第四百四十四話 無料治療を始めます
「うが、があ……」
「しっかりしろ! もう直ぐ治療が受けられるぞ」
「頑張れ! 気をしっかりと持て!」
担架に乗せられた親方さんはスキンヘッドでもじゃもじゃの髭をたくわえているけど、右腕が痛々しい程にぐちゃりと押しつぶされていた。
激痛の為なのか親方さんは意識が朦朧としていて、聖騎士の掛け声にもまともに答えられていなかった。
これは直ぐに治療をしてあげないと。
僕は親方さんの側に駆け寄って、シロちゃんと共に直ぐに魔力を溜め始めました。
シュイン、シュイン、シュイン。
「シロちゃん、親方さんの為に頑張るよ!」
シロちゃんもこくりと頷きました。
そして、僕はシロちゃんと共に一気に魔力を開放しました。
シュイーン、ぴかー!
「おお、すげー。親方の腕が治っていく!」
「これが黒髪の天使様の力なのか」
僕とシロちゃんの回復魔法で親方さんの腕が治っていくと、職人さんがビックリした様子で親方さんを見つめていました。
腕の再生ほど魔力を消費していなかったけど、お腹も悪かったから親方さんお酒を飲み過ぎているのかな。
ともあれ、無事に親方さんの治療は完了です。
親方さんは治療の反動もあってか、すやすやではなくグーグーと寝ています。
「これで腕は大丈夫です。お腹も悪かったけど、一緒に治療しました」
「本当にありがとう。しかし、本当に凄い魔法だな」
「こんな大怪我が一瞬にして治っちまうんだ。黒髪の天使様の名は伊達じゃないな」
「わわっ!」
安心した職人さんが次々に僕の頭を撫でてきますが、力が強いのか髪の毛がぼさぼさになっちゃいました。
直ぐにジェシカさんが、乱れた髪の毛をパパッと直してくれました。
怪我をしていた人たちは、教会の治療施設に運ばれました。
大怪我をした直後なので、一日様子をみるそうです。
ホッと一安心したと思ったら、僕の背後から教皇猊下が声をかけてきました。
「うむ、噂に聞いていたが手際よい治療だ。それに、笑顔で治療するのが良いな」
「元気になってくれると、自然と笑顔になっちゃうんです。やっぱり、健康な方が良いですよね」
「ははは、そういう事か。確かに、元気になれば治療した方も嬉しいものだな」
教皇猊下は、とっても豪快に笑いながら僕の頭を撫でてから教会内に戻りました。
でも教皇猊下も力いっぱい撫でて髪の毛がぼさぼさになっちゃったので、またもやジェシカさんが髪の毛を整えてくれました。
よーし、無事に緊急の治療は終わったし、この後は頑張って無料治療をやるぞ。
僕とシロちゃん、それにユキちゃんとジェシカさんは、既に用意されている椅子に座りました。
すると、シスターさんが慌てて僕のところにやってきました。
「く、黒髪の天使様、重傷者を治療したばかりです。ご無理をなさらないで下さいませ」
「全然大丈夫ですよ。僕一人で、百人近く治療する時もありましたから。でも、時々休憩は入れますね」
「お願いします。いま、飲み物を持ってきますわ」
シスターさんは、僕が無理をしているんじゃないかと心配してくれたみたいです。
でも、今の僕にはシロちゃんユキちゃんという凄い治癒士もいるし、ジェシカさんもいるもんね。
ではでは、さっそく治療を始めます。
一番乗りは、教会内にもいたという杖をついてあるいているおばあさんです。
「膝だけでなく、腰と肩も良くないですね。直ぐに治療しますよ」
「おやまあ、そこまで分かってしまうのかい? 流石だねえ」
僕が体の悪いところを当てるとおばあさんは感心したように話をするけど、本番はこれからだよ。
シュイン、ぴかー。
「ふう、どうですか? これで、良くなったはずですよ」
「こりゃたまげた。杖なしで歩けるよ!」
おばあさんが興奮しながら杖を使わないで歩き出したけど、興奮しすぎで心臓が止まらないようにね。
そして、おばあさんがとっても元気になったら、列に並んでいる人がざわざわとし始めました。
中には奇跡が起きたと言っている人もいるけど、普通に治療しただけですよ。
こんな感じで、どんどんと治療を進めていきます。
大体三十人ほど治療したところで、僕たちに追加の飲み物を持ってきてくれた人がいました。
「黒髪の天使様、飲み物をお持ちしました」
なんと、飲み物を持ってきた女性は、あの四人の一人である水色のショートカットの女性でした。
何だか女性の表情が固いけど、とりあえず飲み物を飲もうっと。
シロちゃん、ユキちゃんとジェシカさんも女性から飲み物を受け取りました。
ジェシカさんは少し遠慮していたけど、女性が押し切りました。
ここで、ちょっと気になった事が。
「あの、一緒にいた他の三名はどうしたんですか?」
「その、本日は帰られました……」
えー!
この女性一人にして、他の三人は屋敷に帰っちゃったんだ。
うーん、これは本当に何かありそうです。
そして、女性が帰り際に僕にとあることを言ってきました。
「その、申し訳ございませんが、奉仕活動が終わりましたら少しお時間を頂けますでしょうか?」
「えっ、全然大丈夫ですよ。今日は、奉仕活動しか予定を入れていませんので」
「ありがとうございます。それでは、教会内でお待ちしております」
そう言って、女性は教会内に戻っていきました。
きっと、何か事情があるんですね。
でも、今の僕は目の前に並んでいる町の人の治療に専念しないと。
僕は、コップに入ったジュースをぐいっと飲み干して、再び治療を再開しました。
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