復讐は虚しいとかやり過ぎとか、他人事だから言える話だよねえ……と思っていました、さっきまでは。

 別に、悟った訳ではないのだが。

 見慣れた高校の教室の中で、銀の巨漢ナローマンが拳を、次から次に元級友達に拳を叩きこんで、物言わぬ肉塊に変えていく光景を見ると、何というか……思う事がある。


 人間、自分以上に怒っている奴の事を見ると。いろいろと醒めるというか、冷静になるものなんだなあ……と。


「助け、たすけて、俺が、俺達が悪かっ――ごびゅっ!」


 始まりは……まあ、世間では有り触れた話だったのかもしれない。

 一言で纏めてしまえば、付き合っていた幼馴染やつが、面だけはよろしいイケメン先輩に寝取られた、ってやつだ。

 無論、それについての報復ケジメ自体は、俺自身の手でキッチリとつけてはやった。


「か、海人かいと……お、俺達、友達だよな、なぁ―――あごばっ!」


 今振り返ると、その為に選んだいろいろとヤバい橋を渡ったものだ、と思うが。

 結果的には二人とも退学に追い込む事が出来たし、ついでに新しい彼女だってできた。

 そこで終わっていれば、俺としてはめでたしめでたし、って奴なんだろうが……


「な、何で、俺達までぇ……!?

 浮気したのは、来沢くるさわとあのヤリチン野郎だけだろ、おかし――げびゅっ!」


 何故か、現在進行形で銀の巨漢ナローマンられつつある、元友人やら、級友クラスメイトやらが、やり過ぎだ何だ、といちゃもんを付けてきやがったのだ。

 あの幼馴染クズが浮気をする前は、俺達の事を、面白半分にやれ夫婦だのなんだのと……

 鬱陶うっとうしいくらい、はやし立てていた癖に、あれがやらかして、俺が復讐ざまぁに走ったとたんに正義面ときた。


「待って、待ってよ、反省します、しますからぁ!

 海人かいと君も何か言って――うげぶっ!」


 しかも後から聞いた話だと、あの幼馴染ゴミと俺とじゃ釣り合いがとれないだの、女子連中も抜かしてたらしいからな。

 つい先ほど、銀の巨漢ナローマンに踏みつぶされた奴もその一人だ。


 まったく、ふざけた話だ。

 こっちは純然たる被害者だというのに。


「あがばっ!」


 ああそうだ――だから、今、目の前で起きているは俺の所為せいでは……無いはずだ。

 俺は悪くない。悪く、ないんだ。

   

「そげびっ!」


 いやだってそうだろう?

 いくらなんでもなる事なんて、予測できてたまるか。


「たがぼっ!」

 

 確かに、こいつ等纏めて死んでほしい、くらいの事を思っていたのは事実だけど、それが文字通りの現実になるだなんて想像もしてなかったんだ。

 ネットの与太話だと思っていた存在ナローマンが実在していて、しかも自分のところにやってくるとか思ってなかったんだよ。


 ――と、葛藤するこちらの内心もつゆ知らず。

 教室内に残っていた、俺を攻め立てていた連中が完全に沈黙すると、野太い声で、銀の怪人ナローマンが……きっと、いつものように必殺を叫ぶ。

 

『纏めて吹き飛べ――ナローマンフローティングマイン!』


 銀の怪人ナローマンの周囲に、ピンポン玉程の大きさの、無数の光のエネルギー玉を生み出される。

 それらは、一つ一つが凄まじいスピードで、異なる方向へと飛び去って行った。


 少し遅れて、学校中のあちこちで悲鳴が混じった爆音が聞こえ始めたのは……多分だが、他のクラス、学年にいる偽善者れんちゅうがあの光のエネルギー玉に狙われているのだろうか。


 まあ……今、この教室で生き残っている面子から考えれば、あの幼馴染カスイケメン先輩ゴミクズに肩入れしていたやつ以外は……多分、無事だろうけど。


 いや、やっぱり相当な数死ぬんじゃねえのこれ。

 ……普通に、ヤバくねえ?


 ふと銀の怪人ナローマンが、ぐっと親指を立ててつつ、こちらを見つめているのに気づいて、自然と乾いた笑いが漏れてきた。


「あ、ははは、ははははは……」


 いやもう笑うしかないだろ。どう収拾つけるんだよこれ。

 目の前の現実に頭を抱える一方で、当の銀の怪人ナローマンは。何かに満足したように頷いて、ふっと消えた。


 幼馴染クソやら間男ゴミを始末しにでもいったのだろうか。

 或いは、学校ここに来る前に、もう――?


 いや、あいつらのことはどうでもいいか。

 何はともあれ、たった一つだけはっきりしている事がある。


 今日はもう何も考えずに早退したい。

 現実逃避と言われようが何だろうが――やってられるかこんちくしょう。

 


 


 ナローマンはこの日――猛烈に感動していた。

 この地球ほしにも、正義ざまあを執行しようとする若き意志が、確実に育っている事に。

 正直、やり口その物は手ぬるかったが、まあ未開の惑星であるし……何事も初めてはあんなものだろう、と微笑ましく見守っていたのだ。

 

 しかし、程無くして、激しい怒りと失望も同時に抱く事となった。

 あろう事か、正義ざまあを執行した彼を非難し、反吐が出るような偽善を振りかざした上で、集団で迫害する連中が現れたのだ。

 

 何と邪悪でおぞまましい連中だろうか。

 NTRという、許されざる大罪に見て見ぬふりを決め込んでおきながら、肝心なところでだとは。

 

 今日のノルマは既に達成していたし、何より男の花道ざまあに横槍を入れるような真似は、なるべくしたくなかったが――これを放置しておくことは、ナローマンの正義ざまあが許さなかった。

 よって、外道共にはナローマン自らの手で天誅を加えたのだ。


 結果的に獲物を横取りする形となってしまった事を、心から申し訳ないと思いながらも――あの少年には、どうか健やかに残りの学生生活を過ごして欲しいものだと、ナローマンは切に願った。


 輝いてせよ、ナローマン。

 お前のきらめく白銀しろがねで、迷える正義ざまあを照らすのだ。


 全てのNTRとBSSじゃあくが物理的に消えるまで――燃やせ、心のともしびを!

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