第二百二十四話 サンダーランド辺境伯家の人々

 僕は、改めて話し始めたボーガン様の方を向き直りました。

 他の人も、ボーガン様の話を耳にしています。


「ディフェンダーズ伯爵領でも同じだろうが、現在王国と帝国で散発的な衝突が発生している。大規模な紛争が起きる気配は今の所ないが、より一層の緊張を持って対応しないとならない」


 おお、ボーガン様がキリッとしながら真剣に話をしているよ。

 威厳があって、とっても迫力満点だよ。

 僕もシロちゃんも、思わず背筋がピンとなったよ。


「王城にも兵の増援を要請した。だが、一ヶ月はかかるだろう。冒険者を動員するほどではないが、皆も頭に入れておいてくれ」

「「「畏まりました」」」


 王国と帝国が、少し緊張状態なんですね。

 だからこそ関係者を集めた訳だし、人の往来も止まってはいけないからわざわざ土砂崩れの現場までやってきたんだ。

 そして、ボーガン様は僕に向き直りました。


「レオ君には、暫くの間は治療に専念して欲しい。衝突の影響で、少なくない怪我人が発生しているのだ。勿論、我が家からの指名依頼として処理しよう」

「分かりました。ポーション作りはどうしますか?」

「腕の良い薬師がいるから大丈夫だけど、ポーションの増産は必要だな。治療が終わってから、少し考えよう」


 怪我人が沢山いるなら、僕とシロちゃんは一生懸命頑張るよ。

 一日でも早く、怪我した人を仕事に復帰させてあげたいね。


「あっ、そうでした。サンダーランド辺境伯領の冒険者ギルドマスターと、軍の人への手紙を預かっています。渡しても良いでしょうか?」

「構わないぞ」


 僕は魔法袋の中をごそごそと漁って、二つの手紙を取り出しました。

 すると、マイスターさんとホークスターさんが、手紙を見た途端に苦笑いをしていました。


「まさかだとは思うが、レオ君は規格外だから気をつけろと書いてあったのか?」

「くくく、はい、その通りになります」

「最近は、荒くれ者の扱いにも慣れてきたとも書いてあります」

「えー!」


 皆さん、なんて事を手紙に書いていたんですか!

 僕は、まだ小さくて幼い冒険者なんですよ。

 僕は、思わずガクリとしちゃいました。


 ぐー。


「あっ……」


 ガクリとしたタイミングで、僕のお腹が鳴っちゃいました。

 思わず恥ずかしくなって、顔が赤くなっちゃった。


「おお、そういえば昼食がまだだったな。皆は食べたか?」

「はい、頂いております」

「では、話はこのくらいにして解散としよう。ディフェンダーズ伯爵卿、遠くからわざわざ済まなかった。今夜は我が家に泊まって行くが良い」

「では、お言葉に甘せさせて頂きます」


 マイスターさんとホークスターさんとはここでお別れで、マンデラ様は侍従が客室に案内していました。

 僕は、ボーガン様とボーガン様の奥さんの後をついていきます。


「あら、そういえばレオ君に挨拶をしていなかったわ。私はチェルシーよ、宜しくね」

「こちらこそ宜しくお願いします」

「うーん、とっても可愛いわ。息子の幼い時を思い出すわね」


 チェルシーさんは、ニコリとしながら僕の頭を撫でてくれました。

 シロちゃんも、チェルシーさんに撫でられてご機嫌です。


「息子夫婦も食堂にいると思うから、食事の時に挨拶させるわね」


 そういえばチェルシーさんは息子の小さい時がとか言っていたけど、息子さんにはお嫁さんがいるんだ。

 うーん、チェルシーさんは若くてそんなふうには見えないね。

 

 ガチャ。


「あ、父上。お帰りなさい」

「お義父様、お帰りなさいませ」


 僕達が食堂に入ると、若い夫婦が席から立って挨拶をしてきたよ。

 確かに息子さんは、ボーガンさんと髪色が一緒で、茶色の髪を短く切り揃えていてとってもハンサムです。

 奥さんは桃色のロングヘアで、優しそうでとってもお胸が大きいです。


「この子が、例の黒髪の魔術師のレオ君だ。街道の復旧作業を、魔法を使ってやってくれたのだよ。いやあ、実際にレオ君の魔法を見たら度肝を抜かれるぞ」

「えっと、レオです。この子はシロちゃんです」

「こんなに小さいのに、父上が絶賛するとは。僕はマシュー、宜しくね」

「噂通りの、綺麗な黒髪ですわね。私はスーザンですわ」


 こう見ると、マシューさんとスーザンさんは、仲が良くてとってもお似合いですね。

 そして、ちょっと気になった事が。


「スーザンさん、お腹が大きいですね」

「ええ、お腹に赤ちゃんがいるのよ。出産まで、あと二ヶ月程でしょうか」


 うわあ、お腹の中に赤ちゃんがいるんだ。

 親しい人で妊婦さんは初めてだね。

 サンダーランド辺境伯領にいる間に、赤ちゃんと出会えるかもしれないね。


「そうそう、明日レオ君の歓迎会をやろうではないか。既に土砂崩れ現場の復旧という大仕事を成し遂げたし、問題ないないだろう」

「あ、あのあの、復旧作業には多くの人が携わっていたし、僕がやったのはほんの一部ですよ」

「謙遜しなくても良いぞ。レオ君がどれだけ凄いことをしたのか、私がこの目で見ている」


 皆で昼食を食べていると、ボーガン様がとんでもない事を言ってきました。

 周りの人も、良い案だと賛成していました。

 大げさにしなくても良いのにと、ちょっと思っちゃいました。

 因みに、今夜はサンダーランド辺境伯家のお屋敷に泊まる事になりました。

 何だか旅の途中から、お金を払わないで宿泊している気がしました。

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