第3章 領改善編

第40話 嵐の前の静けさ

 昨日は疲れからかぐっすり眠ってしまった。やっぱり一昨日の大会が響いている。あと、準男爵って言われたけれど今の僕はどういう立ち位置なんだろう。


「おはようございます、お坊ちゃま」

「うわぁ!?な、ナイパー。驚かせないでよ………」

「申し訳ありませんお坊ちゃま。扉をノックしても反応がありませんでしたので、安否を確認しようかと思いまして。一応、朝食の準備が整いましたのでお知らせに参りました所。眠られていらっしゃったので、すぐに退出致そうと考えていました」


 あ、そっか。ご飯用意してくれるんだね。


「ありがと、すぐ行くね」

「お坊ちゃま、そんなお急ぎになられなくても大丈夫で………いえ、やっぱりお急ぎになられた方が良いかもしれません」

「?」


 ナイパーは『失礼します』と言ってそのまま部屋を出て行ってしまった。なんだろう、また何か問題でも起こったのかな………まだ課題は残っているのに。


 取り敢えずクレジアント関係の問題は解決したと言っていいと思う。クレジアントは僕の彼女になってくれたからね、正直全くそんなことになると思っていなかったばかりに良すぎる誤算だ。基本的に僕もそこそこ強いはずだけれど、例えば学園の先生レベルの相手が来たとして僕一人で勝てるかと言われたら限りなく不可能に近いだろう。そんな時に、クレジアントと一緒に戦う事が出来たら何とかなると思う。


「でも、でもなぁ………」


 その前にまずはレンメル領の状態から直さないといけない。僕が昨日屋敷に向かう途中に見た領民の人はきっと沢山いるだろう。昨日は夜だったからね、比較的皆が寝ているような時間帯に帰ってきていたからあまり人は居なかったけれど。


「会いに行くしかないか………」


 クスタフ・ファイランド・レンメル。僕の父、レンメル領の領主。僕と同じく作中では屈指の噛ませ犬。僕の母をストレスで他界させた人。僕から言うのもなんだけれど、大分腐っている人間だと思う。僕は母に対する記憶は全く無いけれど、優しい人だったと聞く。


「まぁこれでも学園に行くお金とか、この離れの維持費とか、お金では支援してもらってるんだけど………それも領民から巻きあげたお金だしなぁ」


 本当に何をやっているというのだろうか。祖父が男爵から子爵に陞爵してから、いってしまえばボンボンになりお金の使い方が極端に荒くなってしまったと聞く。祖父は真面目な人だったと聞くけれど………少しでも見習う部分は無かったのか。


 思わず頭に手を当ててしまう。まずい、こんなことをしている場合ではない。今日は父に会いに行くんだし、何よりもさっきナイパーが言っていた事を下に降りて確認しなければならない。


 パパっと身の回りの支度を済ませて下へ降りる。そう言えばキュールとクレジアントは昨日どうだっただろう?ぐっすり眠れてるといいけれど。


「ご飯楽しみだなぁ」


 学園ではとにかく強くならなくちゃいけなかったから昼ごはんは食べていなかった上に凄く健康的な食事を摂っていた。人間、1食は抜いても全く問題ない。2食、しっかりと一日に必要な栄養素を摂れることが出来れば時間の節約にもなる。


「あ、お坊ちゃま。こちらへ」

「うわぁ。凄いね!やっぱり料理長の作る料理はおいしそうだなぁ~」


 そう言いながらも、僕はナイパーに目配せをする。『さっき言っていたことはなに?』って感じで。ナイパーはニコニコしているだけだ。あれ、前まではこうやって目配せをするだけで心を読んで返答してくれたのに。ちょっぴり悲しくなる。


「………あれ?キュールとクレジアントが居ない」


 流石に朝食を先に食べるのも悪すぎるし、呼んでこよう。


「ナイパー、二人の部屋はどこ?」

「二階に上がってすぐの客人用の部屋二つです」

「ありがと」


 階段を上がって部屋をノックする。けれど、返事が返ってこない。寝ているのかな?まぁ昨日は疲れただろうしね。僕だってぐっすり寝てしまっていたから仕方ない。もう一つの部屋をノックしても反応が無かった。


「大丈夫かなぁ」


 少し心配になりながらも僕は階段を降りてさっきの場所まで戻ろうとする。と、階段下で二人が居た。しかも、給仕さんの恰好をしている。平たく言えば、メイド服を着ている。


「え?」

「あ、おはようクライト!」

「お、おはようございます………クライト」

「え、何をしてらっしゃるの?」


 二人の見慣れない恰好に少し戸惑う。こういう時って大体敬語になってしまう。なんでだろうね?それで、普通になんで二人はメイド服を着ているのだろうか。メイド服は………長い丈のものだ。名称はあんまり覚えていないけれど、クラシカルロング?みたいな感じだった気がする。


 なんていうんだろう。モノトーンカラーで落ち着いた印象もありながら、白いフリルもついているからか可愛らしさもある。いつも制服だけれど、こういう服も可愛いと思った。


「昨日の夜、ナイパーさんに頼んだんだ~。『ただで泊まるのも悪いので何か手伝えることはありませんか?』って。そしたら、『お二人が宜しければ給仕用の服がありますが、どうしましょうか?』って言われたからお願いしますって感じでこうなった!」

「キュールも?」

「は、はい。クレジアントさんと一緒に………」


 ナイパーの方向を見るとニコニコして立っている。ナイパー、分かってて無視したりとぼけてたりしてたな………!


「ご明察です。お坊ちゃま」

「もう!ナイパー、僕を騙さないでよ!」

「騙してなどいませんよ。ただ、事実を言っていただけです」

「むっ………確かにそうだけどさぁ」


 確かに嘘はついてなかった。でも、いつものナイパーだったら僕が聞く前に何でも理解して説明してくれてたからついつい全部説明されてると思ってたんだよ。ナイパーの頭の良さは折り紙付きだからね。


 こういう時に女の子を褒めないのは良くない。ナイパーの前でその、いちゃつくと言ったら表現が悪いかもだけど。女の子を褒めるのって恥ずかしいんだけど………仕方ない。二人だって僕を喜ばせるために恥ずかしいところをやってくれてるのかもしれないんだから。


「とっても可愛いと思うよ」

「えへへぇ、ありがと」

「あ、あ………あぁうぅ………」


 二人とも顔を赤らめてしまった。流石に僕でもこれは気が付く。だって、僕が恥ずかしいんだもの。ナイパーの方向をチラッと見るとニコニコしているままだ。それ止めて欲しい。


 そう言っている間に他の使用人の人たちがテキパキと食事を運んでいってくれている。いつの間にか、テーブルの上にはほぼ全て食事が並べられている。なんかちょっと申し訳ない。


「ありがとう。それじゃ皆、食べよ?」

「はい!」

「うん!」


 キュールとクレジアントを始めとして、僕達が全員席に着く。ナイパーと使用人の人たちも一緒だ。他の家でどうしているかは分からないけれど、小さい頃に母親が亡くなった僕はいっつも使用人の人達と一緒にご飯を食べていた。最初は『滅相も無い』って言われてたんだけど、小さい頃からずっとお願いしていたらいつからか一緒に席に着いてくれるようになった。


「では、失礼いたします」


 先に毒見役の人が食事を一口ずつ食べる。僕はこれ、別に要らないと思うんだけどナイパーが『これだけはしっかりやらないとダメです』っていうからそこまで言うなら別にいいかなって思っていつもやってもらっている。


 なんだか懐かしい、まだ半年位しか屋敷から居ない時間は無いけれど。


「頂きます」

「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」


 瑞々しいサラダを食べて、暖かいスープを飲む。この時間が好きだ。


「美味しい~」

「本当ですね………」

「うん、美味しい」

「おぉ、お二人のお口にも合ったようで何よりです」


 朝食を食べ進める。


 この静かな時間が、ずっと続いたらいいのに。


「ご馳走様」

「ごちそうさまです!」

「ごちそうさま」


 美味しかったし、温まった。料理長の料理はいつも美味しくて学園でパパっと済ませる朝食が何だか物足りなくなってしまう。


「………それじゃあ、父に会いに行ってくるね」

「あら?どうされましたか?」

「領地の事、そろそろ言わないと」

「あぁ、その事でしたか。お坊ちゃま………大丈夫ですか?」

「うん。行ってくる」

「………気を付けて行ってきてくださいね」

「ありがと、ナイパー」


 仕方ないんだ。このままじゃ、僕は破滅してしまうから。




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