第12話 いつか届くように

【スタグリアンside】


「よし」


 俺は王都で買ってきた手帳を開き、筆をとる。

 



 俺はスタグリアン・アンサラー・レイシル、レイシル公爵家の次男だ。兄弟関係は…まぁあまり重要ではないし一度飛ばそう。

 俺は小さい頃から期待を浴びていた。これはただの自意識過剰ではなく、公爵家に生まれた者の宿命だった。公爵家は三家存在し、御三家とも呼ばれている。そして、どの公爵家に生まれた者も例外なく優秀だった。


 そんな公爵家の1つであるレイシル公爵家に生まれた俺は…凡才だった。非才でも天才でもなく、凡才。頭も身体も、極めて優秀なところは一つもなくただ平均値よりも少し上の位置を全ての事柄で彷徨っている。


 俺はそれでもかなり頑張っていた方だった。全てにおいて平均値を出すことは決して簡単では無かった。だが、身内は化け物揃い。宮廷魔導士のトップに君臨する者だったり、すでに十分にあるはずのお金をさらに倍増させる者だったり、はたまた10歳にして魔物の中でもトップクラスに強い相手を単騎で倒す者もいた。


 こんな化け物じみた身内がいる中俺の肩身はどんどんと狭まっていった。当時の幼い身が大きなプレッシャーで押しつぶされそうだった。いつか才能が開花するだろうと思っていた時期もあったが、そんなのは幻想だった。


「お前は本当に何も出来ないな」

「公爵家の恥だ」

「なんていうか…兄さんって要らない人だよね」


 そんな言葉を家族にすれ違いざまに投げかけられた。本当に、俺は弱かった。

 だから、せめて心だけは誰よりも高貴で居たかった。俺は小さい頃から誰にでも優しくいようと思った。


 そして時が経ち学園に入った。そこでヒーラという青年に出会った。彼は俺のことをなぜか慕ってくれているようだった。そして、次に入学式で隣の席だったクライトという青年にも出会った。彼は俺と友達になってくれるらしかった。

 柄にもなく嬉しかった、今まで散々家族に嫌味を投げかけられていたのに。学園に来たらこんなにも普通に接してくれる人が居るなんて、と。だがしかし、現実はそう甘くなかった。次の日、教室に入ると俺の周りから人が避けていった。


 ヒーラもクライトもクラスが違った。だから、俺はクライトがやったように友達を作ろうと思った。


「ねぇ、君」

「…え、なんですか」

「俺と友達になってくれる?丁度席も隣だしさ、俺はスタグリアン・アンサラー・レイシル。レイシル公爵家の次男だ。よろしく」

「あ、えっと、そうすね…」


 でもうまくいかなかった。その日寮に帰ってから思い返すと、俺は腫物扱いされていたのだと認識した。公爵家なのに凡才である俺は関わってもメリットが無いと判断されたのだろう。そして、変に関わると無駄に位が高いし面倒になりそうだと思われたのだろう。そう理解してしまった。


「………はは」


 涙が出てきた。結局、俺は普通に人と接することは出来ないのかと。そう思った。


次の日、クライトがBクラスに移転してきた。俺はその報告を受けた時驚きと嬉しさでいっぱいだった。俺を友達として、普通に扱ってくれる彼がBクラスになぜか移転してきたのだ。

 俺はクライトが向かってくると直ぐに彼に話しかけに行こうとした。俺がクライトに話しかけようとするのを見ると教室の他のメンバーがクライトから全員目を背けた。即座に俺は悪いことをしたなと思った。でも、クライトから話しかけてくれた。


 それから何日か経った時俺が弱くて、ギルバードに倒された時もクライトが仇討ちと言って俺が気絶している間に倒してくれていた。クライトと一緒に移転してきたユーリアも気絶した俺を看護してくれていた。クライト達は強い上に優しかった。

 俺はクライトのことが友人として好きになりすぎていた。


 そして、今日王都で手帳を買った時クライトが爆速で街を走っているのを見かけた。声をかけたが、『ごめん、急いでる』と言ってジャンプで建物の屋上に上り南に向かって走って行った。気になった俺はついていくか迷った末に付いていくことにした。

 速すぎるクライトの遠い背中を必死に追いかけながら追いついた時には、クライトは大の大人を相手に戦っていた。俺はクライトを助けに行こうかと思ったが、それは杞憂だった。クライトが一人で、2人の相手を倒してしまったのだ。


 俺はその姿を見て、少し羨ましく思った。俺もこのくらい強かったら、公爵家で嫌味を言われなかったのかな?クラスメイトも普通に接してくれたのかな?と。

 俺がそんなことを考えている合間に、クライトの前に一人の女の子を抱えた4人の集団がやってきた。俺は流石に加勢に入ろうと思ったけど、やっぱり加勢は必要なかった。一人でバッサバッサと四人の大人を斬り倒して仕舞ったのだ。


「…すごいなぁ」


 そんな言葉思わず口に出てしまった、次の瞬間。クライトは倒れた。あまりに突然の出来事に驚くが、遠くが見える魔法を使ってクライトを見ると、息があると分かった。きっと疲労で倒れたのだろうと俺は判断した。


 そこからはすぐだった。僕はユーリアを起こして、クライトを背負い寮に戻った。戻る途中にアクセサリーショップの人から声をかけられた。ユーリアが『行ってきて良いよ』というので、クライトをユーリアに預けて店内に入る。

 店内は酷い惨状が広がり、騎士団の人が捜査をしている。そんな中ここで何が起こったのか分からない俺は店員さんから謎の箱を三個渡された。なんでも、クライトが強盗をやっつけたらしい。丁度俺がクライトを背負っていたのを見て『是非お礼をさせてほしい』という事だった。でも二人の分だけ貰い、俺は何もしていないからと貰わなかった。


 寮に戻り、俺とユーリアはクライトが起きるのを待つ。クライトが起きて事情を説明した後、先ほど渡された箱を渡す。


 その間俺はずっと悩んでいた。クライトの戦闘を生で見て、俺はクライトから戦闘を学びたいと思った。クライトになら今までの俺の悩みは話せた。しかしそれは俺の自分勝手な行為でただのエゴでしかない。

 でも、俺は話すことに決めた。友達に隠し事をするのが嫌だった。できるだけ重い話にならないように、でも真剣に話した。そしたら、クライトが言ってくれた。


「もちろん、いいよ」


 めちゃくちゃ嬉しかった。クライトが俺の悩みを真剣に受け止めてくれたという事実が、俺を強くしてくれることよりも何よりも嬉しかった。

 悩みを真剣に聞いてくれたからこそ俺はクライトに真剣に向き合おうと、そう思った。

 クライトが今後また強い敵と戦う事になった時、俺は見守るだけじゃなくて加勢できるような強さになれるようにと、そう誓った。


 これからは大変になるかもしれない。でもそれがたまらなく嬉しかった。

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