幼馴染と、NTR動画レター?
―――動画の中で、つい先刻まで、友人だと思っていた、素っ裸の男が、延々と、銀の怪人から叩きのめされ続けている。
薄暗い部屋の隅では、恋人……だと思っていた物心ついてからの幼馴染、
床に染みを作っているのは……失禁しているのか。うげえ。
いや、いきなり何言ってるのか、意味がわからないって?僕もだよ。
でも、本当に……何なんだコレ、スナッフムービーかでも何か撮ってるの?
「げぶっ、ごばっ、
元友人は、初手で顔面を叩き潰された時に、歯を粗方へし折られた
顔面は、鼻が無惨に潰れひしゃげて、鼻血を垂れ流し、顔のあちこちが変形する程殴られた為に、酷く腫れあがり、裂傷に至っては数えきれない。
兎も角、彼の顔面は、血と涙で汚れ、ぐちゃどろになった……それはもう、悲惨な
元友人を嬲るそれは、前衛芸術のようなマスク(だと思う)……を被り、銀のスーツ(だよね)を身に纏った、筋骨隆々としたよくわからん怪人だ。
こいつが振り上げた拳が、元友人の身体に突き刺さる度に、鈍い嫌な音が、動画越しに室内に響く。
……ああ、また、
ってかこれ、リアルタイムで撮ってるの?
耳障りな元友人の苦悶の呻き声をBGMにしながら……
とりあえず、状況を、整理しようと思う。
一体なぜこんなことになっているのか……考えたところで、さっぱり分かりそうにないけれど、まあ、一応ね。
確か……麗奈とは、中学卒業を期に、僕から告白して付き合う事になったんだ。
ええとそれで、なんというか高校に入って現在進行形で睾丸を蹴り潰され悶絶している、元友人と、知り合って……
それからしばらくしてから、麗奈から徐々にデートをドタキャンされたりとか、急な用事が入る事が増える様になった。
……いや、正直に言えば。
この時点で麗奈が元友人と浮気をしていたのではないか、との疑念は有ったのだ。
それでも、見て見ぬふりをしてここまで来てしまった。
そして今日、僕の元に動画のURLが届いた。
今振り返って考えると――多分、NTR動画レターとかを送り付けるつもりだったんじゃないだろうか。
何か脳破壊がどうとか、鬱〇起がどうとかやたら嬉しそうに話す奴だったし。
……何で僕、こいつ(そろそろ死にそうだ)と友人になったんだっけ?
で、映し出されたのは、薄暗い部屋で、見た事のない、不快なにやつきを浮かべた元友人が彼女の肩を、抱いている姿。
彼が、口を開き何かを言葉にしようとした、次の瞬間。
――画面の外から、凄まじいスピードで踏み込んで来た……銀の影が繰り出した拳が、元友人の顔面を砕いたのだ。
で、まあ現在に至る訳だが……やっぱりわけがわからない。誰だよあの銀色の怪人。
なんかそろそろとどめのターンに入ったみたいだけど。
ぶつぶつと、蚊の鳴くような声で命乞いを続けているらしい元友人の頭を、銀の怪人がアイアンクローの要領で鷲掴みにした状態で身体ごと持ち上げ……
必殺の気合を込め――野太い声で、力強く必殺を叫んだ。
『――砕けろ、ナローマンバーニングクラッシュ!』
銀の手が赤熱したかと思うと、轟音とともに、元友人の頭部が閃光と共に爆ぜて砕けた。
炭化した頭部の残骸がぱらぱらとまき散らされる。
……うわえげつねえ。どこの流派〇方不敗だ。
どさり、と頭部を失った元友人の体が重力に従い、地面に落ちて……銀の怪人こと、ナローマン?が麗奈へと向き直った。
ゆっくりとした歩みで、一歩一歩確実に距離を詰めていく。
彼女は蛇に睨まれた蛙のように、身体が強張って動かないらしく、やめて、助けてと繰り返すが、銀の怪人は一顧だにしない。
少し離れたところで立ち止まり、麗奈へ片手を突き出す形で構えを取った。
先刻と同じ、いや更なる気迫と殺意を込めた野太い声で叫ばれる必殺。
『事象の地平の彼方へと消え去れ!
ナローマンブラック――』
そして唐突に、ぷつんと動画が消える。
これは……向こうの機材のトラブルか何かだろうか。バッテリーでも切れたか?
とはいえ、何か凄そうな必殺技をまた使おうとしてたし、多分麗奈はもう生きてはいないだろうなあと何処か他人事のように考えながら……
僕は人生を真面目に生きようと決意した。
少なくとも浮気とか横恋慕はしない、絶対に。
いや、思い出したのだ。
ナローマンという名には、聞き覚えがある。
NTRとかBSSとかそっちの筋のアレを目の敵にして活動している、マジもんの宇宙人……らしい。
更に言うなら、半年ほど前のバレンタインで……大量の死者をだした事件の実行犯。
熱光線で消し炭にされただの、光の斬撃で全身を輪切りにされただの、元友人よろしく脳破壊(物理)で殺られただの。
死亡したのは、その悉くが不貞行為や横恋慕やらでトラブルを抱えていた連中ばかり。
その為か、一部の筋では妙にナローマンを神聖視する人間まで出ていると聞く。
僕は……なんというか、あまりにも斜め上の事態が起きたせいで、何かもういいやという気分だ。
今後恋人ができるかどうかはわからないが、あんな惨めな死に方だけはしたくない。
はあ、と大きくため息をつき、ぎゅるると腹の虫が鳴り、空腹を自覚した。
そういえば昼ご飯食べてないな、とスマホの画面を閉じて、立ち上がり台所へ向かおうと振り返ると。
―――そこには、先ほどまで画面の中にいた筈の、
「――――ぁ、ぅ……!?」
全身の血が凍りつくような恐怖で、声が出ない。
何時の間に……どこから入ってきた!?
何で、僕は何もしてないよホントに、嫌だ待って死にたくな―――!
こちらをの狂騒を他所に、眼前の
へ、と理解が追い付かない僕をおいて、ぱっとその場から唐突に消えた。
……
そういえば、そんな技の目撃例もあったような。
何しに来たんだ
腰が抜けて、ぺたん、とその場に再びその場に座り込んでしまった僕は……
先ほどの誓いを絶対に違えないようにしようと、心に決めた。
……
◇
ナーロッパザマァ―星から地球にやってきて、約半年。
音速を超える速さで空を駆けながら――ナローマンの心は、深い悲しみに包まれていた。
死を覚悟する程の……裏切りを前に、あれ程までに深い絶望を抱えた少年の心が救われてほしいものだ、と思ったが。
何を言っても気休めにしかならぬとわかっていたから――励ましのエールを送るだけで精一杯だった。
彼にできる事は、惨めったらしく命乞いする愚かで薄汚い裏切り者共を物理的に砕くだけだ。
息子の想い人に手を出す父親。
大した覚悟もなく親友の好きな幼馴染に手を出して孕ませる馬鹿。
教職にありながら生徒に手を出す愚か者。
数多くの汚物をその拳で葬り去ってきた彼だが――いまだNTRとBSSを物理的に根絶する事が出来ていない。
未開の惑星とはいえ、何と低劣で、猿にも劣る畜生が幅を利かせた
しかし。先の少年の様に、清く正しい心を持つ人間がいる限り、ナローマンは挫けない。
浮氣に不倫、托卵もろもろ、悪徳
お前が殺らねば誰が殺る。
快楽に溺れた悪鬼外道共に、今こそお前の拳が唸る時だ。
悲しみを超え、進めナローマン。
全てのNTRとBSSを、地球上から物理的に根絶する――いつか必ず訪れるだろう、その日まで!
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