第34話 個の最強

【クライトside】


 あの後ニーナ先生がやってきて僕が倒れた後の魔人達の被害状況を伝えに来てくれた。魔人は教師陣きょうしじんで倒し切ることは出来なかったものの、無傷でなんの被害も無く完全に追い返したらしい。だから警備を強化した状態で大会は続けるとも言っていた。流石さすが、王国最強の勢力だ。なんでも噂によるとこの学園の教師陣は一人で王国の一個分隊に相当するらしい。訓練された軍人よりも遥かに強いって………どんだけの戦力を学園に閉じ込めてるんだ、この王国は。

 それとついでに保健室にいる僕の容態を確かめに来たらしい。僕が何にもないですよ、と言うと今度はニーナ先生が僕以外の3人を見て僕に『なんかあったんだろ』ってニヤニヤしながら耳打ちして保健室を出てった。なんだあの人………特に僕の事を心配するわけでも無かったし、無駄に勘が良いらしい………


「えっと~どうする?」

「クライト君もう大丈夫なの?」

「あ、うん。クレジアントが守ってくれたからちょっとしたあざくらいにしかなってないよ」

「あ、か、回復魔法かけますね!」


 あ、ちょっとしたあざもキュールが治してくれる。これで外傷がいしょう内傷ないしょう綺麗きれいに無くなった。何も痛くなくなって、やっぱりキュールの回復魔法は凄いなと実感する。


「ありがとねキュール。もうどこも痛くなくなったよ!」

「よ、良かったです!」

「じゃあ戻るか?クライト、ユーリア、キュールはどうしたい?」

「僕は戻っても大丈夫だよ」

「私も大丈夫。キュールちゃんも、大丈夫そうだね」

「は、はい!」


 僕達は決闘場へ戻る。見た感じ、どこもボロボロにはなっていない。これなら試合も続行できそうだ。というか、あんまり覚えてないけれど確か相当な数の魔人が来ていたはず。それなのに壊れているのはフィールドの地面だけなのはやっぱり学園の教師陣の強さと、バトルフィールドの周りに張ってある魔法障壁や壁の状態保存技術が高度な事が見て取れる。


「スタグリアン達はどこに行っちゃったのかな?」

「うーん、多分だけど別決闘場じゃないかな?確かスタグリアン君はまだ試合残ってるみたいだし」

「スタグリアン、魔法剣を使っている人か?」

「そ、そうです。多分今スタグリアン君試合やってると思うので見に行きますか?」

「そうしよっか!僕もスタグリアンの勇姿みたいからね!」


 一応僕はスタグリアンの師匠という事になっているけれど、まだ僕は今日のスタグリアンの試合を見れていない。あのスタグリアンが言っていたスタグフレ?に勝ったと言っていたし、きっと今のスタグリアンは乗りに乗っているはず!あ、でも


「ちょっとまって。スタグリアンの試合の試合見る前に僕の試合表確認しても良いかな?次の試合何時にやるのか分からなくて」

「全然いいよ!」

「ボクも見てみたいな、クライトの次の対戦相手がどんな人なのか」

「わ、私も大丈夫です」

「皆ありがとう!」


 皆から許諾きょだくを貰ったので次の僕の対戦相手をかくにんするために試合表をのぞきこむ。


「………えぇ?」


 なんか、どう見てもおかしくなっている。


 この決闘場の試合が、ほぼ全て棄権されている。残っているのは必然的にユーリアと僕だけになってるけど………ど、どういうこと?


「あ、クライト選手!お疲れ様です!お怪我大丈夫ですか?それからクレジアント選手にユーリア選手、キュール選手も!皆さんもお怪我はありませんか?特にクレジアント選手!」

「ん………あ、スティーブンさん。実況のお仕事お疲れ様です」


 どう見てもおかしい試合表をのぞいていると、スティーブンさんがこちらに駆け寄ってきた。やけにこの決闘場静かだなぁと思ったらスティーブンさんが今は実況してなかったからか。試合もやってないみたいだし………んん?


「いやいやクライト選手、何言ってるんですか!私の仕事はもうあなたとユーリア選手の試合と今日の決勝戦くらいしかありませんよ!喉もまだまだ頑張れるんですけどね!」

「え?ど、どういうことですか?この試合表もそうですけど………」

「く、クライト選手………自覚ないんですか?あなたが強すぎるせいで他の選手が全員戦う前から戦意喪失せんいそうしつしてるんですよ!クレジアント選手とクライト選手の試合見て『あ、これは自分勝てるな~(笑)』なんて思う選手どこにもいませんよ!?」

「は、はぁ」


 確かに、そんなものか。本来の主人公のクレジアントに僕勝ってるんだもんね………全力出しきったし、だいぶ派手な試合だったとも思う。高位の魔法をどっちもバンバン撃ってたしね………そっか、僕。勝ったんだよなぁ、クレジアントに。


「まぁ私としては全然OKなんですけれどね!だって、殆ど働かずにお給料もらえ………ゲフンゲフン、おっと失礼」


 相変わらずスティーブンさんはちゃっかりしてるなぁ。


「まぁとにかくそういう事です!ユーリア選手も魔法の扱いが凄く上手ですし、これはクライト選手とユーリア選手の試合も期待できそうですね!!!」

「スティーブンさんごめんなさい、私も棄権しようと思ってるんですけど」


 えっ?


「え、なんで?」

「だって、クライト君と戦っても私負けちゃうもん。私、昨日に続いて2回もクライト君に負けるのは流石に泣くからね!」

「あら、そうなんですか?なかなかいい試合になると思ってたんですけれど、残念です!でも仕方ないですよ、クライト選手にしないなんて行為ですもんね」


 ………ん?なにか、違和感?


「お、お上手ですね」

「きゅ、キュール選手………!!!気が付いて下さったんですか!あ~もう私スティーブン、感激ですッ!!!いっつもこういう事言っても誰にも拾われませんからね………」

「な、なんというか………お疲れ様です」

「クレジアント選手まで私を励ましてくださるんですか………!!!いやぁ、クライト選手のお友達はお優しい子たちばかりですね!!!」

「「「えへへ」」」


 なんかなにもフォローしてないユーリアまで照れてるけれど………まあそれはいいとして。スティーブンさんに一度別れを告げて、別決闘場へ向かう。ユーリアが途中で『先行ってて!』と言ってどこかに行ってしまった。多分、運営に棄権を宣言しに行ったのだろう。そんなことしなくていいのに………したいなら仕方ないけど。


「着いてく?」

「いや、良いんじゃないか?ユーリアも先行っててくれと言っていたし」

「わ、私だったら待っててもらうとちょっと申し訳ないです」

「うーん、そっか。じゃあ先に行ってよっか」


 多分ユーリアも僕達の行き先は分かっていると思うから先にスタグリアンの試合を見に行く。少し歩いてようやく別決闘場に着いた。なんか、さっき別れたスティーブンさんが謎に先回りしていた。


「あ、クライト選手!また会いましたね!」

「こわぁ………」


 なんで僕達と逆方向に向かってったのに先に着いてるんだ………


「いやぁ、取り敢えず実況席に戻ろうかとも思ったんですけどね!ユーリア選手が棄権すると言われていたので『あれ?別に行かなくてもいいかな』と思ってダッシュで試合を見に来たわけです。さて、スタグリアン選手は勝利を奪取できるでしょうか」


 ま、また言ってる………


「………だっしゅですか?」

「お!今度はクライト選手!やはり細かいところまで届く観察眼は日常でも光ってますね!!!」

「あ、はい」


 ダジャレ好きだなぁ……この人。いやそんなことスティーブンさんには申し訳ないけど、どうでもいい。今はスタグリアンの試合を見たいんだ。

 そうこう言っている間にマリスタンがこちらに気が付いてやって来てくれた。


「クライト、調子は大丈夫そうだな」

「うん。マリスタンもありがとう」


 こんなに沢山心配してくれる友達が居るなんてやっぱり嬉しい。本当にありがたい限りだ。さて、スタグリアンはどうなってるかな。


「スタグリアンは………おぉ」

「スタグリアンさん、姿勢が良いな」

「け、剣筋けんすじが綺麗ですね」

「あーでも」


 今回の相手が悪い。


 今の試合時間は分からないけど、恐らく始まってすぐって事は無いだろう。事実、実況の人も『さて、均衡状態が続いてます』って言ってるし。彼相手に良くここまで持ってるなとは思う。


「ストライク先輩かぁ………」

「彼かなり強いな。ボクは同学年という事もあってクライトに集中してたから気が付かなかったけれど」

「そ、そうなんですか?私からしたらスタグリアンとその………す、ストライク先輩?との実力差はあんまり分からないんですけれど…………」

「んー、彼強すぎますね!おかしいな、団体戦ではあんまり強そうに見えなかったんですけれど?あ、分かりました。彼完全に対個人ですね」

「おぉ凄い」


 スティーブンさん、戦ったことなさそうなのにストライク先輩の実力を完全に見抜いてる。やっぱり王都一の実況上手なだけはある。これまで沢山の試合を見てきて選手や試合に対する観察眼が身に着いたのだろう。


「あ、いたいた!」

「ユーリア、お疲れ様」

「ん~?クライト君。お疲れ様って、煽ってるの?」

「え、いや、ごめ………」

「うそうそ!からかってごめんね、それでそれでスタグリアン君の試合はどう?」

「今は………あっ」


 スタグリアンの方を見ると、ストライク先輩が踏み込んだ。次の瞬間、スタグリアンの首筋に剣が当てられていた。小さい頃からずっと鍛えてる僕は一応見えたけれど、それでも一応見えただけだ。完璧に反応しきれるかと言ったら、それは難しいと答えるだろう。ちょうど五分五分ごぶごぶくらいだと思う。


 スタグリアンが動こうとすると、首筋に当たる冷たい感触に気が付いたようだ。大人しく降参宣言をした。スティーブンさんではない人が落ち着いた様子で実況をしていたけれど、その人も一瞬目を見開いて硬直していた。少ししてハッと目を覚ましたようにストライクの勝利を宣言した。


「え。え?えぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!??? な、なんてことでしょう!!! 見えない、何も見えなかった!!! ギリギリ残像が目に映ったか映ってないかを脳が判断しかねてます!!!!!」

「スティーブンさん、気持ちは分かりますけど実況しないでください………」

「おっと失礼!つい職業病で、ところで何が起こったんですかあれは!?」

「私も見えなかった、何が起こったの?」

「わ、私もです。ま、まあ私はいつもあんまり見えてないですけど………」


 皆が何が起こったか分からなかったという中でクレジアントだけはメチャクチャ笑顔だった。割と本当に怖いからそれやめてほしい。


「彼凄いね、クライト!彼との試合楽しみにしてる!!!ボクの分まで楽しんできてよ!」

「えぇ………」

「「「「いやいや二人とも何が見えたの」」ですか!?」」


 『えぇ………』とは言ったけれど、多分本当にそうなるだろう。だって、世界の意志シナリオではクレジアントとストライクが決勝で戦ってたからね。

 いや、でも分からない。だって、世界の意志シナリオはついさっき破壊されたのだから。まぁそんなことは関係なくストライクの実力に勝る生徒が居るとはとても思えないから、恐らく順当に上がって来るとは思うけれど。


「気を引き締めないとね」

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