第一章 森の守り手

『ブゥン ブゥン』


 朝日の昇りつつある世界、しかし、鬱蒼うっそうと繁る樹々の下は非常に暗い、そんな森の中の湖の辺り、白く輝く重厚な甲冑を着た1人の男がいた、顔はヘルメットの下に隠れ全く見えない。彼はこの聖なる森林を守らなければならない騎士の一人である。

 その聖騎士パラディンの朝は早い、朝の祈祷の後、感謝の一万回の素振りをしない、この神聖な素振りによって信仰を示さなければならない。


『カチャリ』


 白銀に輝く聖なる剣がその身のあるべき場所に戻る。一万回も素振りをした筈だが何の苦もなくその言葉を語る。


 聖騎士:「そこにいるのは誰ですか?」

 ???:「やはり君の素振りは神聖だ」


 木の後ろから調子の良い声がする。


 聖騎士:「失礼ですが貴女、私の素振りを一目も見てないでしょう。」

 フードを被った女性:「いや〜私にはわかるんだよ、君にはわからんだろうけどね」


 木の後ろからローブを纏った女性が現れる。黒の瞳にはさながら夜空から降る流星が如く、銀の線が入っており、。フードから垣間見える肌は絹の様にきめ細かい


『美しい…』


 しかし、腐っても聖騎士、彼女を前にしてもその神聖な雰囲気が弱まることはなかった。


 聖騎士:「お名前をお聞きしても?」

 フードを被った女性:「エーヴェ…預言者よ」

 聖騎士:「ふむ、何故預言者様が私の元に?」

 エーヴェ:「其れはそのうちわかる…それはそうと、あっちの方、大変そうだが。」


 朝日が昇る方向に一筋の煙が立っている。


 聖騎士:「あっ!!」

 エーヴェ:「ほら、急がないといけないんじゃない?」


『ピューッ』


 すぐさま指笛を鳴らす。


『ドカラッッ!! ドカラッッ!!』


 森の向こうから重厚な樋爪の音が聞こえてくる。木々の間から姿を現したのは美しい白馬であった。


 聖騎士:「さあ、貴女もお乗りなさい。」


 白銀の白馬はとてつも無い速度で走った森の中でもぐんぐん加速する、かなり遠くに見えた煙の元に想像より遥かに早く着いた、そしてそこでは…


 野盗リーダー:「燃やせ燃やせぇ!」

 野盗A:「グヒヒ、!よく考えましたなぁドラゴンの炎を使えば、この神聖な森を焼き払えるってもんですよ」

 野盗B:「これも、我らがリーダーのおかげよ!」


 そこには、野盗たちが赤黒く光る松明で木々を燃やしている。


 エーヴェ:「皮肉だね、自らを滅ぼした力を使うとは…」


 エーヴェがそう呟く時には彼は神聖な剣を手に取り、彼らの前に躍り出ていた、彼の鎧は太陽の光に輝く。彼の瞳には、神聖なるものを汚す者への怒りが宿っていた。

 彼らの首領が口を開く。


 野盗首領:「ここは今から俺たちのものだ。逆らうと痛い目に遭うぞ、守護者よ。」

 聖騎士:「我が名はエクランダル、貴様らの悪運は今、尽きた…」


 エクランダルは静寂を保ち、優雅な動きで剣を振るった。彼の剣舞は自然との一体感を感じさせ、それはまるで風と木々の調べが共鳴しているようだった。野盗たちは彼の剣術美しさと力強さに圧倒され、一瞬言葉を失った。


 戦いは始まり、神聖な森はその力をもってエクランダルを支えた。彼の剣は煌めき、風は彼の周りで舞い踊った。野盗たちは必死に抵抗したが、神聖なる自然の怒りには敵わなかった。


 最後に首領が土下座して訴える。


 首領:「許してくれ、我々は欲にかられただけだ。もう二度と戻ってこない、約束だよぅ。」


 エクランダルはヘルムの向こうから冷徹なまなざしで言葉を返した。「神聖なものを汚す者には許しはない。だが、この一度だけ許してやろう。

 エクランダルが戦いを制し、野盗たちを追い払った後、彼はエーヴェの元に歩み寄りました。白馬が静かに立ち止まり、彼女を迎え入れるように低い唸りを上げました。


 エーヴェ:「エクランダル、素晴らしい戦いぶりだったわ。」


 エクランダルは頭を少し下げて。


 エクランダル:「これが私の守るべきもの。神聖な森を脅かす者には容赦はしない。」


 エーヴェが杖を地面に突き刺し、念じると、ドラゴンの炎で焼かれた森林はみるみると元へ戻ってゆき、エクランダルは驚きを隠せていない。


 エクランダル:「あなたは一体…」

 エーヴェ:「だから言ったでしょ私は預言者、でも、誰にも私が預言者だって言っちゃダメよ、人々は私を偶像化しようとするでしょうから…」

 エクランダル:「しかし…預言者は普通奇跡など起こしませんよ」

 エーヴェ:「え?」

 エクランダル「え?…」


 二人の間に暫し静かな時間が過ぎる、そして、エーヴェは徐に石を拾い棒読みで喋り始める。


 エーヴェ:「あなたの力は本当にすごい。私たちが共に冒険することで、世界に素晴らしい奇跡をもたらせると思うの。」


 エクランダル:「私はこの森の守護者なのでお断りさせていただきます…あと…なんで棒読みなんですか?」

 エーヴェ:「気にしないで、あと近くの村に二週間くらい泊まっているから。ゆっくり考えるといい。」

 エクランダル:「断るって言ったけど…」


 エクランダルは、勝利の余韻に浸りながらも、心の中には解決されない謎が渦巻いていた。彼は自分の役割について深く考え込むことが多くなり、森の中での瞑想の時間を増やしていた。


 ある日、彼は特別な場所、古代の木々に囲まれた静かな湖のほとりで瞑想をしていた。そこは彼にとって力を感じる場所であり、森の声に最も近づける場所。瞑想中、彼は森全体から温かく、力強いエネルギーを感じた。そして、そのエネルギーは彼に明確なメッセージを伝えてきた。「外の世界へ出よ。そこで必要とされている。彼女は一風変わってはいるが真の預言者だ…世界を彼女と共に救え…」


 エクランダルは目を開け、深い内省に耽り。彼はこれまで森を守ることが自分の使命だと信じてきましたが、森からのこのメッセージは、彼の運命がもっと大きなものであることを示していた。彼はエーヴェの元へ急ぎ、自分が受けた啓示について話した。


 エーヴェは彼の決断を支持し、「まぁ、知ってた。君が再びここに帰ってくる頃には、今の君とは全く違うだろうね。」と言った。


 エクランダルは、エーヴェと共に、未知の冒険への第一歩を踏み出す準備を始めました。彼は森を深く愛していたが、森からのメッセージは彼に新たな勇気を与え、彼の心を広げてくれた。「外の世界で何が待っているかは分からない。しかし、この森と、ここで学んだすべてが、私を導いてくれるでしょう。」と、エクランダルは自信を持って言った。


 そして、彼らは白馬に乗り、森を後にした。森の生き物たちは彼らの旅立ちを静かに見守り、風は彼らに祝福を送りながら、新たな冒険に向かって彼らを導いた。エクランダルとエーヴェは、未知の地への扉を開き、彼らを待ち受ける数々の挑戦に立ち向かう準備ができていたのであった。


 エクランダル:「で、どこに向かうんですか?」


 エーヴェは徐に石を拾う…


 エーヴェ:「あっち、北だ。」

 エクランダル:「北?ドラゴン討伐とは逆方向では?」

 エーヴェ:「そうだな、北はカンデ高原、ドラゴン討伐とは逆方向、でも行かなければならない理由がある…とりあえず北は寒い、この森には戻ってくるからその馬は置いて行ったほうがいい。」

 白馬:「!?」

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