ライトノベルは衰退しました!

 どうも、熊ノ翁です。


「ライトノベルはもう売れない! 終わりだ!」「ライトノベルは漫画の劣化コンテンツ! 下位互換!」みたいな意見が流れる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?

 ライトノベルの新人賞に応募して投稿小説サイトからの書籍化を夢見る物書きからすっと、こんな感じのご意見に遭遇すると失意のどん底に叩き落されますよな。


「嗚呼、頑張って書籍化したところで先細りの未来しか俺たちラノベ書きには残されてないのか」

「どれほど頑張って書いた所で私たちの小説は結局の所、漫画の代わりに過ぎないんだ」


 そう思って目の前の筆やらキーボードやらをへし折りたくなる事ウケアイなこの手のご意見。

 今回は、インフルエンザの如く定期的に流行しては幾多の物書きのモチベーションをリーマンショック時の株価の如く下げてきたであろうこちらの話題について調べていきたいと思います。

 皆様、ご笑覧頂……くのは今回は難しそうだなぁ。


 さて、何はともあれまずは「ラノベはもう売れない!」から行きますか。

 Twitter上では売れない原因として「終わりが見えないから」だの「漫画やアニメには勝ちようがない」だの「ライトノベルでなくてはならない強みが存在しない」だのと色々と言われています。

 そこはかとなく説得力を感じるものから首を傾げるものまで種々様々な「ラノベがダメな理由」が語られております。

 ですがまあ、この辺については仮説はともあれデータを見ない事には始まりません。


 というわけで。

「ラノベは本当に売れていないのか」について、実際の売上データを元に考えていきましょう。


 ラノベが売れていないかどうかを判断するにあたり、まず必要なのは「比較」です。

「売れている」「売れていない」というのは基本的に何か比較対象や基準があって初めていえる事柄です。

 よって、何を基準に、何を比較対象に「売れていない」と判断するのかをまず見てみるのがこの手の話題を検証するための第一歩となることでしょう。


 まず最初にデータとして抑えておきたいのが、ライトノベルを含めた書籍全体の売上。

 こいつを見ていきます。

 出版科学研究所様の調べたデータによると、出版業界は1996年がピークでその売上の総額は2兆6564億円となるそうです。

 漫画ですとグレートティーチャー鬼塚や封神演義、そして犬夜叉の始まったのがこの年でしたね。

 テレビドラマですと「ナースのお仕事」や「金田一少年の事件簿」とかが結構流行ってた印象あります。

 ゲームはたまごっちが尋常じゃないくらい流行り、ポケモンがじわじわ話題になって売上伸ばしていった、そんな時代ですね。

 うーん実に懐かしい。


 ちょいと話を戻しまして、出版不況と言われて久しい近年のデータはどうかというと、2020年度の売上は1兆6168億円ほどとなっています。

 なので、出版業界はそのピークと比較してみるに売上は40%減の状況にあるという事がわかります。

 なるほど。

 こうしてみると確かにその落ち込み具合はかなりのものであるのがわかります。

 出版不況と言われるのも尤もな話ですね。

 

 では次に我らがライトノベルの売上を見てみましょう。

 ライトノベルの売上のピークは、オリコンエンタメ白書様調べによると2015年で351億円。

 ちなみに、オバロがアニメ化された年ですね。

 翌年の2016年にはこのすばがアニメ化。なろうの注目度が高まっている年ですな。

 対する近年2019年の売上データは271億円となっています。

 ピークとの売上の差を比較してみるに減少率は24.4%。


 さて、この出版業界全体の減少率とライトノベルの減少率。

 二つのデータを見比べてみるに、出版業界全体はピークからは40%の売上減。

 一方ライトノベルはというと24.4%減となるわけで、どちらも落ち込んではいるもののピークとの比較で見てみるならばライトノベルの減少率は出版業界全体と比較してみるならむしろ健闘している方です。

 もちろん「4年で24%減ってるほうがヤバいだろ」という見方も出来ますが、それをいうなら2010年度の売上は244億円ほどあるので、約10年前と比較してみるとむしろ増えています。

 2007年、ハルヒブームの影響でラノベバブルと言われていた頃でさえ、ライトノベル業界の売上は大体300億円規模だと言われています。


 よって「ライトノベルは売れていない!」という意見については数値を見る限り「ピークよりは売上が落ちているが、出版業界全体で見るなら売れてる方」というのがより正確な所でしょう。


 では次です。

「ライトノベルは漫画の劣化コンテンツ」という意見について考えていきましょう。

 いやあ、なんというか実にパワーのあるワードですね。

 自分が心血注いで書いている物語が劣化コンテンツだとか言われたら、思わず部屋の隅で体育座りして顔を膝にうずめてしまいたくなります。


 しかし、うつむいてばかりでは前に進む事は出来ません。

 今一度顔を上げて部屋の隅から立ち上がって、その劣化であると言われている理由と向き合ってみようではありませんか。

 泣くのはいつだって出来ます。

 筆を折るのもキーボードをクラッシュさせるのもまた同じ。

 今はその前に、投げつけられた意見を曇りなき眼で見定めてみましょう。


 まず、何故ラノベが漫画の劣化コンテンツなのか。

 その理由をざっと調べてみるとこんな感じの事が言われているようです。


「ラノベはアマチュアの拾い上げが横行していて品質が担保されていない」

「コミックスの原作としての価値しかない」

「シリーズ化前提なのでダラダラしている」

「ライトノベルでなければ得られない魅力がない」


 いやあ、凄い言われようですね。

 それでは「ラノベはアマチュアの拾い上げが横行していて品質が担保されていない」からいきますか。


 まず大前提として、拾い上げられる作品というのは何の理由もなしに拾い上げられるわけではありません。

 この拾い上げというのはネット小説投稿サイトに掲載され、読者の人気ランキングで上位に入ったものであったりたまたま編集者の目に留まったものであったりするのでしょうが、どのケースにおいても「読者の選定」「編集者の選定」という関門を潜り抜けてのものです。


 書籍化とはビジネスです。

 端的に言えば売れる見込みがあるから出版社はネット小説の書籍化を行います。

 そこには商売を託すだけの何らかの理由があるわけで、そうでなければわざわざ経費かけて本なんぞ作りません。

 その品質の担保というのは「読者から既に読まれたという実績」もしくは「編集者の選択眼」に今の時代はなっているのでしょう。

 品質保障の基準が新人賞とは別軸でなされたというだけであって、金が絡む以上そこに何らかの理由や担保はあるはずです。


 ましてや投資や経費を掛ける事をことの他嫌がるのが我らがジャパン企業です。

 むしろ今は書籍化を行う上での基準や売上期待値をガチガチに固めているからこそ、数値から来る品質を重視しているからこその現状なのではないでしょうか。


 次に「シリーズ化前提なのでダラダラしている」という意見について見ていきましょう。

 これに関しては、データを見ていないので断言は出来ませんがもしかするとあるかもなーとは思っています。

 理由は拾い上げ。

 小説の新人賞や書き下ろしの書籍については仮に話の続きを匂わせるにせよ基本は一冊で話を一区切りつけて売り出すことがほとんどです。

 が、拾い上げの場合そもそも最初のネット連載時にそういった枠組みの中で作られてるとは限りません。

 そうなると、話の途上部分で本が途切れてしまう事となり売上が振るわず続刊が出ないというケースも考えられるからです。

「シリーズ化前提」というより一冊区切りでの物語構成が必須とされていない環境からの拾い上げが原因になっているのでは、とは熊個人的には思う所です。


 が、それをもってして「ラノベは劣化した」となるかはわかりません。

 シリーズ化してダラダラした作品が仮にあったとして、それはシリーズ化が許されている以上相応の売上と人気があるわけで。

 ダラダラしている事、シリーズ化している事自体が劣化につながるとは必ずしも言えないんですよね。

 てかこれ考えてみれば別にライトノベルに限った話でも無いような……

 シリーズ化前提なんて基本週刊漫画全般そうなわけで、新連載時に打ち切り前提で描いてる漫画家なんてまず居ないでしょうし。

 

 そして最後は二つまとめていきますか。

「コミックスの原作としての価値しかない」

「ライトノベルでなければ得られない魅力がない」

 この二つ。

 というかこの二つに限らず全ての理由について言える事なわけですが。


 そもそも人間、買い物する時価値や魅力を感じなければ金出して品物買いません。

 考えてもみてください。

 コンビニやデパート行って、価値も魅力も感じない物買いますか?

 欲しいものだから皆さん金払って買うわけです。


 もしここで「いいやそんなことは無い! 俺は価値も魅力も感じなくとも金出して買い物するぞ!」という方がいらっしゃいましたら、是非熊までご連絡ください。

 その辺で拾った小石を50万円位でお売りしますので。


 だもんで、ラノベに「コミックスの原作としての価値しか無い」とか「ライトノベルでなければ得られない魅力が無い」ってのは、現状の売上額である270億円程度の価値はあり、年間270億円程度の魅力はあるわけです。

 その金額を「価値が無い、魅力が無い」と判断するかどうかは人それぞれ答えがわかれる所でしょうけどもね。


 最後に。

 人の好みは種々様々です。

 物語もまた同じ。

 何をもって質の良い物語かそうでないかを判断するかは人それぞれ違います。

 誰かにとっての人生の一冊が、別の誰かからするとクソ紙同然の読むに値しないゴミ小説、なんてことは往々にしてあるわけです。

 世間の評価がどれだけ評価が低くとも、読者の胸を打ち感動させた物語は、その読者にとっては良作となるでしょう。逆もまた然りです。


 一物書きとしては、劣化したと蔑む人よりも楽しんで読んでくれる読者さんに目を向けて、文章や物語を紡いで行きたい所ですな。

 感想をくれるのも、オススメをしてくれるのも「あれは劣化コンテンツだよ」等と嘲笑する人では無いのですから。


ライトノベルは衰退しました!……END

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