第25話 嘘1――は必ずしも悪とは限らない。って考えると
「そこまでだ」
瞬間、宇宙に生存するすべての生命の動きが停止した。時が止まったわけではない。すべての生命のが
やがてケイオスの目の前にどこか見覚えのある黒い球体が現れる。その球体は、ケイオスが右手に持っていたレイの魂をケイオスの右手ごと奪い取ると、ケイオスから少し離れた場所に移動し、ケイオスの右手からレイの魂を取り出してその場に解放、ケイオスの右手をポイッと捨てる。
すると今度は黒い球体がグネグネと粘土のように変形しだし、やがて一人の女性――リンネに変わった。
リンネは変形直後に「ふう」と一息つき、レイの魂を見る。
「本当に困った子だ」
まるで悪戯っ子をしかる母親のような表情でレイの魂を見るリンネ。
「私が現れなかったらどうするつもりだったんだい?」
魂だけのレイは答えない。
「まったく、まさか禁忌個体を利用して自身の不滅性を試そうだなんて、流石の私も呆れてものが言えないよ」
魂だけのレイは答えない。しかし、
「おい……コラ」
そいつは聞き捨てならないと、動かなかったケイオスがやっとの思いで口だけを動かす。
「禁忌個体っつーのは俺のことか?つーこたぁ管理者の野郎が俺を利用した?そりゃどういう意味だ。説明しろこの――」
「黙りなよ」
絶対零度の瞳と言葉がケイオスを貫いた。この時、ケイオスは生まれて初めて死の恐怖を感じた。リンネのその言葉、何よりもその冷たい瞳に強烈な恐怖を感じたのだ。
リンネは頭を掻きながら、面倒臭そうに、呟くように口を開いた。
「本当は禁忌個体が出現した段階でレイ君と一緒に
本当に難し~。イライラする~」
言ってリンネは宙を仰ぎ見ながらグシャグシャと頭を掻くが、やがてピタリと動きを止め、視線をレイの魂に移し「何よりも!!」と大声をあげる。
「レイ君、君ってもしかして他人がして欲しくないと思っていることを平気で出来る人間なのかな?それとも私がレイ君にそうして欲しいと望んでいるとでも思っているのかな?いいかいレイ君、いくら私でも自分のことを道具みたいに使う人間を見たら、それがもし自分に近しい人間だったら!!」
リンネはそう言い、
「悲しむんだよ。だからもっと自分を大切にしてくれよ」
絞り出すような、悲しみをおびた声でいう。
するとレイの魂がリンネの言葉に反応するように明滅し、
「ごめんなさい」
そう返した。それは近くで黙らされていたケイオスの耳にも届き、ケイオスはその目を見開いて驚愕の表情を見せる。
今彼の口が自由であったのならこう言っていただろう。「手前ぇなんで生きてやがる」そして、もしその問いがレイに届いていたならば、こう答えていただろう「死なないからです」と。
そして、レイは周囲のマナをかき集め、新たな体をものの数秒で再構築する。
レイは叱られた仔犬のような態度でリンネの前に立つ。するとリルネはレイの頭にポンっと手をのせて言う。
「反省はしているかい?」
「はい」
「もう二度とこんな真似はしないね?」
「はい」
「最後に、後悔はしているかい?」
「していません」
レイはリンネの瞳を真っ直ぐと、意志のある目で見つめ、リンネもまたレイの瞳を真っ直ぐと見つめ返していた。
やがてリンネがフッと微笑み、
「わかった許してあげよう」
「ありがとうございます」
そう言ってレイの無茶を許した。するとリンネは、
「それじゃあ攻守交代!」
そう言ってレイに再度微笑んだ。
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