第四百九十一話 ちょっと肩に力が入りすぎ
その後は、普通に訓練が始まりました。
魔法兵も、さっきの男性の暴走があったのが大きいのか、全員真剣にアイリーンさんの話を聞いていました。
「ブランドルさんは、どうして訓練所に顔を出したんですか?」
「元々、新人兵の訓練に顔を出す予定だったぞ。執務も普通に終わったから、予定よりも少し早く訓練所に来たんだよ」
ブランドルさんは軍務大臣だから、元々新人兵の訓練の視察予定だったんだ。
そして、あの男性の暴走に出くわしたんだ。
「たまにいるんだよなあ。自分は強いと勘違いして、所構わず暴走する馬鹿が。適性検査で魔法の才能が分かっても、そこから努力しないとならない。奴は、そこを勘違いしていた」
「自分の強さを、正しく把握しないと駄目ですよね。僕なんか、バッツさんにもアイリーンさんにも勝てないへたっぴな魔法使いですし」
「レオ君の場合は、少し謙遜しすぎだ。レオ君で弱いなら、殆どの兵は弱いことになる。魔導師資格を持つものは、それほど強いのだよ」
ブランドルさんは思わず苦笑するけど、上には上がいるってことは僕自身が良く知っているんだよなあ。
僕の場合は、まだ体が小さいのもあるけど。
ご飯をいっぱい食べて、体を大きくしないとね。
「しかし、ああいう馬鹿が現れないように、新人兵の適性検査をもう少し厳格にしないと。自惚れたものは、軍に限らずどんな職業でも失敗するぞ」
「確かに、冒険者にも自信過剰な行動をして失敗した人がいました」
「そういうことだ。まあ、本性を隠していると、見分けるのは難しいがな」
頭をぽりぽりとかきながらそう言うと、ブランドルさんはバッツさんが指導している方に向かっていきました。
偉い人は、スケジュールが詰まっていて大変ですね。
僕もアイリーンさんの側に行って、色々とお手伝いをします。
新人の魔法兵は適性検査で魔法使いだと分かった人が殆どで、訓練から始める人が多かった。
そんな中、一人だけ前から魔法使いだと分かっていた人がいました。
「よろしくお願いします!」
とっても元気な男性で、名前をマキシムさんといいます。
十二歳の男性で、濃い青の短髪で筋肉も程よくついていました。
使える魔法は水魔法と回復魔法で、スカラさんも治療班に入れたい存在だそうです。
シロちゃんとユキちゃんも、一緒に教える気満々です。
「じゃあ、最初に一緒に手を繋いで魔力循環を行いましょう。マキシムさんの魔力循環がどのくらい出来ているか、一緒に確認します」
「はい!」
何というか、マキシムさんは髪色と違って熱血漢って感じです。
ではでは、さっそく手を繋ぎましょう。
シュイン、シュイン。
「そうそう、良い感じですよ。頭の先からつま先まで、全身を意識して魔力循環を行いましょう」
「はっ、はい!」
マキシムさんは何とか頑張って魔力循環を行っているけど、まだ体に力を込めていますね。
もう少しリラックスして、魔力循環を行わないと駄目ですね。
僕の次にシロちゃん、ユキちゃんと交代して魔力循環を行うけど、まだ体が固いです。
「うーん、ちょっと肩に力が入りすぎです。無理矢理魔力を流そうとしないで、水が流れる様に自然な感じで魔力循環を行いましょう」
「はあはあはあ、はっ、はい……」
あらら、マキシムさんは力を込めすぎちゃったので結構疲れちゃいました。
やる気があるのはいいんだけど、無理はしない方が良いですね。
では、次の訓練を行いましょう。
「今度は、魔力玉を発生させて大きくしたり小さくしたりする訓練です。肩の力を抜いて、リラックスした状態で行いましょう」
「はっ、はい!」
「あっ、ストップ、マキシムさんストップです!」
ああああ、またマキシムさんの肩に力が入っちゃった。
僕は、慌ててマキシムさんを止めました。
「一回、座って目を瞑って深呼吸しましょう。肩を少し動かして、ほぐしてみるのも良いですよ」
「分かりました、やってみます」
マキシムさんは、胡坐をかいて目を閉じています。
うーん、何というか常に全力疾走って感じですね。
今も、まだリラックスできていない感じです。
「レオ君、苦戦しているみたいだね」
「魔力量は良い物を持っているんですけど、何というか訓練以前の問題が出ていまして……」
アイリーンさんも、思わず苦笑しながら話しかけてきました。
どうも熱心な性格っていうのもあるので、なんにでも力が入るみたいです。
すると、アイリーンさんはスカラさんを呼び寄せました。
一体何をするのかなと思っていたら、特に難しいことではありませんでした。
「レオ君、午後は回復魔法が使える面々と一緒に軍の治療施設で実践形式の治療を行いましょう。もちろん、マキシムも連れてね」
ということで、午後のメニューも決まりました。
さてさて、治療は上手くいくのでしょうか。
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