第三百六十話 新年のお祭り

 そして数日後、新年になりました。

 僕たちは、予定通りに夜明け前に海岸に向かいました。


「ううー、寒いですね。今日はよく冷えますね」

「そうだな。だが、意外と海の中は温かいぞ」


 ザンギエフさん曰く、外気温が寒いから海の中の方が温かいらしいです。

 でも、どう考えても海の中は冷たいはずです。

 僕は見学組なので、ナディアさんやダリアさんと一緒に寒くないように厚着をしています。

 シロちゃんも、マフラーの中に潜ってぬくぬくとしています。

 そして、まだ薄暗い海岸に到着しました。


「あっ、屋台も出ているんですね。それに、何箇所も焚き火がしてあります」

「見てわかる様に、観光客も多いからなのよ。寒くないように、暖かい工夫もしてあるの」


 屋台の周りには魔導具の照明がついていて、多くの人が屋台で買い物をしていました。

 屋台とは別に、大きなお鍋でスープも作ってあります。

 その周りにも、多くの人が集まっていました。

 よく見ると、職人さんとかが多いですね。

 僕たちは、大きな鍋でスープを作っているところに向かいます。


「おはようございます」

「おお、おはよう。今年もよろしくな」


 僕が声をかけたのは、造船場の所長さんでした。

 他にも知っている人が多いので、挨拶をしていきます。

 そして、大きなお鍋でスープを作っていたのは、食堂のおばちゃんでした。


「わあ、凄い大きな鍋ですね」

「海からあがってきた男どもに配るスープだからね。沢山作らないといけないのよ」


 よく見ると、職人さん以外にも沢山の男の人が集まっていました。

 そりゃ、これだけの人が集まれば大量のスープが必要だよね。

 そんな事を思っていたら、段々と海が明るくなってきました。

 すると、今度は海軍の人も集まってきました。

 海軍も海に関わる人たちだから、祭りに参加するんだね。


「よし、そろそろ始めるぞ。神輿を出すぞ」

「「「おー!」」」


 所長さんが声をかけると、屋台の一角に置かれていた小さな船を皆で取りにいきました。

 どうやら、あの小さな船を担いで皆で海に入るんだね。

 すると、男の人達が全員屋台の一角に敷いてあるシートに移動して服を脱ぎ始めました。

 あれ?

 なんだか普通のパンツじゃないね。

 パンツの前に、布みたいなのが出ているよ。


「あれはふんどしって言うんだよ。普通のパンツじゃなくて、祭り用の下着なんだよ」


 食堂のおばちゃんが教えてくれたけど、お祭り用のパンツなんだね。

 でも、それ以外は裸だからとっても寒そうです。

 そして、所長さんとワイアットさんが人々の前に出ました。


「おし、始めるぞ。海に携わるもの全員が、今年一年事故なく過ごせるように神に祈る」

「海の神に感謝して、今年も一年頑張ると報告するぞ」


 全員が海に向かって頭を下げたので、僕もシロちゃんも思わず頭を下げました。

 そして、いよいよ日の出を迎えました。


「わあ、とっても綺麗です! 日の出ってこんなに凄いんですね!」

「レオ君は、初日の出は初めてかい? やっぱり初日の出を見ると、あたしも今年一年頑張ろうって思うよ」


 食堂のおばちゃんも、日の出を見て感激していました。後ろにいる観光客も歓声をあげていました。

 後は皆で船を海に運ぶんだけど、僕はもちろん見学です。

 そんな僕に、食堂のおばちゃんが声をかけました。


「おや、レオ君は海に入らないのかい?」

「えっ、僕は見学……」

「レオ君は昨年大活躍したんだから、海に入らないと駄目よ。ナディア、ちょっと代わってくれる?」


 おばちゃんはナディアさんに声をかけると、僕をガシッと脇に抱えてさっき皆が着替えていたところにダッシュしました。

 ナディアさんとダリアさん達がおばちゃんに代わってスープの調理をしていて、いつの間にかシロちゃんもナディアさんの頭の上に移っていました。


「寒い、寒い!」

「ははは、寒いのは一瞬だよ。男の祭りだからね」


 僕は食堂のおばちゃんにあっという間に裸にされて、ぶんどしをつけられました。

 そして、またもやふんどし姿の僕を脇に抱えて戻っていきました。


「あんた、レオ君の準備ができたよー!」

「おう、了解だ。レオを船に乗っけて、出航するぞ!」

「「「おー!」」」


 僕は何故か男の人達の手によって船に乗せられて、そして船を多くの男の人が担ぎ上げました。

 うん、寒くて余計な事を考えられないよ!


「行くぞ、出航だ!」

「「「うおおおお!」」」

「わわわわ!」


 そして船を担いだまま、男の人達は海に歩いて行きました。

 僕は揺れが凄いので、船に掴まっているので精一杯です。


 バチャバチャ。


「わー! すごいすごい!」

「男の祭りって感じね」


 船は段々と海の中に入っていき、観光客から大きな拍手と歓声が上がりました。

 確かに凄い光景なのだろうけど、やっている方は寒くて堪らないよ。


 ひょい。


「えっ、えっ?」


 そして、海の中で船を押している時に、僕は船から誰かに掴まれちゃいました。


「いくぞー、そーれ!」

「わー!」


 ばちゃーん!


 そのまま僕は、海に投げ出されちゃいました。

 うう、確かに海の中の方が寒くないけど、流石にちょっと手荒いです。

 観客は、僕が海に投げ出されて大盛りあがりみたいです。

 こうして付近を皆で船を一周押して、浜辺に戻ってきました。

 僕は、一目散に焚き火の方にダッシュしました。


「ううう、寒い、寒いですよ……」

「ははは、お疲れさん。中々良い感じに盛り上がったわね」


 食堂のおばちゃんが、僕だけでなく他の人にもタオルを配っていました。

 僕は、急いでタオルで体を拭いて生活魔法で体を綺麗にしました。


「レオ君、大変だったわね。はい、体が温まるわよ」

「ずずっ、確かにとっても温かいです」

「温まったら、早めに着替えた方が良いわよ。お疲れさまね」


 僕は、ナディアさんからスープを貰って温まりました。

 はあ、生き返るってこの事なんだね。

 因みに、シロちゃんは他の女性陣と共にスープを配っていました。

 うん、僕もスープを配る方が良かったよ。

 こうして、初体験の新年初めてのお祭りはとっても大変でした。

 所長さんとワイアットさん曰く、近年例になく盛り上がったそうです。

 とっても疲れちゃったので、宿に帰ったら直ぐに寝ちゃいました。

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