第六百二話 両親のお墓へ

 僕たちは、教会の治療施設を出て教会裏手の共同墓地に向かいました。

 たくさんのお墓が並ぶ中、一つのちょっと大きいお墓の前に案内されました。


「いわゆる、無縁墓地というものじゃ。身元不明のものだったり、犯罪者が刑死したものが埋葬される。レオ君のご両親は刑死に当たるので、ここに埋葬されているのじゃ」


 シルバ司祭様が説明してくれたけど、両親は刑期が終わる前に亡くなっている。

 そして、元々住んでいた村も廃墟同然となっていた。

 なので、両親が共同墓地に埋葬されたのは必然だったのだろう。

 僕は膝をついて手を組み、両親に祈りを捧げた。

 最後まで反省せずに逆に僕のせいにしていたので、複雑な気持ちなのは確かだ。

 それでも、僕を産んでくれたのは間違いないので、そこは感謝しないとと思った。

 暫くの静寂の後、僕はおもむろに立ち上がった。

 そして、少し目をつぶって気持ちを整理してから振り返った。


「シルバ司祭様、色々とありがとうございます。多分まだ気持ちの整理がつかないと思いますが、これで大丈夫です」

「うむ、それでよい。無理に気持ちの整理をつける必要はない。徐々に気持ちを落ち着かせればよいのじゃ」


 シルバ司祭様だけでなく、この場に集まっている全ての人がこくりと頷いてくれました。

 僕は一人じゃないと、心強く思いました。

 さあ、まだまだ仕事があるぞと思いました。

 僕たちは、再び治療施設に戻りました。


「じゃあ、シロちゃん、ピーちゃん、偵察宜しくね。無理をしちゃ駄目だよ」

「ピィ!」


 ここからは、森に向かうシロちゃんとピーちゃんと一旦分かれます。

 シロちゃんも触手をふりふりしてからピィちゃんの背中に乗り、二匹は森へ向かって行きました。

 まあ、ゴブリンキングやオークキングがたくさん出ない限り、二匹が勝てないものはいないだろうね。

 何か良い情報が見つかればいいなと思いつつ、僕たちは治療施設の中に入って行きました。


「やっぱり、レオ君の魔法は本当に上達したわ。効率よく魔法を扱えるようになっているわね」


 僕がどんどんと大部屋にいる人を治療をしていくと、僕の後ろからセレンお姉さんが感心したように話しかけてきました。

 僕にとって魔法の師匠はセレンお姉さんだから、褒められるのってとっても嬉しいね。

 ユキちゃんもとても頑張って治療しているので、ナナリーお姉さんとカエラお姉さんも思わずニンマリとしていました。

 というか、骨折くらいの人が多かったから、大部屋にいる人も二時間くらいで全員治療しちゃいました。

 中には僕のことを知っている人もいて、ちょっと昔話で盛り上がっちゃったりしました。


「うーん、レオ君がパワーアップし過ぎて、まさか半日で全員の治療を終えるとは思わなかったぞ」

「ですよね。私も、ちょっとびっくりしました」


 シルバ司祭様とセレンお姉さん曰く、大部屋の一室でも治療できればって思っていたみたいです。

 僕としては、できることなら全部やっちゃった方がいいと思ったんだよね。


「でも、病室の入れ替えや退院手続きとかがあるから、また直ぐに治療って訳にはいかないですよね」

「レオ君は、そういうことも把握しておるのか。ここまでやってくれたのなら、町の人も安心するものだ」


 シルバ司祭様が凄く感謝してくれたけど、このあとも無料治療する機会があるからもっと町の人を治療できる。

 きっと、その時も昔話で盛り上がりそうだなと思っちゃいました。

 でも、実はまだ魔力が余っていたりして。

 まだまだ治療できるって思っていたら、僕たちのところに一人のシスターが駆け寄ってきました。

 何だか、酷く焦っていますね。


「し、司祭様、あの、腕を怪我した子どもが運ばれてきまして……」

「なんと、それはいけない。レオ君も来てくれ」


 まさかの急患発生です。

 僕たちは、急いで教会の中に入って行きました。

 すると、教会の長椅子のところに大泣きしている小さな男の子とかなり不安そうにしているお母さんの姿がありました。

 僕は急いで親子の元に向かいました。


「あーん! いたいー!」

「ちょっと我慢してね」


 僕は、男の子に声をかけながら軽く魔力を流しました。

 うーん、これは……


「右の手首が腫れていますけど、骨折しちゃっていますね」

「そ、そんな。息子が転んだ時に不自然に手をついてしまって……」

「いたいよー!」


 理由も分かったところで、僕は魔力を溜め始めました。

 このくらいの骨折なら、直ぐに治療できますね。


 シュイン、ぴかー!


「あ、あれ? いたくない!」

「ああ、あんなに腫れていた手首が元通りに。本当にありがとうございます」


 涙目ながらも元気になった男の子を抱きながら、お母さんは僕に何回もお礼をしてきました。

 そして、二人とも笑顔で教会を後にしました。

 うん、元気になって本当に良かったね。


「ふふ、凄くなってもやっぱりレオ君は優しいレオ君のままね」

「本当にそうじゃのう。だからこそ、皆に愛される存在なのじゃろう」


 セレンお姉さんとシルバ司祭様が、にこりとしながら僕を褒めてくれました。

 僕としては、ナナリーお姉さんとカエラお姉さんがよくやったとちょっと強めに頭を撫でていたので、それを止めて欲しいなあと思いました。

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