第30話 二人して赤らむ

【クレジアントside】


………………………」


ガキィッ!


「クライト!!!!!」


 投げた剣が魔人の振りかぶっていた武器に当たり、弾く。次の瞬間、クライトを掴んで居る魔人に対して掌底を打ち、魔人の顔面を殴り飛ばす。


 否。


 右手に残った感触が気持ち悪い。


「クライト、大丈夫か?死んではないよな?」

「………」


 気を失っている。クライトの整った顔立ちが魔人の返り血で少し汚れている。


「誰だ………!?」

「おい。誰だじゃないだろう。他人に聞くならまずはお前から名を名乗れ」

「はぁ?」


 口調が荒くなっている。なぜ、俺は過去一番激情しているんだろう。自分の心の冷静な部分が呑気に思案している。もう本当はとっくに分かっているのに。


「フン、人間一人が来たところで変わらん。殺れ」

「了解です、隊長」

「………チッ」


 クライトを自分の後ろに寝かせる。


。敵に背中向けるなんて、よっぽど死にたいみたいだな!!!」

「………なんでわかんだよ、気色悪い」


 普段男装をしている自分は、殆ど女と思われたことは無い。皮肉な話だ、人間より人間の事を見ただけで分かっている。クライトでさえ、多分自分が本当は女子だという事に気が付いてはいないだろう。まぁ、それは良い。だけど


「背中を向けたら、死ぬ?」

「そりゃあそうだろう!!!ほら、終わりだ………」


 ズシャッ


「………ぇ?」

「そんなわけないだろう。お前みたいな雑魚に」

「ぁ、ガァっ!!!」


 弱っているクライトを殺そうとした塵芥共に舐められるのは本当に気に食わない。


「なっ、こいつ………!?おい、強いぞ!!!」

「何?もしかして、クライトはそいつなんじゃないか?」

「確かにな!!!おかしいと思ったんだ、あんな雑魚そうな奴がクライトなわけない!!!」

「あ”ぁ”?」


 こいつら、ほんとうに頭いかれてるのか。


「よし、かかれ!多勢に無勢だ!!!」

「………死ね」


 とびかかって来る魔人を3人一斉に断絶する。弱い、弱すぎる。こんな奴が魔人だと?笑わせるな


「おい、接近戦じゃ勝てねえ!!!魔法を使え!!!!!」

「「「わかった!」」」


 後ろの方で魔法を唱えている。こんな奴らがクライトを殺しかけていただなんて………怒りが収まらない。クライトを倒すのは、俺だ。こんな雑魚共に漁夫の利なんてされたら………!!!


「「「いけ、潰炎オプスキュリテ!!!」」」

「そんなもの………って、なっ!!!???」


 上を見上げると、そこには小さな太陽があった。クライトが昨日、使っていた魔法だ。詠唱をしていない分、サイズは小さいが複数人で魔法を創っているためか異常な程に技の出が速い。しかし、その魔法が落ちて来る速度は遅い。避ければいいだけの話………いや、待て!


「クライト!!!」


 自分だけ避けたら、クライトが黒焦げになってしまう。助けないと………クソ、焦っているからか上手く掴めない。どうしよう、まずい。このままじゃ、このままじゃ………クライトが!!!


「はーい、沌霖カオス

「ぇ………」


 もう駄目だと思ったその時。突如聞こえてきた声と共に、小さな太陽が消し飛んだと思ったら天気雨が降って来る。いや、これは雨じゃない。魔法によって生み出された水が降ってきているんだ。


「クレジアントさん、もう大丈夫ですよ。クライト君を守っていてくれてありがとう」

「ナ、ナヴァール先生?」


 自分とクライトが戦う前にスティーブンさんにインタビューを受けていた先生だ。その先生が今、何の前触れもなくノータイムで潰炎オプスキュリテと同レベルの技を使って自分たちを助けてくれたみたいだ………ほっとすると同時に、インタビューで言っていたことは本当なんだと。自然と畏敬の念が発生する。


「教員各位、これより魔人の殲滅を開始する。殲滅が終わるまでは直ちにこの決闘場から離れてください。繰り返します。教員各位、これより魔人の殲滅を開始する。殲滅が終わるまでは直ちにこの決闘場から離れてください………」

「先生達………」


 フィールドに先生達が乗り込んできたと思ったら驚くほど速いスピードで魔人達を1:1:1の割合で真っ二つにするか、ペシャンコにするか、消し炭にしていく。


「おっ、クレジアント。頑張ったな、ここは俺達に任せて先に行け!」

「カール先生、それ死亡フラグだぞ………」

「ニーナ先生、大丈夫だ。俺これ言って死んだこと一回も無いから!」

「あ、そっすか………じゃあクレジアント。クライトの事は任せたぞ」

「ニーナ先生、それも死亡フラグじゃないか?」

「その心配はいらんから、全ては力でぶっ壊すのみ」

「脳筋かよ」


 自分の今の担任であるAクラスの教師であるカール先生と、入学してから少しだけお世話になったニーナ先生が自分を励ましてくれた後他の先生に続いて魔人たちを粉砕しに行く。いつもふざけている二人の教師の背中が今はとても頼もしかった。


☆★☆★☆


 クライトを学園に一度連れて帰り、保健室のベッドに寝かせる。幸い決闘場から学園は全く遠くないから、全力で戦った後にクライトを抱えながらでも殆ど疲れなかった。


 クライト………


「君という奴は………」


 自分を対等な存在として、見てくれた上に真剣に勝負してくれた。そして、自分に勝ってくれた。こんなに、自分が求めている条件をすべて満たしている人が今までにいただろうか。いや、いなかった。

 今まで自分は負けたことが無かった。だから、怖がられもしたし嫌がられたりもした。『お前は化け物だ』って。でも、君は化け物だと言いながらも全力を出して、自分に勝ってくれた。毒を盛られた後でも怒らずに、ドーナツを食べてくれた。


 今まで関わってきた人達と君とでは、全く違った。だから、知らず知らずのうちに自分は君の事を好きになっていたんだ。それは、どう好きになったのかは分からない。どんな意味でも人を好きになったことは無かったから。でも、クライトの事は好きになった。なってしまった。


「はぁ、全く。こんなこと言えるわけないけどさ」


 なんだか、ずっと気を張っていたけれど気を抜いたらドッと疲れてきた。胸に巻いているさらしの中も蒸れてしまっている。一度、服を脱ごう。クライトは………気絶しているし、多分大丈夫だろう。


「クライトは、俺が女ってこと。気が付いてるのかな………」


 分からない。でも、気が付いていない気がする。言った方が良いのかな………それも分からない。俺には本当の友達が居ないから、というか必要無いと思っていたから。アドバイスを求めても、帰って来る答えは無い。


「クライトは、友達なってくれるだろうか………」


 胸に巻いてあるさらしを外して、タオルで胸の汗をふき取りながら独り言を漏らす。最初クライトは友達になろうって言ってくれていた。でも、自分がクライトがどれだけ強いかを試したいからとか言う理由で毒入りドーナツを………


「何やってるんだよ、俺………!!!」


 せっかくのチャンスを失ってしまうかもしれないきっかけを作った過去の自分に心の中で拳骨を打つ。いくら何年か前、ある奴に『友だちになろう』と言われたのにその後裏切られたからといって………最初の時点で他の人とは違うと分かっていたクライトにそんなことしたらだめだろ、ぁぁぁぁあ~!!!


「まぁ、あとは神頼みだな………」

「んん………クレジアントぉ………」

「えっ!ちょ、ちょっと待って!!!」


 急いで胸にさらしを巻く。クライトはまだ目を開けてない。早く、服を着ないと………!!!あぁ!?ク、クライトが、私の服の裾を掴んでいてこのままでは着れないのだが………!!


「ちょ、ちょっと服から手放してもらってもいいか………?」

「う~ん、はぁい」

「あ、ありがとぉぉぉ………」


 めちゃくちゃな小声で、寝ぼけているライトを起こさないように話しかける。正直、結構な博打だったけどなんとか成功したみたい………


「ん、だれ~?」

「はぇ!?うぅ………わ、私は、えっと~………!!!」

「んん~?だれでもいいけど、ふくは~?」

「んぐぅっ!」


 さらしは巻いてあるものの、服着てない姿をクライトに見られた………しかもよりによってクライトの前でだ、あぁ………


「終わった………ん?また眠っ………た?」


 これは、まだ大丈夫だ!早く服を着よう………よし、これで何とか。普段の自分の服装に戻った。大丈夫、大丈夫だ………クライト、頼むから今の記憶消し去っておいてくれ~!!!


「ん………?あれ。ク、クレジアント!?な、何?というか、何で僕ここにいるの!?」

「あ、お、起きたか。クライト」


 極めて冷静に、何にもなかったように振る舞う。


「お前は魔人に襲われて死にかけてたんだ」

「あっ、そ、そうだった………クレジアントは怪我とか無い?それと他の皆は?」

「え、あぁ、問題ないぞ。私も他の皆もだ」

「そ、そっかぁ………良かった」


 よ、よく死にかけてたのに他の皆の心配がすぐに出来るな。


「そ、それで~だな。気絶している時の記憶はあるか?」

「気絶してる時の記憶?う~ん、特に無いかな?あ、でも………や、やっぱいいや!」

「あっ」


 これは、終わったかもしれない。


「それって………その記憶は、あのーなんですか?」

「え、えっと、あの。その………ク、クレジアントがその………(女の子な夢)………」

「………」

「えっと、ぁ………ごめんなさい!!!」


 見られてました。はい、もう終わりです。


「ク、クレジアントは女の子じゃないもんね………えっと、ごめんなさい」

「えっと、いや、俺は女だけど」


 なんか勢いで言ってしまった。


「そうだよね、ごめん………ん?え、え?」

「あ~、えっと」


 けど、今言わなかったら一生言う機会無かったと思うし………あー、もうどうにでもなれっ!!!


「女だよ、俺は」

「ちょ、ちょっと待ってね!えっと、その………夢で見たのって、ほ、ほんとだったりする?ご、ごめん!違うよね、ごめ………」

「あ~、ま、まぁほんと………」

「うぇええ!?」


 凄い驚きぶりだ。


「なにさ、どうせ俺は可愛くないよ………」

「い、いや、そういう訳じゃなくて!えと………」

「男勝りでかわいらしさの欠片も無くてほんともう、女の子とは思えないよね………」

「あ、いや、えっと、ク、クレジアントは可愛いよ!!!」

「うん、そうだよね………え?」


 全く言われると思って無かった返答に脳の処理が追い付いていない。


「あ、あの、ドーナツくれたりで優しかったりするし………顔も可愛いし………その、ちゃんと聞いたら声も可愛いし………髪もサラサラで、ショートヘアに合ってるから………その、か、可愛くないこと、な、無いよ」

「え?………え?」


 人生で言われたことも無い言葉を連続して並べられてパンクした頭から湯気が上がっている。同時に、クライトとクレジアントの顔がとても赤くなっている。




 普段、余裕綽々よゆうしゃくしゃくの二人が焦ったり照れたりしている貴重なシーンを見ることが出来たのは誰もおらず、その時の事は当人同士しか知るほかないのだった………




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




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