第11話 救出と謎の魔道具
「〈傲慢〉3式!」
「うあぁッ!」
〈傲慢〉3式。効果は相手を絶望の淵に突き落とし、精神的な重圧を感じさせたうえで敵の内部から圧力をかける効果だ。制限は一定期間の使用不可、今の僕のレベルでは1ヶ月に1度しか使えない大技だ。
「終わりだぁっ!!!」
土魔法で拳に岩を被せて全力で殴る。
「カッハッ………!」
無事に倒すことが出来た。だけど、体内にある魔素はほぼ全て使い切ったし慣れない大技を使ったせいでくたくただ。しかし現実は無常なもので、疲れた体を癒す時間なんてくれない。ユーリアを抱えた4人組が到着した。
「なっ!この状況は一体」
「ちょっと待て!リーダーが死んでる!」
「おいおい、あいつまさかこのユーリアとかいう奴の隣にいたガキじゃねえか?」
「あ、お、思い出した!まさか、こいつが………?」
口々に言いだす4人。でも、僕は彼らを待ってあげる程の余裕が無い。今はただ、さっさと戦いを終わらせたい。だから、続けての新技を使う。
「〈傲慢〉2式!」
「「「「うわぁああああ!!!」」」」
〈傲慢〉2式。この効果は1式と3式が対個人なのに対して2式は1式の効果を同時に複数人に付与できる。制限は一定期間の使用不可で、僕は1週間だ。
「もう魔力が残ってないから、せいぜい剣のサビになってね」
魔法を使えるほどの魔素が体内に残っていないので、今日買った新品の剣を手に取って恐怖で半狂乱状態の4人を斬る。新品の剣に血が付くのはなんだか少し勿体ない気持ちになったが、そもそも剣は他人を斬るためのものなのだからそんなこと気にしていたら仕方が無い。
「はぁ、はぁ」
くそ、僕よりも一人一人は弱い的だったとはいえ8人の相手は流石に………
「疲、れた………」
僕の意識はそこで途絶えた。
☆★☆★☆
目を覚ますとそこは学校の寮だった。あれ?さっきまで戦っていたはずなのに………もしかして、今戦ってる夢見てた?え、もしもそうだったらただの妄想男ってことになってメチャクチャ恥ずかしいんだけど。
「あ、起きたね。おはよう、クライト」
「うわっ!え、えっと…何でスタグリアンがここにいるの?」
「周りを見てごらん」
言われた通り見渡す。あれ、ここ僕の部屋じゃない?え、じゃあ誰の部屋だ?
「あはは、驚いたでしょ。俺の部屋だよ」
「クライト君!」
「ユーリア!無事でよかった…」
あ、まずい。もしも8人と戦ったのが僕の夢だったら、凄い恥ずかしい勘違い男ということになってしまう。だがそんな心配は杞憂に終わった。突然半泣きでユーリアが抱き着いてきたのだ。
「良かった………!ぐすっ、クライト君が無事で、私のせいで危険な目に合わせて、もしもって考えたら………!ううぅ」
「そこは俺が大丈夫って言っておいたはずなんだけどなぁ、まぁそれでも心配か」
「ユーリア泣かないで………というか何で僕ここにいるの?」
「それは、僕が頑張って運んできたからね!大変だったんだよ?」
そこで、スタグリアンに状況説明をしてもらった。僕とスタグリアンが会った時にやたらと僕が必死な顔して走っているから流石に気になって付いてきたそうだ。そこで、スタグリアンが僕に追いついた時には敵と戦っていた。参戦するのは危険だと思ったスタグリアンは物陰から観戦していたらしい。でも僕が敵を倒し終わった直後突然倒れてしまった…ということらしかった。
「そこで、俺慌てて駆け寄ったんだけど二人も運べないなって思って。だから先に疲れてなさそうなユーリアを起こして、クライトを運んできたってことさ」
「じゃあ、ユーリアは助かったんだね?」
「もちろん!ここにいるだろう?」
その事実がようやく咀嚼し、脳に伝達されたとき僕は酷く安堵した。
「クライト君、本当にありがとう。私の事情に巻き込んじゃって………」
私の事情ってなんだろう?確か、僕が一番最初に倒した二人の内の一人がメイヤー伯爵家の娘の拉致が目的って言ってたね。どうしてだろう?
「なんでユーリアは拉致されそうになったの?なんか理由があるって彼らから聞いたけど」
「それは………ごめん、今は言いたくない」
そっか、じゃあ仕方が無い。本人の了承を得られない状態で無理に聞き出すのは良くないから。
「そっか、それなら大丈夫」
「助けてくれたのに、ごめんね。それとスタグリアン君もありがとう。私ひとりじゃあずっとあの場所から動けなかった」
「良いよ良いよ。それとクライト、これ。あのアクセサリーショップがくれるって」
そう言ってスタグリアンが手渡してきたのは、僕が少し気になっていた魔素をため込むことが出来る宝石のついた指輪型の遺物だ。店内で見た時にはそこそこ高価だったのに、それを何でタダでくれたんだろう?
「なんでも強盗から店の品物を守ってくれたからって、クライト凄いね!」
「私も貰ったんだ、えっと。何でだっけ?」
「そうそう、強盗から救ってくれたクライトと一緒にいたからだって。お揃いでいいじゃんね!」
「お、お揃い………」
良かったな、でもそれならスタグリアンの分もあって良かったと思うんだけど………僕のあげようかな?僕がここで安静にできてたのって、スタグリアンがあの場から運んでくれたからだし。
「因みに、俺は大丈夫。気を使わなくていい」
思考が読まれたんだけど。まぁ貰わないって決めてるなら強制はしない。僕も興味あったものだし。タダで手に入ってラッキーだ。
「あーそれとクライト。俺から一つ大事な話がある」
「ん?どうしたの?」
なにか、まずい事でもあったのか。僕が気絶してしまった事で何か良くない方向に進んでいるとか?もしそうだったら僕が自分で尻を拭く必要がある。
「俺を弟子にしてくれ!」
「………はぇ?え、ど、どうして?」
何で突然そんなことを言い出したんだ?スタグリアンは別に弱くはないはず。だって、元からBクラスにいるくらいだからね。それなのになんで同じBクラスの僕に聞いてきたんだ?他にも先生とかいるだろうに。
「理由は簡単だ、クライトは強いから」
「え、でも僕以外にも強い人は沢山いるんじゃないかな?例えば…」
「違う。違うんだ」
ん、何やら真剣な表情だ。
「俺は公爵家だ。公爵家は生まれながらにして優秀であるというのが常識。でも、俺は自分で言うのもあれだが公爵家の中では才能が余りにもない。俺が他人に指導を頼んだら、きっと公爵家の中でも落ちこぼれの息子って言われるだろう」
「だから、友達の僕に教えてほしいと?」
「そうだ。ただ勘違いしないでほしいのは、俺が周りの目を気にしているんじゃない。当主様が気にされるんだ。俺みたいな無能息子を持ってしまったと………」
「………」
うーん。確かに前世のゲームの元のシナリオでも出てきたけど、スタグリアンは父親である公爵家現当主から落胆されることを嫌がっている。スタグリアンの公式設定として、公爵家の重圧に押しつぶされそうな凡才とあった。
兄弟や、他の公爵家の同年代の人を見て人知れず落ち込んでいたりと結構繊細な一面を持っていたはずだ。僕としては、気概があるし凡才とは思わないけれどシナリオ上では確かに覚醒せずに出番が終了してしまったキャラの一人だ。
「………ダメか?」
僕は、僕自身が不幸な目に合うキャラという事もあってか。不幸な目に合うキャラをほっとけない性格みたいだ。スタグリアンは友達だし、断る理由も無い。
「もちろん、いいよ」
「ほ、本当?ありがとう!」
「でも、他の公爵家の人たちに追いつくってなったら…厳しい訓練になるよ?」
「大丈夫だ!受け入れてくれてありがとう、クライト」
「ねぇ、その訓練私も参加していい?」
「うん。もちろん」
なぜだか、僕はこの年で弟子を持ってしまった。しかも同級生の、でも面白いかもしれない。だって、ゲームでしていた育成を今度は自分の手で直接できるのだから。
「よし、それじゃあ僕は自分の部屋に戻るね。ここまで運んでくれてありがとう。感謝してる」
「私も戻るね。二人ともお休み!」
「あぁ、クライトもユーリアもお休み。あとクライト、ありがとな!」
スタグリアンの部屋を出て、自分の部屋に戻ってくる。体は疲労困憊の状態で今すぐ休みたいと思うのに、なぜだか先ほど貰った指輪が無性に気になる。なにも綺麗な宝石に気になっているのではない。刻まれている魔法陣が気になっていた。
魔素を溜めておけると言われたため、試しに自身の魔素を流し込んでみる。魔素を流し込むことは出来た。今度は取り出してみる、でも取り出せない。取り出そうと思っても取り出せない。やっぱり、刻まれている魔法陣がおかしいと思った。
「でも何の魔法陣だろう?」
僕のこの前読んでいた魔法陣基礎には載っていないような高度な魔法陣のように見える。実際どれほど高度か高度じゃないかなんて分からないが、取りあえず魔素を溜めておくタンクのようなものではないと分かった。
「うーん、今は分からないなぁ」
まぁいずれ分かる日が来るだろう。それまではただ魔力を注いでいようかな。一日の魔力生成量は決まってるし、魔力を使いきったら徐々に最大魔力量が増えるからね。それにそのうち何か起こるかも.........なんてね。
今はとにかく体が疲れている、横になろう。そう思って、横になった瞬間から僕の記憶は無くなっていた。その何分か後に実はユーリアが部屋に訪れていたのに眠っていて気が付かなかったのは、また別のお話。
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