異世界転生ってなんですか!? よく分かりませんがチート能力を使えば良いんですね!! ~魔法大戦~
藍上 陸樹(あいうえ おかき)
【前篇】のびのびノーヴィス
01話:魔法大戦の前夜祭
『魔王は死んだ。この戦いが始まった1秒後のことだった――』
このように後世では「勇者と魔王の戦い」は語られることでしょう。
片や伝説の英雄、片や窮極の絶望……人類と魔族の代表戦に終止符が打たれたのです。
須臾と刹那の狭間で行われた攻防に、勇者へ同行する記録係もありのままを書くことしかできず。
赤いマントを翻し、月光の輝きを放つ聖剣を仕舞うと、勇者は仲間たちと共に魔城の最深部へと進んでゆきます。
この先にイリス王国の姫が囚われており、彼女を救うことが勇者たちの目的。
勇者が仲間たちを導き、戦士が道を切り拓き、魔法使いが罠を見抜き、その横で記録係が宝箱を漁りながらも、ついに彼らは姫の幽閉先に辿り着きます。
魔族が好む、眩暈がするようなサイケカラーの監獄。
動物園のような檻の先で、勇者たちの助けに安堵の息を吐く姫。
しかし彼女は不安そうに黄のスカートをギュッと握りしめるのでした。
「わたくしのように、1人の殿方が牢に囚われております」
====================◇====================
姫の説明する「男性」は、すぐに見つかりました。
何が何だか分かっていない様子で酷く泣きじゃくる「農民」。
短い黒髪で、背は低いものの、そこそこ筋肉質。
年は16歳ほどで、みすぼらしい格好。
その無事に勇者たちもホッとします。
ただ逆に疑問も生じます。
(どうして魔王は、わざわざ農民を攫ってきたのだろう?)
しかし、あまりにも少年のパニックが凄まじいものでしたから、その対応に思考リソースが割かれます。
(きっと「召喚の魔法」の生贄として殺されるところだったんだろう)
「ひっぐぅ……ずみまぜぇん、勇者ざまぁ……ぼ、僕、を、助げでぇ、いだだぎぃ……!」
目がグルグルする色彩の檻から解放された農民は、引っ付くような形で勇者に抱き着きます。
戦士が少年の背中を優しく叩き、魔法使いが少年の精神に回復魔法を掛け、勇者は少年を安心させるように言葉を伝えます。
「もう大丈夫だよ。君は元の場所に帰れる……これも女神さまの導きによるものさ」
女神に選ばれた勇者たちが、魔王を討伐したのです。
これに対して、少年はよく分からない返答をします。
「そ、その女神さまが僕に仰ってたんです、もう元の世界には戻れないって」
「『チート能力』を使って『異世界転生』で第二の人生を歩めとも……」
====================◇====================
今世の記憶を失った少年が、前世の記憶を取り戻したのは……奇しくも魔王討伐と同じタイミングでした。
現代日本を生きていた「普通の男子高校生」。
部活は陸上部、趣味はスポーツ観戦。
将来の夢は「駅伝に出場する」という漠然な短期目標。
死因はトラック。
謎めいた女神さまに導かれ、次なる転生へと旅立つ。
プロフィール上、ある意味では珍しい特徴を述べるとするなら……。
「前世はオタク文化に触れたことが全くない人生だった」でしょうか。
「『チート能力』? も『異世界転生』? もよく分からないんですが」
「たぶん、この世界の人と同じように魔法が使えた状態で、別の世界に生まれ変わったという意味だと思います」
「……元の世界に、帰りたい、です」
ジワリと再び涙する少年の紡ぐ言葉を、勇者たちは真面目な表情で耳を傾けます。
憐れみを覚える少年の境遇に、彼らは結論を出します。
「この子をイリス王国で保護しよう」
そのまま勇者たちは、少年を連れて王国に帰還しようとします。
目を拭い、勇者の手を借りて立ち上がる少年は、ふと気付いたように呟きます。
「あ、勇者さま、肩にゴミが」
こうして「ゴミ」と誤認された「魔王が最期に放った規格外の呪い」はヒョイッとつままれ、捨てられるように消え。
静かに仕込まれた強烈な悪意の残滓、しかもそれを容易く払いのける少年。
勇者たちは驚愕することしかできないのでした。
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イリス王国は勇者凱旋と並行し、少年の『チート能力』を讃えました。
勇者たちから報告を受けたイリス王国は、藁にも縋る思いで行政的難題を少年に委ねたのです。
東にドラゴンが現れれば「ドラゴンより大きな魔界羊を喚ぶ奇跡」。
西で干ばつが起きれば「ワインの湧く井戸を生み出す奇跡」。
少年の起こす奇跡によって、王国の抱える問題は幾つも解決に向かいます。
初めはビクビクしていた少年も、段々と自信が付いたのか、本来の天真爛漫な性格へと戻っていきました。
国民たちは喝采と、称賛と、ちょっとばかりのお布施を少年に贈ります。
少年は嬉しそうに下街でチョコレートを買い、ホクホク顔で舌鼓を打つのでした。
殆ど誰も少年にネガティブな感情を向けませんでした。
エルフの宮廷魔術師は不満そうに愚痴を漏らします。
「あの者、流石に『危険分子』と見做すべきでは?」
「何を為しているのか、本人も理解していないのが……」
熱狂する国民は、冷たい視線を宮廷魔術師に向けるだけでした。
====================◇====================
イリス王国の首都で、過去最大級の祝宴が開かれました。
世界中の名だたる碩学も大勢集まり、固唾を飲んで「その瞬間」を待っています。
「つまり」
「僕の『チート能力』を使って」
「『ドミナの石板』を解読すれば良いんですね?」
周囲の要人が一様に頷きます。
『ドミナの石板』には「世界の始まり」から「世界の終わり」まで、この世界の歴史が刻まれています。
この石板を解読できれば、より善き未来に向けた王国統治が可能になるのです。
数多くの犠牲を出した「魔王の到来」のようなことは、もう在ってはならない……。
さて、この世界の魔法は、色によって系統が分けられています。
赤、黄、緑、青……の「四種」。
誰もがどれかしらの「色」を崇拝しています
そしてこの「四色の魔法」から世界は始まりました。
『始まりがどの色も平等だからこそ、人は協力し合える』
イリス王国のけだし名言であり、信仰の主軸です。
絶対的不動の黄金律。
「じゃあ最初の行から読んでみますね!」
拍手喝采のファンファーレが巻き起こります。
「『世界は一つの色から始まった』!」
このように理想と幻想は一夜で打ち砕かれ、「どの色が起源か」を巡る「魔法大戦」が始まるのでした。
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