三百十四話 本当はいい子

 翌日も、昨日と同じく朝食を食べたら造船所に向かいます。


「あーあ、今回は面白い仕事になると思ったのになあ」

「ほら、愚痴を言っていないで荷物を運んで」

「へーい」


 今日は、三男のゲンナジーさんが宿のお手伝いとして残ります。

 オリガさんに色々と言われながら、もの凄い量の洗濯物を運んでいました。

 僕たちも、しっかりとお仕事頑張らないとね。


「そういえば、工場長経由で色々な所に連絡がいったそうだ。俺達も、気をつけながら仕事をしよう」

「はい」

「「おう!」」


 造船所に向かう途中、ザンギエフさんが情報を教えてくれました。

 といっても、昨日の午後とほぼやる事は変わらないもんね。

 こうして、造船所に着くまで色々とお話していました。


「よーし、じゃあレオやっちまってくれ。スライムもだな」

「はい、じゃあ切りますね」


 シュイーン、シュパッ。


 今日のお仕事も、型通りに木材を魔法で切る作業です。

 時々怪我をした職人さんの治療をするけど、何事もなく順調そのものです。


 シュパッ、シュパッ。


「よし、それで良いぞ。お前らもスライムに負けるなよ」

「「「おう!」」」


 シロちゃんは、時々職人さんに頼まれて細かい加工のお手伝いをしています。

 繊細な魔力の制御が必要だけど、シロちゃんは難なくこなしていました。

 でも、僕もシロちゃんももっと細かい加工はできないから、やっぱり職人さんの技術は凄いよね。


「適材適所だ。レオが大まかな加工をして人手が余れば、細かい加工に人を回せる。そういう事だ」


 職人さんのリーダーさんが、絶妙なタイミングで人の割り振りをしています。

 こうして、作業は中々のスピードで進んでいき、あっという間に昼食の時間になりました。

 今日は、僕たちが一番最初に昼食を食べる班です。

 みんな揃って、食堂に移動します。


「はいよ、今日はご飯を炒めた物よ」

「わあ、初めて出てきた料理です」

「米を炊いた物を、調味料で炒めたものよ。シークレア子爵領の港には、米も入ってくるのよ」


 食堂のおばちゃんが料理の説明をしてくれたけど、お米の料理って初めてだよ。

 どんな味か、とっても楽しみです。

 ではでは、さっそくスプーンでよそって一口食べます。


「わあ、不思議な感じです。でも、味もとっても美味しいです」

「そうかい、そりゃ良かったよ。おかわりもあるからな」


 お米に味がしみていて、とっても美味しいです。

 シロちゃんも、美味しそうな表情で料理を堪能していました。


「「「ニヤニヤニヤ」」」

「おい、おっさん等よ。そのニヤケ顔はかなり怖いぞ」


 食堂のおばちゃんが僕の事をニヤニヤと見ている職人さんに注意するけど、僕とシロちゃんは全然気にせずに目の前の料理を堪能していました。

 食堂のおばちゃんは、凄腕の料理人なんだね。

 他の人たちが来るので、昼食を食べたら直ぐに席から移動します。

 作業を行う倉庫は火気厳禁なので、タバコを吸う人たちは専用の喫煙所に向かいました。


「あっ、レオ君。あとザンギエフもだな。旦那がレオの仕事に問題ないか聞きたいから、所長室に来てくれって言っていたよ」

「分かりました。直ぐに行きます」

「じゃあ、俺はタバコ吸ってくるわ」

「あんちゃん、頼んだぞ」

「おう、任せとけ」


 食堂のおばちゃんが、食堂を出ようとした僕とザンギエフさんにはなしかけてきました。

 タバコを吸いに行くモゾロフさんとヒョードルさんと別れて、僕とザンギエフさんは事務所に向かいました。


 コンコン。


「所長、俺とレオだ」

「おお、入ってくれ」


 所長室のドアをザンギエフさんがノックした後、僕とザンギエフさんは所長室の中に入って行きました。

 ソファーに座って、書類整理をする所長を待ちます。


「いやいや、待たせたな。ははは、面白い事が分かったぞ」

「「面白い事?」」


 所長さんがちょっと笑いながら、僕たちの対面のソファーに座りました。

 所長さんは、面白い物を見たって表情ですね。


「あの子ども達が、造船所内で何かをしていたのは間違いない。でも、何も知らない他の職人が奴らがイジっていた場所をこっそりと直していたぞ。子どものイタズラって事で、全然気にしていなかった」

「ははは、職人は意外と子ども好きが多いからな。だから、事故も大した物が起きなかったんだな」


 所長さんが話してくれたけど、あの子ども達がしていた事の殆どが、何事もなかったかの様に職人さんが直してくれたんだ。

 荒海一家の目論見が、殆ど崩れていたんだ。


「子どもを尾行した兵によると、子どもの家の前で怪しい男が子どもと話をしていた様だ。そいつが、荒海一家の関係者で間違いないな」

「となると、明日辺りに一斉に動く可能性があるのか」

「そうだな、こういうのは早めが良い。子どもを、悪の道から助けないとならないからな」


 所長さんとザンギエフさんが、お互いに顔を見合わせて頷きました。

 僕もシロちゃんも、ふんすって気合を入れたよ。

 と、ここで所長さんがザンギエフさんにニヤリとしました。


「まあ、お前らはどちらかと言うと父親より母親に叱られていたがな」

「そいつは否定しねーよ。とーちゃんも怒るけど、かーちゃんの方がめちゃくちゃ怖いぞ」


 うん、僕もザンギエフさんの意見に同意です。

 オリガさんが怒ったら、とんでもなく怖そうだね。


「まあ、レオの仕事ぶりは問題ないってリーダーから聞いている。ちょっと張り切りすぎって聞いているが、初めて仕事をする者は誰でもそんなもんだ。慣れてくれば、肩の力も抜けるって事だな」


 そう言って、所長さんは僕にニコリとしてきました。

 やっぱり張り切っちゃっているみたいだけど、このくらいなら大丈夫だって。

 こうして、所長さんともう少しお話をしていました。

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