第7話
ベルモットさんとの会話で、さすがに無趣味は問題があるのでは? と思い始めた私は、玄関を掃きながら明日はどうやって過ごすかを考えていた。
もちろんベルモットさんの『ウィンドウショッピング』案は採用させてもらう。
だが『ウィンドウショッピング』をしよう! 『何か』を見に行こう! と意気込んでいかなければ、私はそれを実行することは出来ないだろう。
なにせ実家の周りには、ウィンドウショッピングなんて楽しむようなお店はなかった。加えて王都に来てからというもの、私が注目するのはドレスが飾られたウィンドウ限定である。
それも一般的な若い女の子が注目するであろう、『可愛いか』とか『流行りか』ではなく、お姉さまに似合うかドレスを作ってくれるかどうかである。
ウェディングドレスは一生残るものだ。その時の流行りなんてどうでもいいとさえ思う。
私が求めるのは針子の技術と、一級の布を手に入れるルートを所有しているかどうかである。
5年のウィンドウショッピングで私が得たのは女子力でも、王都の流行情報でもなくドレスを見る目であった。
そのおかげで王族付きのお針子さんやマリー様と仲良くなれたりしたから後悔はない。
何かあるとすれば、これが流行りのなんたらで〜、とはしゃいでいるご令嬢方の会話が異国の言語を話しているんじゃないか? と感じてしまうくらいである。彼女達の会話に私が加わることはないので、特別不便を感じることはない。
5年の歳月を吟味に費やしたお姉様のウェディングドレスだが、頼める針子さんも来月には決定できる。
最終決定はジャックが王都に足を運んだその日に、彼と2人で決定するのだ。
お姉様を愛する私とジャックで!
そう決まったのは一通の手紙がきっかけだった。
アッシュ家付きのメイドになったということをお姉様とジャックに報告したのは、このお屋敷に移ってしばらく経ってからだ。その時に一緒にドレスについても報告したのだ。主に針子さんごとの特徴を事細かに記して、最終的な希望も尋ねることにした。
すると珍しく私の手元に返ってきたのは2通の手紙。そう、ジャックとお姉様から別々に手紙が送られてきたのだ。
お姉様からはいつも通り、私の体調を心配する文面と、ドレスのことは私に任せると言った内容だった。
けれどジャックは違った。
2ヶ月後に王都に行く用事があるから、その時に一緒に選びたいというのだ。
私は彼に宛ててすぐに手紙を返した。返事は『もちろん!』と短い文を。教えてもらった日時にお休みをもらいたいとベルモットさんに相談してみればすぐに了承された。
後は彼が来る日を待つのみ。
なのに今回ウェディングドレスを飾ってあるウィンドウなんて見たら、絶対候補が揺らぐに違いない。ジャックだってそう長い時間、王都に滞在できるはずはないだろう。それにその限られた時間は是非ともドレスの厳選に使っていただきたい。
だから今回はウェディングドレスを選ぶことは出来ない。今度はジャックと一緒に、って心に決めたのだ!
だからウェディングドレスを含めた、正装を主だって受注・製作してくれるお店は避けるのはいいとして……だからといって何を見るべきか。
ランチを楽しむのもいいけど、いつだって誰かと食事を共にしていた身としては、一人の食事はなんだか寂しいものに感じてしまう。
普段着は見ていれば楽しいのだろうが、見れば次から次へと欲しくなるだろう。自分が着ることを想定すると全く欲しいと思わないのに、お姉様のとなれば何着でも欲しくなるに違いない。そして自分の分を買い足すかと気合を入れたところで、店に着いた途端にその決心が揺らぐどころか決壊していくのは目に見えている。
ただでさえウェディングドレスを見ている途中でもいくつか、お姉さまに似合いそうなドレスを見つけたのだ。今思い返してもどれも絶対に似合うと断言できる。だが同時に買ったところで受け取ってもらえないのも分かりきっている。
ウェディングドレスでさえも丸め込むのに時間がかかったのだ。
ジャックの方は『白バラの花冠』の方を頼んだ! と言えば引き下がってくれたけど、お姉様の方は大変だった。
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