第百八十話 午後は別の作業です

 午後は新しい作業らしいけど、何をするのかな。

 僕はおねえさんと一緒に、工房の別の所に移動しました。


「あっ、そういえば自己紹介をしていなかったわね。私はジュンよ、改めて宜しくね」


 ジュンさんは小柄で紫色のボブカットで、とてもパワフルです。

 でも、チャーリーさんと会った時は丁寧な言葉を使っていたし、場面で使い分けているんだね。


「勤務体系の話をしようか。週初めの二日間で大丈夫かな?」

「今は薬草採取とポーション作りしかしていないので、どの日でも大丈夫です」


 別荘に行く事も無くなったから、正直やる事が限られちゃったんだよね。

 だから、こういうお手伝いはとっても有り難いです。


「二日間のうち、一日目と二日目の午前中は魔石への魔力注入ね。そして、二日目の午後にやってもらうのが、ブローチ作りです」


 ブローチって、服とかに付けるアクセサリーだよ。


「レオ君はクリスティーヌ令嬢に髪飾りや髪留めをプレゼントしていたけど、自分で作ってプレゼントしたらどうかな?」

「是非やりたいです!」


 僕が作ったブローチをクリスちゃんや他の人にプレゼントできたら、とっても嬉しいね。

 シロちゃんも、とってもやる気です。


「じゃあ、先ずはピンブローチから作ってみましょうか。ピンブローチは、ビーズや出来上がったパーツを組み合わせて、ピンで止めて完成よ」

「簡単な分、作る人のセンスが必要ですね」

「レオ君、職人みたいな事を言うね。確かにピンブローチは簡単だけど、デザインはその人次第ね」


 ふふふ、ここは僕の腕の見せ所だよ。

 と、思っていたら、シロちゃんがしゅしゅしゅって触手を動かしていたよ。

 まさかまさか……


「わあ、シロちゃん凄いわね」


 シロちゃんは、あっという間に綺麗なピンブローチを作っていたよ。

 ジュリさんに出来上がったピンブローチを渡しつつ、僕にどうだって触手を腰に当てる真似をしているよ。


「むー、シロちゃんに負けないもん!」

「ふふ、こう見るとレオ君も年頃の男の子ね」


 僕がふんすって気合を入れたら、ジュリさんがクスクスって笑っていたよ。

 僕も怪我をしない様に、頑張ってピンブローチを作ろう。

 早速、席についてシロちゃんと一緒に作り始めます。


 ポチポチポチ。


 ピンブローチはシンプルだから、デザインを決めるのが難しいね。

 隣の席に座っている職人さんはとっても複雑なブローチを作っているし、やっぱり職人さんって凄いよね。

 

「よっと、これで十個っと」


 一時間程で、僕とシロちゃんは合わせて二十個のピンブローチを作りました。

 我ながら、初めてにしては良くできたと思うよ。


「おっ、レオ君上手にできたね。じゃあ、出来たブローチを貰うわ。一緒についてきて」

「??」


 僕とシロちゃんは顔を見合わせて何だろうと思ったけど、取り敢えずジュンさんの後をついて行く事に。


「うーんと、ここに展示しましょうね」


 やってきたのは、商会のお店の中です。

 ジュンさんは、アクセサリーコーナーで何か作業をしています。

 まさか……


「ジュンさん、まさか僕とシロちゃんが作ったピンブローチを販売するんですか?」

「勿論よ。とても良い出来だし、直ぐに売れるわ」


 えー!

 作って直ぐに販売するの!

 しかも、ピンブローチには既に値段もついているし。

 僕もシロちゃんも、思わずあわあわとしちゃったよ。


「あら、奥様お久しぶりで御座います」

「ええ、お久しぶりね。品物を見せてくれるかしら」

「勿論で御座います。こちらへどうぞ」


 しかも貴族夫人っぽい身なりの良い人が商会にやってきて、僕の方にやってきたよ。

 どどどど、どうしよう。


「あら、小さい店員さんがいるわね」

「ぼぼ、僕はレオです。この子はシロちゃんです」


 おや?

 僕の名前を聞いた貴族夫人の女性が、何かを思い出そうとしていたよ。


「レオ、黒髪、スライム連れ。もしかして、黒髪の天使って言われているレオ君?」

「あっ、はい。教会の方からはそう言われています」

「まあまあまあ、何と愛らしい男の子なのかしら。噂よりもずっと賢くて可愛いわ」


 わわわ、今度は僕の頭を撫でながらテンションが上がっちゃったよ。


「ふふ、ごめんなさいね。レオ君の活躍は王都でもとても有名なのよ。勿論、コバルトブルーレイク直轄領で幼い公爵令嬢の命を救った事もね」


 あっ、もう王都ではクリスちゃんを助けた事が広まっちゃっているんだ。

 何だか、恥ずかしいなぁ。


「それで、どうしてレオ君が商会にいるのかしら?」

「今日は冒険者として、商会の工房でお手伝いをしていました。さっきまでピンブローチを作っていて、ここに展示されたんです」

「えっ、ピンブローチ?」


 貴族夫人の女性は少し驚いた表情をして、僕の後ろに飾ってあるピンブローチを眺めていました。

 あっ、よく見たら、ここに飾ってあるピンブローチは僕とシロちゃんが作った二十個しか置いていなかったよ。


「とても良く出来たピンブローチが置いてありますが、どれがレオ君が作ったのかしら?」

「じ、実はここに置いてある二十個は、僕とシロちゃんが初めて作ったピンブローチです。どんな服に合うかなとか、どんな髪色に合うかなとかそんな事を思って作りました」

「全て下さいな。これは素晴らしい物ですわ」


 えー!

 まさか、二十個一気に買ってくれるとは。

 一つ一つは高くないけど、それでも僕もシロちゃんも思わずびっくりです。


「勿論、黒髪の天使の処女作というのもあるけど、普通に品物としても良いわ。一生懸命作っていて、とても素晴らしいわ」

「あっ、ありがとうございます。とても嬉しいです」


 僕とシロちゃんは、貴族夫人の女性に何回も頭を下げました。

 一生懸命作った物が評価してくれて、僕とシロちゃんは嬉しさが爆発しています。


「あら、自己紹介がまだだったわね。私は、フランソワーズ男爵家のフレイアよ」

「あれ? フランソワーズって貴族名って……」

「ふふ、フランソワーズ公爵家の分家になるのよ。折角だから、レオ君が作ったピンブローチをクリスティーヌ様にもプレゼントするわ」

「お願いします。クリスちゃんも喜ぶと思います」


 貴族夫人なのにとっても良い人だと思ったら、まさかのフランソワーズ公爵家の関係者だったんだね。

 思わぬ所で初めて作ったピンブローチをクリスちゃんに渡せる事もできて、僕は更に嬉しくなっちゃいました。


「ありがとうございます」

「こちらこそ、良い物が買えたわ。王都で会ったら、お茶会でもしましょうね」


 僕とシロちゃんは、ジュンさんと一緒にフレイアさんを店の外まで見送りました。

 王都に行ったら、改めてお礼を言わないと。


「良かったね。良い人が買ってくれて」

「はい、とっても嬉しいです。職人さんって、こうやって色々な物を作っていて販売しているんですね」

「そうね。中には転売目的の売人もいるけど、お客さんが自分の作品を嬉しそうに見てくれるとやっぱり良い気持ちになるわ」


 何だか、職人さんの気持ちにちょっとだけ近づいた気がするよ。

 魔石への魔力注入は勿論だけど、ピンブローチ作りも頑張ろうと心に決めました。

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