第四百十七話 僕は一人じゃない
そして、夕食が出来たというので、僕たちは大きな食堂に移動しました。
うん、凄いとしか言いようがありません。
食堂の広さもそうですけど、とっても大きくて長いテーブルがどーんと置かれていました。
椅子にも彫刻が施されていて、高級感があふれ出ています。
僕はクリスちゃんに手を引かれて、クリスちゃんの隣の席に座ります。
シロちゃんとユキちゃんも、僕の隣の席につきました。
既に、ギルバートさんとターニャさんも席に座っていて、モニカさん、ウェンディさん、アレックスさんもそれぞれ席に座りました。
「全員揃ったみたいだな。食事を用意するから待っていてくれ」
ギルバートさんが話し出すと、次々と侍従さんが料理を運んできました。
今まで見た事のない豪華な料理に、僕はもちろんシロちゃんとユキちゃんも驚いています。
全ての料理が並び、グラスに飲み物が注がれました。
「では、乾杯としよう。今日はクリスの命を救ってくれたレオ君を迎えての夕食だ。レオ君も存分に楽しんでくれ。それでは、乾杯!」
「「「乾杯」」」
「かんぱーい!」
ギルバードさんの音頭で、僕たちは食事を食べ始めました。
うん、凄い。
今までで一番美味しい食事だ。
お肉もとっても柔らかくて、直ぐに噛みきれます。
凄いという言葉しか出てきません。
「おにいさま、とっても美味しいね!」
「アオン!」
クリスちゃんもユキちゃんも、美味しい食事に凄く満足しています。
シロちゃんも、どんどんと食べていますね。
「ユキちゃん、口の周りが汚れてるよ。拭いてあげるね」
「アオン」
「おにいさま、クリスも拭いて!」
何だか両側からリクエストが来ているので、意外と大変です。
そんな僕の様子を、みんなが微笑ましく見ていました。
そして、夕食も終盤に差し掛かった時、ちょっとした事件が起きました。
「そういえば、おにいさまの誕生日っていつなの?」
ジュースを飲みながら、クリスちゃんが何気なく聞いてきました。
その質問を聞いた時、僕の心臓が早くなるのを感じました。
僕は、思わず下を向いてしまいました。
「その、実は、今日、誕生日……」
「おー、おにいさまおめでとう!」
「アオン!」
クリスちゃんとユキちゃんが僕に向けて拍手をしているけど、他の人たちとシロちゃんは僕が落ち込んでいるのをかなり気にしていました。
今年で七歳になったけど、三年前の今日、僕は……
そんな僕に、ギルバードさんが優しく話しかけてくれました。
「レオ君、三年前の誕生日に両親がレオ君を売ったのだから、誕生日が嫌いになっているんだね」
僕は、ギルバードさんの話にこくりと頷きました。
未だに忘れられないあの日の出来事は、僕の脳裏に深く刻まれています。
シロちゃんが僕の肩に飛び乗ってきて、ちょんちょんと触手で優しく撫でてくれました。
すると、クリスちゃんが僕にこんな事を言ってきました。
「おにいさま、大丈夫だよ。これから誕生日に楽しい事をすれば、良い思い出になるよ!」
僕はクリスちゃんの話を聞いて、思わず顔をあげてハッとしちゃいました。
そして、クリスちゃんは僕にニコニコと笑いかけていました。
良い思い出を積み上げれば、辛い記憶も上書きされるなんて考えた事もなっかった。
「ふふ、クリスは良い事を言ったわね。それにレオ君もまだ小さい子どもなのだから、私たち大人が様子を見てあげないといけないわね」
「ええ、その通りですわ。レオ君の心が少しでも良い方向に向かう様にしてあげないといけませんわね」
モニカさんもターニャさんも、僕にニコリとして話しかけてくれました。
そして、ギルバートさんが僕に話しかけます。
「レオ君を、今まで多くの人が支えている。もちろん、私たちもレオ君を支える。もしかしたらレオ君は家族がいなくて一人かも知れないけど、決して一人だけではない。だから、心配しなくても大丈夫だよ」
「クリスがいるから、大丈夫だよ!」
ギルバードさん、そしてクリスちゃんが僕に話した瞬間、僕の目から涙が溢れてきました。
いくら服の袖で拭いても、涙が止まりません。
すると、ターニャさんが僕のところにやってきて優しく抱きしめてくれました。
「レオ君、泣きたい時は泣いて良いのよ。大丈夫、レオ君は一人ではないわ」
「おにいさま、クリスが頭を撫でてあげるね」
「ひっぐ、うぐ、うう……」
僕は、暫くの間ターニャさんに抱きしめられながら涙が止まりませんでした。
クリスちゃんも、僕の頭をずっと撫でてくれました。
そんな僕の事を、他の人も温かく見てくれました。
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