事ができるはず、なのにやらない、さぼりがちな社員、そういう評判だったのだそうです。

仕事を一通り終え少し休憩していると、さぼるな、周りをよく見てみろ、そう言ってよく怒られていました。


 十分で終わる仕事を一時間かけるのが上手な手の抜き方だとアドバイスしてくれる人もいました。

ただどうにもそのような仕事のやり方ができず上司の評価は最低。

上司の評価で給料が決まる会社でしたので私の給料は低いままという感じでした。



 ある日、目を覚まして目覚まし時計が鳴っていないと気づきました。

感覚的にどう考えても寝すぎたと感じていましたし、外も明るすぎる。

時計を見ると出勤時間を一時間以上も過ぎていました。


 まずは連絡。

そう思って会社に電話しました。

電話に出たのはその先輩でした。


 素直に寝坊した事を伝え、今から出勤しますと伝えました。

それまでうんうんと相槌を打っていた先輩は不思議な事を聞いてきました。


「熱は計ったのか? 計ってないなら今すぐ計ってみなさい」


 意味がわからず体温を測ってみたのですが、当然平熱なわけです。

それをそのまま伝えました。


「ふむ。ちょっと熱があるな。疲れがたまっていたんだろう。念のため今日は休んだら良いよ。お大事にな」


 後から聞いたのですが、この時上司はカンカンに怒っていて、出勤したらただじゃおかないと息巻いていたのだそうです。



 私は勤務態度も悪かったのですが、それに輪をかけて運も悪かったのです。

夜勤業務があったのですが、よく私の勤務の時に限って大障害が起きる、そのせいで私との勤務を嫌がる同僚がでている。

そんな状況でした。


 別に誰の時に起こっても不思議じゃないのに私の時に限って発生する。

関係者の中には、私が何かミスをしたんじゃないのか、そう言ってくる人もいました。

何か致命的なミスを犯したのにそれを隠して報告しているんじゃないかと上司は言っていたそうです。

お祓いに行け、何度もそう言われましたし実際にお祓いにも行きました。


 そんなある日の事でした。

同僚の一人が私がいるのを見て今日は大障害起こさないでくれよなと、ちくりと言いました。

そんな事を言われても自分でどうにもできるわけもなく。


 結局その日も大障害が起こり勤務者は皆てんてこ舞いになりました。

その時の担当の主任がその先輩でした。


 何で私の時ばかりこんな事になるんでしょうねと、私はその先輩に愚痴りました。

すると先輩は、神様に認められているからだと言い出しました。


「誰かが必ず悪い事を引かないといけない。それは神様もわかっている。そんな時神様は、誰ならそれが対応可能か判断しているんだよ。君ならやれると思うから神様は君に委ねるんだ。もっと誇っていい事だぞ」


 もう十年以上も前に言われた事ですが私は未だにこの言葉が忘れられません。


 その先輩には子供が何人かいるのですが、そのうちの一人が先天的に疾患があるのだそうです。

その子の養育をめぐって夫婦でもかなり揉めたのだとか。

その時にお寺の住職さんから言われた事が先ほどの話なのだそうです。


「神様は、どうしても一定の確率で疾患を持った子を誕生させなければいけない。でもその子を処分されたら憐れすぎる。だから、どの夫婦ならこの子を無事育てられるか神様は見定めているんだ。君たち夫妻は、神様から君たちならと認められたという事だよ」



 色々あり、その先輩とは会う事もなくなってしまいましたが、先輩の言葉は今でも上手くいかない事が続いたりして心が病んだ時に、ふと思い出し慰めになっています。


 この話を読んだ方が私と同様に癒されてくれたら。

そう思ってこの先輩を紹介させていただきました。

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