第33話 才の上の胡座を打て

【スタグリアンside】


 クライトとキュールと別れて、マリスタンと二人で別決闘場に行く。そこで無事に何試合か勝ち進むことが出来ていた。そして、遂に。俺のとの対戦だ。


「どう?スタグリアン君緊張してる?」

「もちろん、緊張はしてる………はぁ、緊張しない訳はないよ」

「まぁ今のスタグリアンならいけるんじゃないか?」

「そう言ってくれるのは嬉しいんだけどね」


 なんせ相手は、『スタグフレ』。公爵家の血だ。そして例には洩れず天才で俺みたいな凡才では決してない。試合が一区切りついて合流してきたユーリアと未だ俺と同じで勝ち進んでいるマリスタンに励まされながらも、不安は決してぬぐええない。


「………あー!よし、行ってくる!!!」

「行ってらっしゃい!頑張ってね!!!」

「緊張しすぎて剣を落とさないようにな」


 ぐずぐずしていても時間は待ってくれない。もう試合はすぐそこまで迫っている。大丈夫、勝てる、勝てるさ。クライトに教えて貰った色んな技を使いこなせ、遺物も………ある。これを使うかは分からないけれど、全力を出さないで負けるのだけは避けたい。使いかたを思い出しながら、フィールドへ向かう。


☆★☆★☆


「さぁ始まりました。ここまで順当に勝ち上がってきた公爵家2人の兄弟対決です。では二人に登場してもらいましょう。スタグフレ選手、スタグリアン選手、フィールドに出てきてください。」


 実況のコールさんが落ち着いた口調で登場を促してくる。スティーブンさんとはまた違った良さがあるけれど、今は俺にとってそんな場合じゃない。目の前の相手だ。スタグフレ………俺に、兄弟の中で唯一手を出してきた奴。


「おぉ?公爵家の恵まれた血でありながら他の奴となんら変わらない奴じゃねぇか!また負けに来たのか?」

「チッ………」

「あ、舌打ちかぁ?ハッ、ご立派な身分になったもんで」


 悪口に暴力、俺が非力な事を良い事にスタグフレにはストレスのはけ口にされていた。スタグフレよりも上の兄や姉はそもそも会う機会があまりないし、あったとしても俺のことは興味が無かったみたいだから何もされなかった。まぁそっちの方が残酷ではあるかもしれないけれど、やっぱり俺としてはこいつが一番の因縁だ。


「はいはい、試合前にしゃべるのやめてね。それじゃあいきますよ。皆さんご一緒に3、2、1」

『3!2!1!』

「『試合開始!』」


 会場の掛け声と共に俺は動き出す。スタグフレも動く。俺は一直線にスタグフレに斬りかかる。しかし、スタグフレはそれを躱して俺の後ろから斬りかかってくる。それを下にしゃがんで避け、足払いを入れる。スタグフレは跳んで避けた。


「へぇ、お前も案外成長したんだな」

「黙れ」

「はぁ?いい度胸してんなァ!!!!!」


「今の所互角といったところでしょうか。剣の応酬です」


 公爵家はそれぞれ得意な事が異なっている。スタグフレは戦闘万能型だ。戦いに関するものならある程度の事は難なく出来る。他の人達だと水魔法特化とか、IQがえげつないほどあるとか、色々あるけれど。ある意味スタグフレは一番やりやすい相手ではある。でも、それはスタグフレから見た俺もそうだろう。


 攻撃を貰わないように躱しつつ、剣を持たない手から魔法を出す。そして、俺の十八番である魔法剣にもする。雷の魔法を剣に付与して、スタグフレの剣と交わったら感電するようにして牽制をかける。


「お前、それ良く使ってるけど。出来るのがお前だけかと思ったか?」

「っ!」

「俺もできるさ。昨日ちょっくら練習したんでな!」


「おー、凄い。昨日の団体戦でスタグリアン選手が使用したのを目撃していたのか、スタグフレ選手も魔法剣を扱えています」


 スタグフレは剣に炎を纏わせて、上方向から斜めに斬りかかって来る。雷と炎が交わり激しい火花まき散らすから、俺は剣を交えたらすぐさま後方へ避ける。スタグフレも反動を利用して上手く火花を躱している。

 それに加えて、スタグフレは今までに見たことのあるような無いような剣術を使っていて妙にやりにくい。まるで色んな人の剣術をごちゃまぜにしたような。そのせいもあってか普段よりも浅くはあるものの体には切り傷が増えていっている。でも、そういうのは俺の師匠であるクライトで慣れてはいる。クライトとは系統が全く違うけれど。


 でも、慣れているからと言って俺のまだ未熟ともいえる剣術では状況を打開できるわけがない。今はまだ魔法を片手で撃ち牽制しつつ、スタグフレの剣術の間隙を縫って魔法剣を捻じ込み、一発逆転を狙う位しかない。


「クソ………」

「お~?お前、もう終わりか?やっぱり大したことないなァ!!!」


 スタグフレは調子付いたのか、剣を交えながら左手を突き出して俺の胸元に連続で火球を放ってくる。俺は重力魔法を発動してスタグフレと距離を摂り、火球を魔素障壁で防ぐ。魔法の着弾するところだけに展開する事で連続で魔素障壁を張る事が出来る。


「なんか、お前師匠だか何だかに教えて貰ってんだろうけどな。その程度しか出来ないってんならお前にありえないほど才能がないか、お前の師匠自体がクソ雑魚かなんじゃないかぁ?はははっ!!!」

「………あ”?口塞げよ」


「さぁスタグフレ選手が先程から煽りを入れている今、スタグリアン選手は冷静な対応をしたい所」


 思わず口が悪くなる。でもいけない、こういうのだって言われるだろうと思っていた。だからこれはあくまでも想定内だ。ここで下手に怒り狂って攻撃の制御が効かなくなる方が隙が生まれてしまう。


「まぁこの後口閉じるのはのはお前になりそうだけどな!」


 そんなわけが、無いだろう。


「………茂塔クランプタワー

「あ?なんだこれ」


「おお、高位の土魔法で地形を強制的に変化させています」


 俺は魔法を発動させて、地形をぐちゃぐちゃにする。それと同時に、茂塔クランプタワーで生成した土魔法を剣の形に変えて手元に収める。土魔法で作った武器は物理攻撃としても使える。つまりは………


「………魔法剣の量産か、チッ」

「………舌打ちしたいのはこっちだ」


 何でそんなすぐこっちの作戦が分かるんだ。まぁ仕方が無い、下手に作戦を変更する方がリスキーだ。土剣を大量に形取り、魔法を纏わせて、複数本投げる。何本かは少し後に撃ち出し、風魔法や土魔法で軌道を変えながら


 それでもスタグフレはやはり戦闘の天才と言うべきか、飛んでくる魔法剣を魔法で撃ち落としたり魔法剣で受け流したりしている。しかし、


「グッ!クソ………」

「残念、魔法の相性が悪かったね」

「………ふざけんなァ!!!」


「お、ここでスタグフレ選手が吠えます。一方、スタグリアン選手は冷静に魔法剣を撃ち出して次の攻勢を整えています」


 俺は炎、氷、水、雷等々、土で創った剣にバラバラの魔法をかけていた。そのためか、スタグフレの今の炎の魔法剣と相性の悪い水の魔法剣などで少しずつダメージが蓄積されて行っているようだ。そしてそれを煽られて激昂している。


 今が、畳みかけるチャンス。


 俺は、遺物を取り出して、そこに魔法を


「クソッ!!!だったらこっちもやってやるよォオオオ!!!」

「させると思ってんのか」


 僕は水の魔法剣に切り替えてスタグフレに肉薄にくはくする。スタグフレは怒りで周りが見えていないのか、水の魔法剣でスタグフレの剣に付与されていた炎が消えてもまだ剣戟を止めない。俺の攻撃を受け止めながら、土剣を作ることに必死になっている。


「ここでスタグリアン選手、スタグフレ選手に肉薄しました。再び二人の剣戟に繋がります」


「死ねぇぇぇえええ!!!!!」

固形粉砕ソリッドブラスト!」


 スタグフレが創った土の剣を固形粉砕ソリッドブラストで破壊して、激昂しているスタグフレを更にイラつかせる。


「なッ!?クソ、クソォォォオオオ!!!!!」


「スタグリアン選手、スタグフレ選手の土剣を破壊しました。さぁ、畳みかけ時ですよ。この試合、どうなるのでしょうか」


 叫ぶスタグフレをよそに、俺は遺物を開放して。本来の使い方ではないが、昨日の団体戦で優勝した時に貰った魔法耐性の高い剣だからこそ出来る強引な技。数多の魔法を纏ったいつもの威力の何十倍もの威力を誇る魔法剣の出来上がり。

 遺物に先に放った魔法が剣に全て付与された、その刹那の状態をスタグフレに押し付ける。魔法が融合し爆風が起こって周囲にまばゆい光が放たれた。


 光が晴れた先に在ったのはボロ雑巾のようなスタグフレが倒れている光景だった。


「はぁ、はぁ………んっ、はぁ」


「うお、凄い。なんですか今の」


 息の調子を整える。


 これで、勝った、勝ったんだ………やった!!!


「さて、勝負が付きましたね。勝者はスタグリア………」


「クソ、が………ぁぁ!!!」

「っ!?」


「お?」


 ガキィン!!!


「おお、スタグリアン選手。しっかりスタグフレ選手の苦し紛れの攻撃を防ぎます」


「………ぁ、あぶなかったぁぁぁぁああ!!!」


 そこそこ、いやだいぶ心臓がバクバクと鳴っている。今のをまともに食らっていたら勝ち判定になっていなかったと思うと、本当に防げて良かった。


「さて、改めまして勝者はスタグリアン選手。おめでとうございます」

『おいおいマジかよ!!!』

『スタグリアンって、あのスタグリアンだよな!?』

『昨日からすげぇとは思っていたが、まさかこんなに強かったとは!!!』


 観客が褒めているのか褒めていないのか分からないような反応を見せる。まぁスタグフレに勝つことが出来たらそういう反応になるとは思っていた。だって、俺は公爵家の中で唯一の凡才だから。


 でも、戦闘万能型のスタグフレを倒したことで少し周りからの目に耐えるようなことは今後から徐々に減っていくと思う。ここまで鍛えてくれたクライトには本当に感謝しかない。


「………もう、暴力振るうなよ」


 最後に倒れているスタグフレにそう言って、フィールドを去る。今後もクライトにしっかりと稽古をつけて貰おうと思う。才の上に胡坐あぐらをかいている奴は、凡才でも倒す事は出来るから。

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