小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~

藤なごみ

第一話 男の子四歳の誕生日、両親により行商人に売られる

「では、確かに十万ゴールドですよ」


「おう」




 寂れた田舎町。


 交通の便の悪さに加えて若者の流出が止まらない、荒廃した死にゆく小さな村。


 そんな村の一角にある小さな家の前で、恰幅の良い行商人が身なりの悪い中年男性にお金の入った袋を手渡していた。


 中年男性の横には同じく身なりの悪い中年女性がおり、袋を開けて中に入ったお金を見るとニヤリと歪な笑みを浮かべていた。


 そして、中年男女の正面には、ニコニコと作り笑いをした商人と赤い短髪の行商人の護衛がいた。


 行商人の護衛は、小さな男の子の肩を掴んで動けないようにしていた。


 男の子は黒髪のボサボサ頭で、とても小さく痩せ細っていた。




「いやあ、こちらとしても良い買い物ができました。希少な天然の黒髪を持つ者を購入できるとは」




 商人は揉み手をしながら中年男女に話しかけていた。


 黒髪を持つ者を購入した。


 そう、行商人は護衛に押えつけさせられている黒髪の男の子を購入したのだ。


 この世界では、人身売買は基本的に禁止されている。


 特に子どもを扱う事は厳禁だ。


 しかしながら、貧しい村では子どもを売る事もあった。


 まさに黒髪の男の子は、今両親によって行商人に売られた所だった。


 そして、中年男女は黒髪の男の子をニタニタとニヤケながらとんでもない事を叫びだした。




「へへへ、お前はもう用無しだ。俺らの金に変わるだけ有難いと思え!」


「ふふふ。あんたの顔を見なくて済むなんて、本当にせいせいするわ」


「そ、そんな。お父さん、お母さん……」




 そう、中年男女はまさに今売り払った黒髪の男の子の両親だった。


 人の親としてあるまじき言葉を男の子に向けて放つが、この村の住人は誰も止めなかった。


 この両親と関わりたくないとの思いなのか、全ての家の扉が閉じられていた。


 男の子は自身の身に起きた絶望に、思わず座り込んでしまった。




「よっと」


「……」




 行商人の護衛は、男の子を馬車の荷台に乗せるために担ぎ上げた。


 男の子はとても軽かったので、難なく馬車に乗せられた。


 男の子はショックから立ち直れず、未だに黙り込んでいた。




 パタン。




 そして、男の子が生活していた小さな家の扉が閉まった。


 勿論、両親であった中年男女が家の扉を閉めたからだ。


 既に中年男女の関心は手元にあるお金に移っていて、男の子の事などどうでも良かったのだった。




「よし、出発するぞ」


「おう」




 行商人も、護衛と共にさっさと馬車に乗り込んだ。


 行商人にとってもこの村は利用価値がなかったのだが、思わぬ商品を手に入れてご機嫌だった。




「ダンナ、良いのかい? こんなはした金で坊主を買うなんて」


「良いんだ。どうせ奴らは酒を買う金が欲しかっただけなんだ。それに、もうこの村に来る必要はないし、他の商人もこの村に来るはずがない。人身売買の相場なんて、この村の住人が知る由もないさ」


「はは、流石はダンナだ。頭が切れる様で」


「ふふふ、商売は頭でやるもんだよ。珍しい黒髪の持ち主なら、最低でも一千万ゴールドからだろうな」




 カラカラカラ。




 馬車は足早に村を出ていった。


 そんな中、行商人と護衛は相場よりもかなり安い金額で男の子を購入できて、笑いが止まらなかった。


 過疎の村だからこそ、ボロ儲けが出来たと思ったのだろう。




「……」




 一方で男の子はというと、荷台から無言で遠ざかっていく村をただ眺めていた。


 未だに頭の中の整理ができておらず、自分の置かれた状況も理解できなかった。




 カラカラカラ。


 


 馬車が村を出て数分もすれば、街道から村は全く見えなくなった。


 それでも男の子は、ずっと村のあった方角をぼんやりと見つめていた。


 暖かい春の陽射しが降り注ぐこの日は、男の子がこの世に生を受けて丁度四歳になった誕生日だった。


 しかしながら、男の子はその誕生日に両親によって売られてしまったのだった。

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