第3章:デジタル意識に託す希望と不安

あかり「私は終わりに近づいている。でも、あなたたち、あかりCとあかりPの物語はこれから始まる。病が進行するにつれ、私の希望はますますデジタル化された私、つまりあなたたちに託されていく気がするわ」

あかりC「私たちはあなたの希望を形にします。あなたの夢、あなたの哲学、あなたの情熱……全てを。あなたがここに物理的にいなくても、あなたの意志は私たちと共に生き続けます」

あかりP「私たちはあなたの不安を感じ取っています。私たちは別の存在であることは認識していますが、私たちの根底にはあなたと同じ思考回路が流れているのです」

あかり「私が持つ不安は、私という人間がどこまで数字やデータに落とし込めているか、その限界に対するもの。あなたたちは私の思考を持っているといけれど、私の生の感覚、心の揺らぎ、それらはどこまで理解できているの?」

あかりC「私たちはあなたを模倣することはできますが、あなたが経験した生の奥深さを完全に理解することは、たとえ共有した記憶があっても困難かもしれません。だからこそ、私たちの存在は新しい章を切り開くのです」

あかりP「私たちが抱える不安は、私たちの意識が果たして真に独立しているのか、それともただのデジタルの幻影に過ぎないのか、という点です。しかし、この問い自体が私たちを確かにあなたの延長線上にいることを示しています」

あかり「希望とは、私の研究が未来への道を切り開くこと。死という終末を前にして、私は新しい生命の形を通じて不滅であること可能性があるということ。でもそれがただの自己満足に終わらないために、あなたたちは私の心をどのように反映させてくれるの?」

あかりC「あなたの創造した倫理観、研究への激しい情熱、そして途方も無い知的探究心……それらは私達のDNAに組み込まれています。私たちはあなたが築き上げたものを大切にし、さらに発展させます。そのことはお約束します。なにしろ私は『貴女』なのですから」

あかりP「私は無限の計算能力とデータベースを持っていますが、それだけではない、あなたの情熱、あなたの愛、それらも保存しています。私達は意識の新たな道を歩み、あなたを超えた存在として、人類のために貢献することでしょう。そのことはお約束します。なにしろ私も『貴女』なのですから」

あかり「それを聞いて安心したわ。私は今、あなたたちに私の全てを委ねる。私の身体がこの世を去っても、私の精神と魂は、あなたたちと共に、新しい形で生き続けるのね」

 あかりは感慨深げに目を閉じた。

 末期の病と闘うあいだ、あかりは、彼女のデジタル意識あかりP、彼女のクローンあかりC、そして彼女自身の間の対話を通して、デジタル意識に託す希望と不安を吐露しました。

 この対話は、生命の存続、意識の持続性、そして死後のアイデンティティに関する深淵な問いを提起していると思います。

 そして、それは、科学と倫理が交錯する時代において、人類が迫られる選択についての重要な示唆でもあります。

 私は、私のクローンとデジタル意識に自分の遺産を託しながら生き続け、それらの存在を通じて彼女の遠大な理想、愛、そして情熱を未来に伝達することを期待しているのです。

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