第8話 そんな風になれたら


朝ご飯を食べ終えて少しした頃、宗二さんは自室に戻り

私はなんとなく、お庭で考え事をしていた


宗二さんはどんな話を書いてるんだろうとか

この着物は古くなってしまったけれど、あと何年着れるかなとか


そんなとき________


「宗二さん、宗二さん。手紙が来ました!宗二さん宛てです!!」

「僕宛ての手紙ですか?」


一体誰から......と呟きながら、手紙を見る宗二さん


「.........と..........からです」

「?」

「妹の五月さつきからです」

「妹さんですか!!?」


確か結婚式のとき、こちらをじっと見ていた

私と同い年らしい人


「.........ただの近況報告と世間話。それと」


それと.......?


「仁子さんと話してみたいから、来週うちに来たいと」

「五月さんが私にですか?」

「嫌なら断ってもらって構いません。五月には僕から言いますので」

「い、いえ!宗二さんのご都合が悪くなければ、是非!!」


結婚式で少し顔を合わせただけで、一言も言葉を交わしていない

宗二さんの妹さん......どんな方なんだろう


「僕は構いませんが、その......妹は、五月は気が強すぎるというか......」

「きっぱりとした方なんですね」

「きっぱり......きっぱりしすぎているというか.........」



宗二さんが言うには、五月さんは兄四人に囲まれて育ったからか

男の人にも負けない気の強さと正義感、そして負けず嫌いで

自尊心が非常に高く、自分にも他人にも厳しいらしい


仲良くできるかな

高望みだと分かってはいるけれど

折角、同い年の女の子

しかも宗二さんの妹で、私から見ても義妹になる存在


できることなら、義理の姉妹として

良い関係を築き上げたい


「来週......五月さんが来週うちに.........」

「仁子さん、あまり気負いはしないでください。言葉一つ取っても少し気性の激しい子なので、少しでも嫌だと感じたら.......」

「宗二さん...」

「はい?」


「私、絶対に五月さんと仲良くなってみせます」


何かに燃える、気合を出す

そんな瞬間はまさにこのことなのだと思う


「..........無理はしないでくださいね」

「大丈夫ですよ!」


とても心配そうに不安そうに、こちらを見る宗二さん


「僕も由昌も、よく五月に言い負かされて泣いたものです...」


あんなに幼い子のどこにそんな大人をも言い負かす力があるんだと、今でも思い出して泣きそうですと、少し涙目になる宗二さん


失礼を承知で思ってしまった

由昌さんを言い負かせれる人いたんだ!!

私には絶対に無理だ


「まあ、うちはその.........血の気が多いというか、気性の激しい人間が多いので」

「でも宗二さんはとても穏やかな人ですよね」

「そう......でしょうか........?」

「はい」


宗二さんは焦っていたり、困っていたりすることはよくあるけれど

基本はそれでうじうじしてしまったり、辛くなって悲しんで

殻にこもってしまうような人に思える


「僕だけ母親が違いますから、そのせいかもしれません」


結婚式のときに誰かがひそひそと話していた


どうして次男にだけ、あんなに構うのか

長男の結婚相手は妻に任せたくせに

遊女の子だろう?放っておけばいいものを


本人の口から聞くまでは

自分の中で勝手にそれを真実にしてはいけない


「すみません。黙っていて......」

「いえ、私も今まで聞こうとしませんでしたし」


そもそも、聞いていい内容なのかな


「ありがとうございます」


その一言には、色んな意味がこもっているような気がした

上手く言えないけれど


いつか何の気遣いもなく、話し合えるような間柄になれたら...なんて

欲張りすぎだなと反省した

ウメノ姉さんも、こんな風に悩んだりしたのかな


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