第五百六十八話 謁見と法衣男爵
「皆さま、謁見の準備が整いました。謁見の間に移動をお願いします」
暫くみんなと話をしていたら、係の人が声をかけてきた。
いよいよということなのだけど、実は謁見の間に行くのは僕とアイリーンさんたち治療班と貴族当主のみだそうです。
軍人はって思ったけど、先に王都に帰った軍人と同じ勲章受賞なので後で軍の基地で渡すそうです。
「じゃあ、行ってくるね」
「「いってらっしゃーい」」
「アオン!」
僕は、クリスちゃんたちに手を振って他の人たちと一緒に移動を始めました。
すると、アイリーンさんが僕にニコニコしながら話しかけてきました。
「クリスちゃんとマヤちゃん、とっても可愛らしかったわね。もう、レオ君に会えて嬉しいっていうのが溢れていたわ」
「うんうん、見ていてこっちまでほっこりしたわ」
ケイトさんも一緒にニコニコしていたけど、よく考えるとクリスちゃんたちと一年近く会っていなかったんだよね。
他にも色々と歩きながら話をしていると、あっという間に謁見の間の前に到着しました。
謁見の間に入ると、陛下と大物貴族が前方にスタンバイしていました。
周囲には絨毯で左右に分かれながら、貴族と関係者が集まっていました。
うーん、なんだか一部の人が僕を睨んでいる気がするよ……
そんな中、ブラウニー伯爵は自分の立ち位置に向かい、僕たちは絨毯の切れ目で止まって膝をついて頭を下げました。
「一同、表を上げよ」
陛下の言葉で顔を上げ、いよいよ謁見が始まりました。
最初に、僕以外の治療班の表彰から始まりました。
「此度は、帝国との戦闘という難しい事態を解決に導くことができ、余も胸を撫で下ろしている。大規模な戦闘に発展した場合、被害も戦費もどれだけのものになるか想像がつかなかっただろう。そのような状況において、特別治療班は献身的に兵の治療を行うばかりか様々な状況の改善を行い戦況を有利に進めることに大きく寄与した」
陛下が僕たちが何をしたかを改めて話すと、貴族から大きな拍手が起きた。
そして、宰相であるチャーリーさんが一歩前に出ました。
「特別治療班の功績は、誠に大である。よって、アイリーン・ノーヴェを騎士爵から準男爵へ陞爵とし、他のものに騎士爵を叙爵する」
「「「光栄に存じます」」」
おお、初めて知ったけどアイリーンさんて騎士爵を持っていたんだ。
でも、宮廷魔導師だし全然おかしくないよね。
順に、係の人がそれぞれの爵位の証を配りました。
そして、いよいよ僕の番がやってきました。
「そして、レオ騎士爵は戦闘を有利に進める数々の功績を打ち立てた。治療はもちろんのこと、壊れた陣地の修繕に使うものの製造、従魔と連携した夜襲の撃退、更には自ら身体能力強化魔法を使用して兵を鍛え上げたのだ。特に、夜襲はその全てを防ぐことに成功した」
「「「おおー」」」
チャーリーさんが僕が何をしたのかを説明すると、貴族から大きな歓声が上がった。
ちなみに、シロちゃんとピーちゃんの偵察の件は軍事機密に入るそうなので、関係者以外口外厳禁となった。
それでも、これだけの功績を上げることは凄いことだそうです。
「レオ騎士爵を法衣男爵に陞爵とし、国を導くものの意味を持つ『ポラリス』の家名を与える」
「「「おおー!」」」
チャーリーさんの僕の褒賞に対する説明がされると、今日一番の歓声が謁見の間に響き渡った。
僕だって、まさか男爵になるなんてびっくり仰天です。
そして、男爵の証である豪華な短剣を係の人から受け取ろうとした、まさにその時でした。
「陛下、なぜこのような子どもに法衣爵位を授けなければならないのですか!」
急に貴族が集まっているところから、一人の太った中年男性の貴族が前に歩みでました。
そして、僕のことをギロリと睨みつけてきました。
僕的にはエラさんが怒った方がもっと怖かったので、中年男性の睨みは全然平気だったよ。
うーん、初めて見た貴族だから誰だかさっぱり分からないよ。
すると、陛下が超不機嫌な表情をしながらおもむろに立ち上がりました。
「オバカ子爵、貴様は帝国の回しものか?」
「はっ?」
「余は、貴様が帝国の回しものかと聞いているのだ。帝国の脅威から国を救ったものに対しての褒美に口を出すのだ、貴様の行動がどういう意味を持っているか分かるな」
「はっ?」
謁見の間が静まり返っているのもあり、オバカ子爵の間抜けな声がよく響いていました。
うーん、このオバカ子爵は陛下の言っている意味が全く理解できていないみたいです。
下手をすると、この行動は国家反逆罪に取られても仕方ないですよね。
僕は、前にもこんなことがあったなあって、そんなことを思いました。
そして、さささと近衛騎士がオバカ子爵の周りに集まりました。
「オバカ子爵を連行せよ、厳しい尋問を行うのだ」
「「「はっ」」」
「がっ、お前ら何をする。俺は、オバカ子爵様だぞ!」
オバカ子爵が大声で喚き散らすけど、近衛騎士は無視して強引に連行して行きました。
うーん、完全に場が白けちゃったよ。
その間に、僕は係の人から子爵の証の短剣を受け取りました。
そして陛下が静かに、でも明らかに怒りをはらんだ口調で話し始めました。
「勘違いしているものがいるようだな。本謁見は、いわば国威発揚の意味も含んでいる。国内の話ではない、帝国が相手にいるのだ。だからこそ何でも意見をすれば良いわけではない、そのくらい分かるものだと思っていたがそれすら分からないものがいたとは本当に残念でならない。更に愚かなことをした場合、厳しく対応する」
こう言い残し、陛下は閣僚を引き連れて袖口から退場していった。
そして謁見は終わったのだけど、主に軍人貴族がある貴族集団を取り囲んでいた。
「分かっているな。お前らが誰を敵にしたかを」
「レオや俺たち軍ではない。王国を、そして王国民を敵に回したのだぞ」
「今日の謁見の件は、直ぐに国中に流れるだろう。それがどう意味を持つか理解することだ」
「「「ぐっ……」」」
ナンシー侯爵、ブラウニー伯爵、そしてマイスター師団長さんのとても怖い声が聞こえてきた。
多くの軍人貴族に囲まれながらも、中にいる貴族が悔しがっているようにも聞こえた。
大柄な軍人に囲まれているので中にいる貴族の姿が全く見えないでいたけど、今のうちってことでアイリーンさんたちと一緒に元いた部屋に移動したのだった。
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