第二百二十五話 ちょっとやりすぎちゃったかな?

 翌朝、ボーガン様の屋敷に泊まっていた僕とシロちゃんは、ディフェンダーズ伯爵領に帰るマゼラン様をサンダーランド辺境伯家の皆さんと見送ります。


「辺境伯様、大変お世話になりました」

「いやいや、そなたも道中気を付けてな」


 ボーガン様とマゼラン様は、お互いにガッチリと握手をしました。

 そして、マゼラン様は僕にも向き直りました。


「マゼラン様、お気をつけて行ってくださいませ」

「レオ君、いつかディフェンダーズ伯爵領に来たら、盛大に歓迎しよう」


 マゼラン様は、僕とシロちゃんにも握手をしてくれました。

 そして、マゼラン様は馬車に乗って領地へと帰っていきました。

 お見送りも終わったし、僕にはお仕事が待っています。


「じゃあ、レオ君も馬車に乗って治療院に向かいましょうね」

「はい!」


 早速治療院でのお仕事があるので、チェルシーさんと一緒に馬車に乗り込みます。

 チェルシーさんは元々怪我人の慰問を行う予定だったので、渡りに船って感じです。


「行ってきます!」

「気を付けてな」


 ボーガン様に見送られながら、僕とシロちゃんとチェルシーさんが乗った馬車は屋敷を出発しました。


 ガラガラガラ。


「昨日も思いましたけど、沢山の人が歩いていますね」

「この街は、王都ほどではないけどかなり大きいのよ」


 昨日とは違った通りを馬車が進んでいるけど、朝早いのに沢山の人が行き交っています。

 とっても大きな街だけあって、お店の数も沢山あるね。

 そんな中、僕達を乗せた馬車は教会の敷地内に入って行きました。


「教会の中に、怪我した人の治療院があるんですね」

「そうよ。我が家と教会が共同で運営しているのよ。さあ、馬車を降りて司祭様にご挨拶しましょう」


 僕はチェルシーさんの後をついて行って、大きな教会の中に入って行きました。

 朝の礼拝の準備中なのか、シスターさんが忙しそうに動いていました。

 そんな中、一人の司祭服を着た老人が僕達の側にやってきました。


「おはようございます。ブラッドリー枢機卿」

「これはこれはチェルシー様、お忙しい中申し訳ありません。そして黒髪の天使様、ようこそサンダーランド辺境伯領の教会へ」


 確か枢機卿って、とっても偉い人だった気がしたよ。

 ちゃんと挨拶をしないと駄目だね。


「おはようございます、僕はレオです。この子はシロちゃんです」

「これは丁寧な挨拶じゃのう。儂はブラッドリーじゃ、サンダーランド辺境伯領を中心とする一帯の教会を管理しているぞ」


 僕が頭を下げながら挨拶すると、ブラッドリーさんもニコニコしながら挨拶してくれました。

 とっても偉い人なのに、全然偉ぶったりしないね。


「では、早速治療院に案内します」


 案内役のシスターさんが、僕達を先導してくれます。

 ブラッドリーさんと何人かのシスターさんも、僕達の後をついてきました。

 そして、教会脇にある治療院に入ります。

 結構大きな建物だね。


「わあ、沢山の人がベッドに寝ていますよ」

「軽症者から重症者まで、多くの人がここにおります。一部の方は、個室で治療を受けています」


 最初に僕達がやってきたのは一階にある大部屋で、二階には個室があるそうです。

 うーん、思ったよりも沢山の人が怪我や病気で入院しているんですね。

 最初にドカンとやっちゃった方が良いかも。


「あの、最初に一気にこの治療院にいる人全員に回復魔法をかけても良いですか?」

「「「えっ!?」」」

「だから、建物にいる人全員です」


 僕がやろうとした事を伝えると、チェルシーさんだけでなくブラッドリーさんや他のシスターさんもビックリした表情で固まっちゃった。


「あの、その、できるのなら、問題ないのですが……」

「良かった、じゃあ準備しますね」


 呆然としながらもブラッドリーさんの許可が貰えたので、僕とシロちゃんは魔力を溜め始めました。

 そういえば、この前エリアヒールを使った時、僕とシロちゃんの合体魔法っぽくなっていたんだよね。

 今日は僕は回復魔法と聖魔法の同時発動で、シロちゃんは聖魔法を使います。


 シュイン、シュイン、シュイン。


「いっきまーす!」


 シュイン、シュイン、シュイーン、キラリーン!


「な、何という事でしょうか……」

「おお、こんな魔法は見た事がありませぬ……」


 僕とシロちゃんは、溜めた魔力を一気に開放しました。

 キチンと、建物の範囲で収まるようにしています。

 僕とシロちゃんを中心にして、光が辺りを包みました。

 上手く魔法が発動できて僕とシロちゃんは大満足だけど、他の人はビックリしちゃったみたいです。


「ふう、流石に魔力の半分を使っちゃいました。これで、中等症くらいまでは治せたはずですよ」

「か、確認してきます」

「私も行きます」


 シスターさんが、手分けして怪我人の様子を見に行きました。

 一方のベッドで寝ていた人も、自分の体の変化に驚いていました。


「な、何が起きたんだ? 体が全く痛くないぞ」

「凄い、体が動くぞ。奇跡が起きたんだ!」


 体を動かしたり伸ばしたりしながら、自分の体の確認をしていました。

 奇跡でも何でもなくて、ただ広範囲の魔法を使っただけなんだよね。


「こ、これが黒髪の魔術師の大規模魔法……」

「しかも、これだけの魔法を使ったのに、黒髪の天使様は平然としてらっしゃるぞ……」


 あっ、チェルシーさんとブラッドリーさんが物凄くビックリしちゃったよ。

 シスターさんが怪我人の確認でてんやわんやなので、僕達は一旦教会に戻る事になりました。

 うん、ちょっとやり過ぎたかも……

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