第14話 禁忌――犯しおったであいつ。
―――500年後
場所は変わって、ここは常闇の星――ケイオスが生まれ落ちた星である。
その星でケイオスはある企みを秘密裏に進めていた。
ケイオスは常闇の星の地表にある大きな岩に腰を下ろし、右手で頬杖をつき、何かを思案しており、眼前に広がる闇をただただボーっと見つめ、時折左手に持っているバスケットボール大の何かを果実のように齧っている。そのバスケットボール大の何かはどうやらマナ生命体だったようで、今もケイオスの手から逃れようと必死に暴れているのだが、ケイオスの手の力があまりにも強く逃れることが出来ないでいた。
ケイオスがそうしていると、一人の少女型の『
その少女は黒色のメッシュが入った長い金髪をサイドテールにし、瞳の色は金色で、可愛らしい顔つきに肌の色は健康的な褐色。そしてその身には黒色のレザー生地のジャケットに、これまた黒色のレザー生地のショートパンツといった姿であった。
「ボッスー、ペインちゃんからの報告だよん。
「おう」
少女型の『混沌』――ペインからの報告を受け、企みが最終段階に入ったというのに、ケイオスはどこか心ここに無し、といった風で、マナ生命体を齧るその姿もどこか漫然としていた。
「ボッスー、計画も最終段階に入ったんだよ。なのになにボーっとアホ面さらしてんのさ」
ペインが宙に浮いた状態で、ケイオスを背面から抱く格好になる。両者とも顔が近いというのにそれを意識している様子はなく、ペインは妖艶に笑い、ケイオスはまだボーっと闇を見つめている。
「わかんねぇ」
「は?」
ペインはそのままの体制で真顔になる。
「だからわかんねぇんだよ。俺の計画は完璧、これなら行けるって思ったんだけどよー。急に何かが足りねぇなって」
「だから何が?」
ケイオスはマナ生命体を齧りながらペインのことをチラリと横目に見る。真顔だ、しかも若干怒り寄りの。
「だからわかんねぇって言ってんだろうが。何度も言わせんな」
そこでペインはケイオスの正面周り、腰を大きく曲げて目線の高さをケイオスに合わせる。
「まさか、今さら怖じ気づいたってわけじゃないんでしょ」
ペインの侮辱とも言える物言いにもケイオスは怒った様子はなく、宙を仰ぎ見て「はっ!」と鼻で嗤う
「この俺がそんなタマに見えるか?」
「見えない。ボッスーはどっちかってゆーと、大一番を前にしたらヤル気全快テンアゲマックスになるタイプだもんね」
「おう……つーか何だボッスーってのは!!舐めてんのか手前ぇ!!」
「いや、なんかボスって素直にゆーのも癪だなって……何?ボッスー実はパパって呼ばれたいとか?うわっボッスーキモーイ」
実のところ、ペインはケイオスのマナを基に生み出されたマナ生命体で、言ってしまえばケイオスとペインは親子の関係にあたり、ケイオスはペインにとってどちらかと言えば母と呼ぶのが正しいのではあるが。彼らの関係を鑑みるに眷族と呼ぶのが正しいだろう。
また、ケイオスはこの計画のために、ペインの他にも多数の眷族を生み出しており、各個体それぞれに役割を持たせてこの計画の遂行にあたっていた。
「勝手な想像で勝手にきもちわるがってんじゃねぇ!!○すぞボケ!!」
「うっわ、実の娘に○すとか、ホントあり得ない。引くわー」
因みにケイオスがペインに与えた役目とは右腕、側近、側仕え。要するにNo2である。
「勝手に引いてろ!――クソ、なに考えてのか完全に忘れちまったじゃねえか」
言ってケイオスは右手に掴んだマナ生命体の最期の一口を齧る。そして煙草の煙を吹かすように魂を吐き出し、何の気なしにその魂に注目し、
「何でだ」
と疑問を口にする。
「今度は何?」
ペインが呆れ顔で訊き返すがケイオスは答えない。考え事に夢中になっている。
ケイオスは考える。何で
そしてケイオスは輪廻の環に還ろうとする魂をその手に掴む。
「何、ボッスー、魂なんか捕まえて」
ケイオスは魂を見る。そしてペインに訊く。
「おいペイン」
「ん?」
ペインは気の抜けた返事をする。
「お前、魂を喰った奴って知ってるか?」
「知らない。てゆーか喰えんの?それ」
ケイオスは嗤う、邪悪に、喜びに満ちた顔で
「って、まさかボッス――」
ケイオスは魂を喰らう、とたんに激しい吐き気がケイオスを襲う。ケイオス必死に吐き気を我慢する。
「ちょ、大丈夫なのボス!ボス!!」
ペインはケイオスの変調に動揺し、心配になり声をかける。しかしケイオスはそれどころではない様子で、必死に魂を飲み込もうとし、無理矢理飲み込んだ。
次の瞬間、ケイオスは地面に倒れ、苦しみにのたうち回る。
ペインはその様子をどうしようもなくただただ見守るのみ。いや、もしかすれば棚ぼたでNo.1の座ゲット!?とか思ってもいた。
この時、ケイオスの体内ではケイオスの魂と喰われたマナ生命体の魂の二つの魂が戦っていた。しかし、戦いの場はケイオスの体内。つまり地の利はケイオスの魂にあり。奮闘むなしくマナ生命体の魂はケイオスの魂に喰われ、一つに混ざり合う。
ケイオスは倒れ伏しながらも嗤う。やっぱりだと、こんなところにあったのかと、まさかこんなにも簡単なことだったのかと……
「ちょっとボスおかしくなっちゃったの!?魂なんか食べるからだよー」
「違ぇよ……逆だ」
ケイオスはユラリと幽鬼のように立ち上がる。
「なんだボッスー大丈夫そ――」
ペインは気が付く、ケイオスの変化に。マナの保有量にさほど変化はない、むしろ魂を喰らった影響か減っているようにさえ見える。違うのは存在としての格だ。明らかに先ほどまでとは違う。存在感という曖昧なものをはっきりと、目に見えるのではないかと言う程に感じる。
「おいペイン」
「ひゃい!!」
ケイオスの呼びかけに思わず直立不動で応じるペイン。
「あとどんくらい
「100はあったかと……」
「持ってこさせろ」
「え?」
「全部持ってこさせろって言ったんだ!!」
「はい!!ただいまー」
ただならぬケイオスの雰囲気に、急いで立ち去ろうとするペイン。だがケイオスは「待て」とペインを呼び止め、変なタイミングで呼び止められたペインは変なポーズで固まってしまう。
「
万が一の災害が禁忌を犯した。犯した禁忌は到底あがなえるものではない。
果たして管理者レイ・アカシャはこの罪人を裁くことが出来るのか。衝突の時は目前に迫っていた。
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