第15話 警鐘――えまーじぇんしーこーる(青狸風)
ケイオスが『
すると、突然けたたましい警報音のような音が鳴り響き、それとともに管理ウィンドウがレイの眼前に出現した。
レイは初めて経験する事態に驚きつつも、取り乱す来なく冷静に管理者ウィンドウを確認する。すると、管理者ウィンドウに『禁忌個体が出現』と表示されている。しかし、レイにはそのことが一体何を表しているのかがわからない。
「リンネ!!説明――」
と、いつものようにリンネに説明を求めようとするが、ここは管理者部屋ではなくその外の宇宙。リンネは管理者部屋の住人だ。宇宙にはいない。それに気付いたレイはどうすればよいものかと迷いを抱く。するとそんなレイの様子を見ていたヴァリスが心配そうに語りかける。
「主様、ここは一旦座に戻り、リンネ殿に会われては?」
”座”とは『
レイはマナ生命体と接触してからこれまでの600年間、一度たりとも管理者部屋に戻ってはいなかった。『秩序』たちへの教育に必死であった。という理由もあるが、リンネと喧嘩別れのような形になってしまい、気まずくて帰れない、というのもその理由の一つであったことには間違いない。こういった場合怏々として仲直りは早ければ早いほど良い。時間が経過するにつれて、仲直りしずらくなる。今回のレイの場合は600年、もはやリンネとの仲直りは絶望的とも言えた。
「見たところ事態は急を要するようです。幸い、管理者ウィンドウで詳細の確認も出来ますし、3人寄れば文殊の知恵、ここには5人もいます。ここの方がよい案が出て対応も迅速にできるでしょう」
レイはそう笑顔で言うが、その笑顔にはどこか固さがあった。
「急がば回れって言葉もあんだろうがぁ。レイ、手前ぇ物事を計る天秤に余計なモンまで乗っけてねぇかぁ?もしそうなら、どんなに正確な天秤でも間違った方向に傾いちまうぜぇ」
ガヘリスの厳しい忠告に、レイは返す言葉が見つからない。しかし、
「ガッちゃんちょっとレー君に厳しすぎー。別にレー君の言ってることも間違っちゃいないでしょ」
「それはまぁ……そうだが」
メルリリスはレイを抱き寄せ、まるで外敵から我が子を守る母ゴリラの様にガヘリスのことを睨む。睨まれたガヘリスもメルリリスの言い分も一理あると感じ、強く言い返すことが出来ないでいた。
「まぁ俺もちょっと引っ掛かるとこがあったから言ったってだけだからなぁ。別にレイの案に文句があるってわけじゃねぇよぅ」
ひと悶着はあったものの、どうやら意見はまとまった。レイは早速管理者ウィンドウを操作し、禁忌個体の詳細を確認する。
「魂を、喰っただと」
レイの管理者ウィンドウを、横目で見ていたガヘリスが言い、一同に動揺の波が波紋のように広がる。
「しかもこいつ、今も魂を喰い続けてない!?レー君、魂の数、確認できるんでしょ」
メルリリスに言われてレイは管理者ウィンドウを操作し、『魂管理』の権能の詳細画面を表示させる。そこには現在レイが管理している魂の数が分数で表示されており、分母が魂の総数、分子が生命となっていない魂の数となっている。そして、レイが魂の総数を確認したところ、ゆっくりとではあるが確実にその数が減り続けていた。
「これは……」
ヴァリスが愕然とする。
「でも、魂を食べることに何の意味があるの?」
メルリリスが疑問を口にする。
「わからん。だが、今もなお魂の総数は減り続けている。ということは魂を喰っている奴にとって何らかのプラスの効果があったのだろう」
ヴァリスが考察し、それにガヘリスが「だろうな」と同意し、
「で、この禁忌犯しのクソ野郎はどこにいるんだ?」
と訊く
「ここからだとかなり遠い場所ですね……ここは!!」
レイが驚愕し、重く口を開く。
「例の星です」
「例の、というと500年前にメルリリスが調査をしに行った星ですか?」
「はい」
「それは……」
ヴァリスは500年前のやり取りを思い出す。あの時再調査をしていれば……そんな考えが生まれてくる。
「僕が今から調査してきます」
レイが焦ったように言う。
「それはなりません」
ヴァリスがきっぱりと断る。当然レイは不服に思い
「なぜです、これは僕の責任です!!僕があの時――」
「レイ様!!」
ヴァリスがレイの言葉を遮った。
「レイ様、我々は組織です。そしてあの時の判断は、経緯はどうあれ組織として下したものです。であればそこに個人の失敗などありません。これは組織の――我々『
「レー君、失敗がどうとか言ってるけど、本当は相手がどんな奴だかわからないから、私たちを行かせたくないだけでしょ」
メルリリスはレイを抱いたままの格好でそう指摘する。その声色にはレイに対する怒りや寂しさと言った感情が込められていた。
「まー
ガヘリスがそう言い「けどよ」と区切り
「どの世界に頭を威力偵察に使う組織があるんだっつう話だぁ」
と笑った。そしてヴァリスが
「レイ様は我等『秩序』にとって、象徴であると同時に、育ての親でもあるのです。それに先ほどレイ様はおっしゃったではありませんか、ここには5人もいる。と、そう我等を頼ってくださりました。ならば、この危険な橋、我等と共に渡りましょう。幸い我等は飛ぶことができます。たとえ橋が落ちたとしても生き残ることが出来ましょう」
そう言い、優しく微笑んだ。
「ん~30点」
「40点だろぉ」
「じゅってん」
レイとヴァリス以外の三人が口々に点数を付ける。勿論100点満点中だ。
ヴァリスはセリフの恥ずかしさも相まって、その顔を真っ赤に染めながら照れ隠しの抗議をする。
レイは心の底から嬉しいと思った。勇気を出して顕現してよかったと思った。みんなとならどんな困難も乗り越えられる。そう確信した。
「それで、結局どうするのだ」
まだ赤みの残る顔でヴァリスは言う。すると滅多に発言することのないミルストリスが「ん」と手を挙げた。
「なんだぁ、ミルストリス、監視してる『
普段発言することのないミルストリスが発言する時、それは良し悪しに関わらず何かが起こった時。それがこの場にいる者たち全員の共通認識であった。
「うごいてる」
ガヘリスがミルストリスの短い言葉から、その真意を読み取る。ミルストリスの部隊はレイの護衛という役目の他に諜報の役目をおっており、現在は『混沌』の監視を行っている。これをミルストリスの発言と合わせると自ずとその真意が判明する。
「どのくらいの数だぁ?」
「ぜんぶ」
ミルストリスの部隊による『混沌』への監視は500年前から続けてられており、今までの『混沌』の動きは逐一報告されていた、しかし、その報告では、集団化した『混沌』は、数十のグループに分かれ、それぞれの縄張りを持ち、他の縄張りを持つグループとは、相互不干渉の関係を保っているはずであった。そのため『秩序』からは脅威ではないものの監視の必要はあり。程度の認識を持たれていた。
しかし、ミルストリスからの報告では、監視を行っていた全てのグループが同時に動き出したことになる。つまり、
「してやられた。ということですね」
ヴァリスが悔しげに言う。
レイが管理者ウィンドウを見る。そこには禁忌を犯した大罪人の行動が逐一表示されていた。
大罪人はまっすぐと向かって来ていた。管理者レイ・アカシャのいる始まりの星へ。
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