MAN/MADE
紫陽_凛
第1話 歯車
──「歯車」におなりなさい。
奥様に最初に言われたのがそれでした。13になったばかりの
「私たちはあれにならなければならないのよ」
意味は直ぐ分かりました。時計に合わせて私たちの予定は決まっておりました。
朝の六時に起きて暖炉の灰を掻き出し、磨き上げ、
恥ずかしいことにその頃の私は字が読めなかったものですから、お姉様達に読み上げていただいて、それを毎晩毎晩復唱するという、そういうことをしなければならなかったのです。
覚えるのにはたいそう時間がかかりました。お姉様達は口々に、「ジェニーがこれを覚えられれば、立派な『歯車』になれるわ」と仰いました。今となっては、卑しい労働者階級の私にできるわけがない、という
ミルチントン伯爵領をお治めになっている伯爵ご夫婦の間にはノアというお子様が一人いらして、「坊ちゃま」と呼ばれていらっしゃいました。
この女王
私はただのハウスメイドで、伯爵
さて、その頃のお姉様達の
「あの禿げ頭を
「できやしないわよ」とまた誰かが言い、
「でも振る舞いは機械そのものよ、あれこそMMだわ」と誰かが言い返しました。
揃いの制服を着て揃いの帽子を被ったお姉様達は誰がだれなのやら見分けがつかないのです。
「歯車」とはそういうことなのです。私たちはお互いを「
私は、ジェニーであることを忘れないよう、自分に「私はジェニーよ」と言い聞かせなければなりませんでした。
そのときお姉様達が、おもむろに持っていた雑誌を黙っていた私に寄越しました。見せられた
「貴女はどう思う? チャールズはMMだと思う?」
私は
執事頭チャールズという人は、分厚い眼鏡の奥に瞳をすっかり隠してしまった白髪交じりのご老人です。仕事ぶりはたいへんよく、誰よりも機敏で正確で、そこに彼の生来の生真面目さがにじみ出ているのでした。
お姉様達が「MM」「機械」と
ですから、「歯車」たる私たちがその
今思えば、よく分かります。お姉様が寄越したその雑誌の頁にはこう書かれていました。
――貴方の家にも一人、
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