第16話 隠れすぎた隠れ宿

 E会長ヨォ。お前、こんなん作る前に私の社宅を用意しろよ!

 って言う話。

 ごめんなさいね、愚痴みたいなお話ばかりで。


 まず、先日古民家(ただの空き家も言い方を変えれば雰囲気も変わるよね)を改装したコンドミニアムを私のボスが営業開始させたということから始まります。いや、そもそもそんなものを始めようとしたところからか。

 離島の戸建てのコンドミニアム。

 五島の一番北に位置する何もない離島です。

 他の島のように世界遺産になっている潜伏キリシタン関連遺産があるわけでもない。

 温泉があるわけでもない。

 ただ海に囲まれた島というだけ。

 好んで来るのは釣り人くらい。

 観光客は非常に少ないです。

 私の近況ノートの写真をいくつか見たらわかると思いますが、夕日や星空は確かに綺麗です。ですが、その程度であればまだ他にも見どころが多くある別の島へ行った方がいい。そう思います。

 それを踏まえた上で、そのコンドミニアムのコンセプトを言いますよ。

「富裕層をターゲットにしたリラックスできる隠れ宿」

 らしいです。

「富裕層がターゲット」というのは、当然外部にアナウンスしません。ただ、料金がアホなので、「なんかそういうの狙ってる?」とは気づかれるでしょう。


 いいですか?

 何もない島です。苦し紛れに「何もない」を売りにするしかない島です。多分ちょっと齧った程度に耳に入ったデジタルデトックス的な考えもあるのかもしれません。

 そして、島の中でも決して眺めがいい立地でも、利便性がいい立地でもない。

 その宿が2名一泊の値段が閑散期3万2千円、繁忙期4万8千円なのです。

 内装にこだわってお金を掛けたらしいですが、その内装が悪趣味でバランスも悪い。不必要なサイズのテレビの配置なんか特に。

 キッチンの小物は興味がないのか、百均で売っているようなものばかり。

 誰がこんなとこ泊まるんだ? ってね。


 この島、そもそも観光客が少ない割に、工事業者が現在多く島に入っているせいで宿不足が続いています。

 釣り客は車中泊している人も多い。

 それでも工事業者を泊めず、観光客だけ受け入れているゲストハウスもあります。

 そこはちなみにキッチン共用で、ドミトリーが一泊3千3百円。個室が一人5千円弱。

 数軒ある民泊が一人一泊一万円弱(原則2人以上から受け入れ)ですよ。


 もう一度言う。誰がこんなとこ泊まるんだ? 富裕層? は?


 何が何でもこの島で一泊したいという人で、お金の使い方のネジがズレている人なら利用するかもしれない。

 しかし、五島方面で旅行先を探していて、この宿以外泊まる所がないとなると、普通の人は他の島に泊まります。だって、特に見どころもない島です。素泊まりに1人2万以上払う価値はありません。


 では、実際にオープンしてどうなのか。

 すでに利用した方々、このエッセイを書いている現在までに入っている全ての予約をひっくるめて13組。オープンして一ヶ月が経つと言うのに、です。

 これでもこの数週間で予約が増えたんですよ。

 なぜなら、オープンして数週間で、全く予約が入らなくて焦ったのか、特別キャンペーンとか言って値段を下げたから。

 富裕層がターゲットなんて言っていながらね。恥ずかしいにも程がある。

 客質が落ちて、SNSで酷評される未来しか見えない。


 SNSといえば、この宿のインスタがまた最悪。

 フォローしているアカウントが、E会長が経営している飲食店とか、レンタカーとか、ごく身近な身内とか。たったの6。ちなみにフォロワーは今現在103人。投稿数19に対し、コメントが来たのは2件のみ。

 そのうちのひとつに「今度帰省した時に利用したい」と書いてくれていたのに、いいねを返しただけで、「ありがとうございます」も「お待ちしております」もない。

「こんな運用なら開設しない方がいい」とY氏を通じて進言したのは伝わっていないのか。

 そうそう。私はE会長絡みのアカウントは全てブロックしています。間違って私の投稿に「いいね」でもされたら印象悪いですからね。


 早くこんな醜態を晒すだけの宿は閉めて、私の住宅問題を解決してくれ。

 ※当初の約束通りなら、今年の四月には自分専用の社宅を用意してもらっているはずでした。嘘つきめ。


 次回はちょっとポジティブな内容になるよう心がけます(本当か?)

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