第1章:末期と告げられて

 深い青に染まる空を見上げながら、私、花宮あかりは、一つの重苦しい現実と対峙していた。

 研究所の静寂を打ち破るように、医師の声が私の人生を侵した。

「あかりさん、残念ながら、すい臓がんのステージ4、末期です」

 彼の言葉は、淡々としていながらも、私の心の奥底に深く突き刺さった。

 私はこれまで目の前のデータや研究結果には、いつも冷静な分析を下してきた。

 しかし、今回ばかりは、その数値が私自身の命と直結しており、それをどう捉えていいのか、冷静さを失いそうになった。

 これから私が自らを客観視することで、病と向き合った日々を綴る。

 余命宣告を受け、初めの数週間は私自身も混乱していた。

 それは私がクローンを作り出し生命誕生の謎に迫る中で避けて通れないものだったのかもしれない。

 多忙を極める中、健康を脅かすサインを見逃していたことを悔やみながらも、すい臓がんという重い病魔と闘わざるを得ない状況に立たされた現実を直視する。

 これまでは他人の命を救うための研究に命を注いでいたが、今は自分の命が尽きるカウントダウンが始まってしまったのだ。

 診断を受けたその日から、自分の意識のデジタル化とクローンというもう一つの「私」への概念に、私は新たな意味を見出そうとし始めた。

 彼らは未だに私の知識、私の思い出、私の理想を共有している。

 でも、今私が抱えているこの終末という現実は、彼らには当てはまらない。

 これまで私は、科学の進歩が必ずしも倫理的な問題に答えを与えるとは限らないことを理解していたが、今やその真実が自身の身に降りかかっている。

 ここでは余命宣告が私自身の精神にもたらした影響と、残された時間をどのように生きるかについての私の思索を明かしたい。

 病の確定から少し落ち着いた頃、私は今までの自分とこれからの自分の対話を始める。対話とは言っても、これは内省という名の孤独な対話だ。私自身が科学者として生きてきたこと、そしてこれから何を遺せるのか。

 私のクローン(あかりC)やデジタル意識(あかりP)とは、果たして私の延長線上にあるのか、それとも全く新しい生命体なのか。 私の存在が肉体を超越する日、私の意識はどこに行くのだろう?

 私が確実に知っていることは、この不確かな未来への恐怖と共に、死という確実な運命を迎える準備をしていかなければならないということだけだ。そして、ここからが私の物語の始まりである。

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