第7話

その点ももちゃんはブレてないとゆうか、

考えもハッキリしてて。

何より周りを気にせず自分を貫く強いメンタル、ほんと尊敬する。


私は理想も大切だと思うけど、

ももちゃんの格言も然り。


相手に合わせて自分を取り繕ったり、

本音を誤魔化しちゃったりした事もあったけれど、結局疲れちゃって長続きしないしね。


ありのままって大事だ。


「ほんと、おめでとうだよ。

 ダーリンの方がよっぽどめでたいよ……

 ほんとに凄い…」


ブツブツと独り言をくちにしながらトレイを返却して、バックを持つとイスに置いた薔薇の花束をそっと抱えた。


夕色に染まりつつある暖かな光が真紅の花を黄金のベールで照らし輝いて魅せる。


私も今日はたくさんおめでとうを貰ったけれど、やっぱり結婚するふたりへの祝福が勝って羨ましいと思ってしまう。


中途半端は嫌いだから合コンより婚活でしょ!

って割り切ったももちゃんが、ダーリンと巡り会えた最短のプロセスはお見事で。


結婚を諦めたのは一度や二度ではないだろうと思われる年齢のダーリンが、ももちゃんを花嫁にできるのはかなりの強運で。


赤い糸や奇跡の恋も有り得るんだなぁ、

とふたりを見ていると感慨深い。


実はふたりがカップルになった婚活パーティーに私も参加するはずだった。

だから私にも素敵な出会いがあったかもしれないと未練が残る。

急な仕事でキャンセルせざるを得なかった、

去年の秋の話だ。


私にまだロマンスへの憧れがあって……

特別なふたりだけの世界を抱く恋愛に、

夢を捨てきれないでいるのかも。


お花畑な頭じゃなくて現実を見据えた判断が必要な年頃なのだけれど、こんな真っ赤な薔薇を抱えていたら乙女チックな気分から抜け出せない。


電車が帰宅ラッシュで混雑する前に乗らないと、ももちゃんに心配されたように花が潰れるから迷わず改札を通ってホームへ。


運良く待たずしてホームにいた電車に乗り込んだ。

乗客はまばらで誰も立っていないドアの端に陣取る。

発車後間もなくして…


「きれ〜」「いいなぁ〜」


かわいらしい声が聞こえてきてチラッと見てみると、座席の中ほどで並んで立っている女子高生ふたりが薔薇の花に釘づけだ。


そうだよね、ときめいちゃうよね。


私もこんな大きな花束は初めて貰ったわけで、朝の高揚感が舞い戻ってきてしまった。


改めて思い出すとベタな王子様の登場シーンだったとおかしさがこみ上げるのと、一瞬で見惚れた自分のチョロさが恥ずかしい。


吹き出しそうなニヤけた口元をしっかり閉じて、春の宵闇を被りつつある風景に目を泳がせた。


スライドしてゆく電車の窓画面に、1年前の記憶がゆらゆらと蘇り映し出されるようで。


カタンコトン揺られながら、

それは鮮明になってゆく。


千馬ちばくん… じゃない。

千馬副社長と対面した日のことが―――――

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