第31話 一番大きな声

【クライトside】


「えっと………」

「あの~………」

「「今の出来事は全部忘れよう」」


 それが当人同士一番良い。僕としてもあんな恥ずかしい事を衝動的に言ってしまったのは本当に記憶から消したいし、クレジアントだって忘れたいことはあるはずだ。


「で、でも………クレジアントが女の子って事は、覚えてていい?」

「うん、良いよ。というか覚えててくれると嬉しいかな」

「わ、分かった」


 正直な話、本当に信じがたい。今でも何か冗談なんじゃないかって思っている。だって………ゲームの時から中世的な顔立ちだなぁとは思ってたけど、周りにヒロインがいたしそれこそスタグリアンとか友達ポジションの男の子は居たけど恋愛対象では無かったし………


 というか待てよ?あのゲームにそもそも恋愛要素あったっけ?違う、周りに可愛い女の子が集まって来てはいたけど恋愛には発展してなかった!!!確か周りの子が勝手に好きになってただけなんだった!………あれ、僕とユーリアの前の関係と同じ?


「それにしても、クライトは俺が女子って気づかなかったか~」

「ご、ごめん………もっと褒めた方が良い?」

「あ、いや。違くて………!!!」


 いや、謝らせたかったわけじゃないんだけど………なんか申し訳ない気分になる。クレジアントの性別を間違えるっていう本当に良くないことしたのは僕の方だし。でも、もう一つだけ言い訳をさせてもらえるとするならクレジアントの制服が他の皆と違うんだよ。ゲームしてる時は『主人公だからだろうなぁ』って勝手に解釈してたけど、男子の制服っぽい感じもあるし女子の制服っぽい感じもあるから男子側かなって思ってしまった。


「ごめんね?」

「も、もういいって………俺も、一人称分かりにくかったかもだし。えっと、俺から変えるとしたらどんな一人称にしたらいいかな?」

「え、えっと………」


 そんな急に振られても分からない。けれど、敢えて『俺』から一人称を変えるなら………


「ま、まぁ僕とかで良いんじゃないかな?」

「分かった!じゃあ俺は今からボクっていうよ」

「うん、良いと思うよ」


 良いと思うけど、なんか逆に僕が恥ずかしくなってきたな。男の子だと思ってたら女の子だった上に、前世でボクッ娘に可愛いなって思ってた時期があったから………あー!!!一回落ち着こう、息を整えて。深呼吸、しんこきゅ………


「あ、クライト君とクレジアント君!」

「「は、はいぃ!」」


 気を抜いていた所に、突然声がかけられて二人して肩が跳ねる。誰だろうと思ったら、ユーリアだった。早歩きで近づいてくるユーリアの足音に合わせて心臓の音がドクドクと聞こえてくる。さっきの僕とクレジアントの醜態を見られずに済んだという安堵と、もしかしたら見られていたかもしれないという恐怖が同時に襲ってくる。


「クライト君は怪我大丈夫?クレジアント君もクライト君を守ってくれたみたいだったね。クライト君を守ってくれてありがとう、それとクレジアント君すっごく強いね!ほんと尊敬するよ!」

「ユーリアありがとう。あと、クレジアントは………」

「えっとボク、男じゃなくて女なんだよね」

「え、えぇぇぇ!!!???」


 ユーリアがひとしきり慌てた後に、クレジアントに近づいて耳打ちしている。するとクレジアントの顔が赤くなっていく。何を話してるのと聞いても、何故か僕には教えてくれなかった。


「という事だから、クレジアントちゃん!もし、もしそうなんだとしたら。クライト君が良いなら私も全然良いよ!」

「えっと、ぁ………その」


 クレジアントは僕に何か言おうとしているのか、何か言葉を口の中で転がしている。だけど、全く聞こえてこない。


「あ、クライト!!!大丈夫だった?」

「お、クレジアントさんもいるじゃないか」

「あ、こ、こんにちはクレジアントさん。えと、クライト大丈夫?」


 ユーリアがニコニコと見守り、クレジアントが何か話そうとしている時チームの3人が入ってきた。しかも、なにやらクッキーみたいなものを持っている。お見舞いとして来てくれたんだろうか。もしそうだったら優し過ぎて感激かんげきだ。

 だが、3人が来てくれた瞬間クレジアントが口の中で転がすのもやめてしまった。泣きそうな顔でユーリアの方を向いている。ユーリアは依然いぜんとしてニコニコ笑ったままだ。と、思ったら今度はキュールの方へ歩いていきなにやら耳打ちする。すると今度はキュールさんの顔もみるみる赤くなっていっている。一体さっきから何を吹き込んでいるというのか、流石に気になるけれどやっぱり教えてはくれ無さそう。


「このクッキーさっきのお菓子のお返し!『』の『』、なんてね」

「スタグリアン、公爵家なんだからそういうの社交会とかではやらない方が良いぞ」

「マリスタン、冗談じゃん」

「おぉ、すまない。あまりにも面白くなかったもので」

「なんだとぉぉお!許さない!!!」

「ははは、すまない」


 この二人はずっと仲いいな。見てて微笑ほほえましくなるのは僕だけだろうか。


「それとクライト!!!俺、勝ったよ!!!」

「え、ホントに!?良かったじゃん!!!!!」


 スタグリアンの因縁の相手であり、目標でもある相手を打ち倒したらしい。その話は後で詳しく聞かせてもらいたいな。なにせ僕もスタグリアンに稽古をつけていた時に目標を聞いて自分の事の様に思ってたからね。本当に良かったと思う。


「私は負けてしまった、悔しいな………クライト、今度から私にも稽古をつけてくれないか?」

「あ、おい!真似するな~!」

「別に良いだろう!私だってスタグリアンの様に強くなりたいんだ!というわけで、良いだろうか?」

「うん、全然良いよ。スタグリアンも、ライバルというか切磋琢磨せっさたくま出来る仲間が出来ていいでしょ?」

「仕方ないな~、クライトが優しいから。特別だぞ?」

「おい、スタグリアン。お前は威張れることじゃないだろう」


 今度からマリスタンも特訓に来るのか。僕の手で教えて一から育てるのはリアル版育成ゲームみたいな感覚で楽しい。マリスタンは僕とは違う戦い方をするし、僕の方が新しい学びになることもあると思うから、そういう意味でも楽しみだ。


「スタグリアン君、マリスタンちゃん、ちょっと来て」

「「どうした?………へぇ~、へぇええ!!!」」


 ユーリアがまた耳打ちをすると、今度は顔が赤くはならずに代わりに悪い笑顔になった。だから、さっきからなんなのかそろそろネタばらしして貰いたい。あと何でスタグリアンとマリスタンの2人とクレジアントとキュールの2人で反応が違ったのか教えて欲しい。というかクレジアントとキュールの2人、まだ顔赤いけど大丈夫?


「それじゃ、私達はここらへんでお暇するよ~!クライト君またね!」

「「また後で~!」」

「あ、ちょっと………行っちゃった。なんなんだろうね、あいつら」

「あ、あぁ。そうだね………」

「そ、そうですねぇ~………」


 2人とも目が泳いでいる。何故かさっきから僕と目を合わせてくれない。ユーリア………何をしたんだろう


「えっと、二人とも。あの、どうしたの?」

「え、いや」

「あ、あの」

「「一回待って!!!」くださいぃ!!!」

「は、はい」


 クレジアントとキュールはひそひそと小声で何やら話始める。チラチラとこっちを見てきている気がするけど気のせい………じゃないよね。なんか僕嫌われてるのかな………こんだけ目の前で内緒ないしょ話されると悲しくなってくる。

 と思ったら、話は済んだようだ。何を話していたのか、僕に聞かせてくれるのかな?嫌われてなければ良いけど。


「もういいの?」

「う、うん。大丈夫」

「だ、大丈夫です!」

「それじゃあ、何話してたか教えて欲しいな」

「「えっと………」」


 ぶっちゃけ嫌われてなければなんでも良い。何を頼まれたって多分OKと言えると思う。この世界で一番の不安要素のクレジアントとはもう仲良くなれたし、どんな事でもどんとこい!


「「す………」」

「す?」

「「好きです!!!付き合ってください!!!」」

「好きです?好き………え、えぇぇぇぇぇええええ!!!???」


 多分この時僕は、人生で一番大きい声出したと思う。それくらい、驚いた。

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