第三百六十二話 オリガさんの秘密

 冬になって寒くなっても、僕は安息日には薬草採取をしています。

 造船場での作業をずっと続けていたから、薬草採取をしていると冒険者活動をしている気持ちになれるね。


「よしっ、沢山採れたからこの辺にしておこう」


 シロちゃんと一緒に、防壁の門の前の原っぱで沢山の薬草と毒消し草を採りました。

 今日は、午後から沢山のポーションと毒消しポーションを作る予定です。

 最近あんまりポーションを作っていなかったので、特に毒消しポーションの在庫が不足ぎみなんだよね。

 午後の予定を立てながら宿に戻ると、ちょうど昼食ができていました。

 そのまま昼食を食べていると、ダリアさんが僕に質問をしてきました。


「レオ君は回復魔法が使えるのに、何でわざわざポーションを作っているの?」


 どうも、魔法使いなのにポーションを作っているのが不思議みたいです。

 薬草の採り方とポーション作りを教えた時は新しい事を覚える楽しさがあったみたいなんだけど、慣れてきたのもあってふと思ったみたいです。


「前にゴブリンの群れと戦った時に、魔力が尽きて治療できない時があったんです。その時は、怪我した人を手持ちのポーションで治療しました。あと、単純にポーション作りが好きなんです」

「そっか、レオ君も魔力が無くなると普通の小さい男の子になっちゃうもんね。そういう時に、ポーションを持っていると確かに役に立つわね」


 ゴブリンの群れと戦った時はシロちゃんも回復魔法が使えなかったから、魔法袋にポーションが入っていないと怪我人の治療ができなかった。

 それに、ポーションなら僕やシロちゃんじゃなくても怪我人の治療ができます。

 だから、僕とシロちゃんは常にポーションをある程度持っています。


「レオ君はゴブリンやオークを倒していたって、ちょうど忘れていたよ。造船場の作業と治療ばっかり見ていたから、魔物と戦っている姿が想像できなかったわ」

「シークレア子爵領に来てからは、ずっと作業と治療をしていましたから。でも、今でも毎朝訓練していますよ」

「そういう毎日の訓練の積み重ねがあったから、レオ君はとっても強くなったのね」


 毎朝の訓練は、基本部屋でやっています。

 でも、一年前よりも魔力制御とか上達した気もするよ。

 そんな事を話していたら、この方が話に参加してきました。


「うふふ、良かったらダリアちゃん達に指導してあげても良いわ」


 そうです、食器を片付けおえたオリガさんがニコニコしながら話に参加してきました。

 僕とシロちゃんはオリガさんの鬼神の様な強さを知っているので、思わずブルっとしちゃいました。


「私も父にだいぶ鍛えられたのよ。まだこの宿を父と母がやっていて、空いた時間に色々と教えて貰ったのよ」


 オリガさんに武術を教えたお父さんって、オリガさん以上に強かったのかも。

 というか、もっと驚いた発言があったよ。

 ダリアさん達も、オリガさんの話を聞いて気がついたみたいです。


「えっと、オリガさんがこの宿にお嫁さんに来たのではなくて、ユリスさんが婿に来たんですか?」

「あら、話していたかったかしら? ちょっと冒険者活動していた時に、旦那と知り合ったのよ。両親が病気で亡くなった時に、婿に来て宿を手伝ってくれたのよ」


 おお、何だか凄い話を聞いちゃった。

 ずっと、オリガさんはお嫁に来たと思っていたよ。

 しかも、ちょっと冒険者活動をしているレベルじゃないよね。

 なので、ちょっとどんな冒険者活動をしていたのか聞いてみよう。


「えっと、オリガさんが倒した事のある一番強いものって何ですか?」

「うーんとね、体長三メートルを超えるビッグベアだったかな? でも、背後から首の骨をへし折ってあっという間に終わったわよ」


 オリガさんは顎に指を当てて当時の事を思い出しながらどんな事があったかを教えてくれたけど、ビッグベアの首を背後からへし折るって……

 僕とシロちゃんだけでなく、ダリアさん達も思わず固まっちゃいました。

 うん、間違いなく今まで聞いた色々な人のエピソードの中でも、最上位に入る衝撃度です。

 そんなオリガさんに、ダリアさん達は鍛えられる事になりました。

 ダリアさん達が、とんでもなく強くなりそうな気がします。


「あっ、ダリアちゃん達を鍛える時はザンちゃん達も一緒ね」

「「「「げっ!」」」」

「ふふふ、逃げないでね」


 そして、食堂からこっそりと逃げようとしたザンギエフさん達を、オリガさんは見逃しません。

 オリガさんにロックオンされたら、絶対に逃げ切れない気がしました。

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