第37話 決着

 ドゴォンッ!!!


 と、大きな音を立てて剣が着弾する。残念ながら、ストライク先輩の頭には当たらない。まぁ当たったら当然ほぼ確実に死んでしまうので当たらなくて良かったともいえるかもしれないけれど。ストライク先輩が魔法武器から逃げながら魔法剣の着弾したところに剣の衝撃波を飛ばしている。でも残念、まだ僕は着地してない。

 僕は魔素障壁を全身に張りながら着地地点に魔法で小爆発を起こす。落下のエネルギーを相殺したところに風魔法と水魔法を使って出来るだけ着地の衝撃を和らげる。そうすればあの高さから着地しても僕は無傷だ。


「うォォォォオオオオイ!!!!! なんていう事でしょうか!!!!! あの高さから落下してもクライト選手に傷が付いていません!!!!! 思わず私も変な掛け声を上げてしまいましたァァ!!!」


 僕は地面に突き刺さった剣を素早く抜いて、ストライク先輩に向き直る。


「ははっ!ようやく降りてきた!」

「………っ!」


 何か来る。


 構えているとストライク先輩は急接近をしてきた。咄嗟に斬りかかってきたストライク先輩の剣を弾いて、地面に刺さった時に消えていた魔法を剣に付与し反撃の姿勢を取る。けれどストライク先輩は横に受け身を取りながら転がっていく。ストライク先輩が消えた目の前からは大量の魔法を付与された土武器が僕に向かってきていた。


「ああああぁぁぁぁぁ!!!!! クライト選手がピンチです!!! ストライク選手の圧倒的な判断力と観察力によってクライト選手に自らが仕掛けた魔法を向かわせることに成功しました!!!!!」


「うぅッ!!!」


 即座に土武器に付与された魔法を消して、眼前まで迫ろうとしている土武器を剣で壊す。だけれど、一部の土武器を当たってしまった。体中に一瞬にして切り傷が付いてしまった。やっぱり、ストライク先輩は戦闘時の頭の回転が速すぎる。流石Sランク冒険者と言ったところだろうか、まぁ僕としては止めてほしいのだけれど。


「これにはあのクライト選手も対応を仕切ることが出来ません!!!!! それでも最小限にまで被害を抑えることに成功していることは圧巻の一言に尽きますが!!!!!」


 切り傷を回復魔法で治そうかとも思ったけれど、僕が使う回復魔法はキュールみたいに戦闘中に即回復使える程熟練度が足りていない。多分回復魔法を使っている間に僕の首筋にストライク先輩の剣が近づいてきて確実に負けるだろう。だったら、


「………すぐに決着つけさせてもらいます」

「へえ、いいね」


 僕から近づいていく。切り傷が痛むが今は我慢するしかない。


 ストライク先輩と再び剣を交える。今は魔法剣にはしていない、何故ならストライク先輩が逃げてしまうからだ。剣を交えながら、僕は両脇に厚い土の壁を創る。逃げ道を消すためだ。もう、僕のやりたいことは分かっただろう。


「くッ………!」

「ようやく、その顔してくれましたね」


「おぁぁぁぁああああああ!!!!! 今度はストライク選手がピンチです!!! 今度は自分が使った戦法を相手に上手く活用されております!!!!! お互いがお互いの作ったものを利用して相手を打ち負かそうとしています!!!!!」


 初めて、ストライク先輩が苦々しい表情を浮かべた。いつも飄々と一瞬で試合を終わらせてしまうストライク先輩は僕と戦っている間もずっと無表情だった。関心した声を出していているのは、まだ僕を下に見ていた証拠だった。


 今ここで、初めて僕を『戦える敵』と認識したのだろう。ストライク先輩は、後ろに退いて抜刀の構えを付ける。ストライク先輩のその構えは、僕の生存本能がと言っている。でも、僕だって、退けない。退けないんだ………!!!


「横薙ぎ一閃」


「うわッ!!!??? な、なんですか!!!!!」


 剣が光った。


 ストライク先輩の剣が、大きな衝撃波を出して土の壁を横真っ二つに斬る。それと同時に僕の方にも斬撃が飛んできている。


「くうぅっ!!!」


 横一線に飛んできている衝撃波を縦に剣で受け止めて十文字を作る。衝撃波は二つに割れて、ギリギリ僕を直撃しなかった。束の間の安心、だがそれも崩れる。


「うわぁぁぁああああ!!!!! クライト選手!!! 今のストライク選手の対応を上手くしたと思ったらァァァアア!!!!! 自分が取った戦法に倒されそうになっているぞォォオオオ!!!!!」


 後ろには、魔法武器の嵐がこちらに向かってきていた。僕はそれを認識した瞬間、横に跳躍してストライク先輩に剣を押し付ける。その瞬間にストライク先輩の後ろに壁を作った。横に作った壁は綺麗に真っ二つに線が入っているが、綺麗すぎて崩れ落ちていない。実質、壁の役割をまだ果たしている。


「………」


 魔法武器が迫ってきた瞬間に僕は足元で爆発を起こして少し上に跳ぶ。


「えぇぇぇえええええ!!!??? ジャンプたっかァァアアア!!!!! なんとクライト選手が高すぎるジャンプで魔法武器を上手く躱しました!!!!!」


 上から見下ろすと、魔法武器が逃げ場のないストライク先輩を襲っていた。


「がぁあッ!」


「ストライク選手ゥゥゥウウウ!!!!! クライト選手が避けるとは思っていなかったのか!!!!! 魔法武器が無防備なストライク選手に襲い掛かるゥゥゥウウウウウ!!!!! あぁっとしかし!!! しっかり対応できているぞォ!!!!!」


 ストライク先輩は襲い掛かって来る魔法武器を斬り飛ばしてはいるものの、残留した魔法が剣を伝ってダメージを食らっている。


「今がチャンスだ………!」


 僕は重力による落下に身を任せ剣を握りしめる。これくらいの高さだったらレベルが上がっていて基礎防御力は高いはずだから多分怪我はしないだろう。もう魔法武器を捌き切りそうなストライク先輩に上から強襲する。


「あぁぁぁ!!! クライト選手が─────」


 ストライク先輩は魔法武器を捌き切り、傷ついた体を無理やり動かして刀を僕の方向へと向けた。






─────────────────────ドサッ






 互いの刃は交わることが無かった。男二人、上から仕掛けた僕が先輩を押し倒す形で重なっている。少し近づけば接吻だって出来る距離だ。しかし、その実。互いの刃は互いの首筋に当てられていた。今動けば、どちらかがどちらかを一瞬で殺せる。


「………」

「………」


 無言だった。無音だった。僕も、先輩も、実況のスティーブンさんも、会場の観客も、誰しもが黙っていた。動けなかった。強いて言うならば風の音が少しする位。


「………」

「………降参」

「っ!」

「降参だ」


「こ、降参、降参宣言です! ストライク選手が降参宣言しましたァァァアアアアアアアアアア!!!!!!!!!! クライト選手の勝利!!!!! クライト選手の勝利ですッ!!!!!!!!!!」


 ストライク先輩が開いた口からは降参の二文字が出てきた。





 僕が、勝ったんだ。





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