4 資金繰り
「貸せないって、どういうことですか!」
陰陽銀行川渡支店の店内に、忠夫の怒声が響き渡る。担当の
「ちょっと、大きい声出さないでください。他のお客様に迷惑ですから」
忠夫も黒川の見る方に目を向け、さやを収めた。
「とにかく、仕入れ資金がないと商売出来ない、そうしたら収入だってなくなるんですよ」
「そうはいいましてもね、滞納分を返済いただかないことには、一円もお貸しすることが出来ないんですよ」
「いや、収入がないと返済も出来ませんから……」
「まだ在庫あるんじゃないですか。それを整理してみてはいかがですか」
黒川のいう通り、吉村家にはまだ売れ残り商品が多数あった。大きな売り上げを見込んで仕入れたものの、ライバル業者たちに遅れを取り、まだ充分な売り上げが出ない内にブームが過ぎてしまった。大量の不良在庫と大赤字を残す結果となってしまった。
(……こんな筈じゃなかったのにな)
忠夫は以前、商社で営業マンとして働き、そこそこ成果は上げていた。ところがリストラの憂き目にあい、職さがしもうまくいかず、何となく始めてみたネットビジネスが思いのほかうまくいった。やがて会社員時代の倍稼げるようになり、忠夫は調子づいた。
しかし取り扱い商品の幅を広げ過ぎて舵取りがうまくいかなくなり、損失を重ねるようになった。心機一転を見込んだ新商品も先述の通り。今では明日の生活費さえままならない状況となっている。
街を歩くと、サンタクロースの格好をした男がティッシュを配っていた。忠夫は知らず知らずのうちにサンタに近づいていた。
「……よろしくお願いします」
気がつくと忠夫はサンタからティッシュを受け取っていた。サンタの顔を覗き見ると、白い髭で老人風だが、どう見ても若い学生だった。
「なあサンタさんよ」
「……は?」
「サンタクロースって貧しい家にお金投げ込んだのが始まりなんだろ。じゃあ、おれにも金くれよ」
「……何いってんすか」
サンタに扮した若者は面倒くさそうに突き放そうとするが、忠夫はなおもからんだ。
「いや、くれなくてもいい。貸してくれればいいんだ。借金で首が回らなくて困ってんだよ」
サンタの若者は「チッ」と舌打ちし、「マジうぜぇ。勘弁してくれよ」と毒づいた。忠夫はカッとなり、殴りかかった。しかし若者にするりとよけられ、よろけた忠夫は転げるように倒れた。側頭部が地面に叩きつけられ、一瞬何がなんだかわからなくなった。
「いてて……」
起き上がってみると、さっきのサンタクロースはどこかに逃げていなくなっていた。
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