第1章 園生活編

第2話 前世の相棒

「んん~!はぁ。おはよう」


 誰もいない部屋で伸びをしながら起床の挨拶をする。昨日は序列試験があり、疲れて死ぬように眠っていた。何が疲れたかって、それはあえて100位を狙う事。死なないためには、そういう所を頑張らなければならない。

 寮は結構快適で、一人一部屋与えられているのがとても嬉しい。ここでの布団も流石に家の布団ほど安心感はないが、ぐっすり眠ることが出来た。おかげで今日の入学式はベストコンディションで迎えることが出来そうだ。


「さて、学籍番号は何番だろう?」


 ささっと支度を済ませて部屋を出る。学籍番号は入学式の式場に行ってみないと分からないため、はやる気持ちで式場に向かう。お、あった!あの掲示板に張り付けてある紙だ。


「えーと、クライト・フェルディナント・レンメルは………あ、あった」


 101番、完璧だ。狙い通りに物事が進むと気持ちの良いもんだね。A・B・C・D・E・Fクラスの中で、僕はCクラス。前世の僕の使っていた主人公であり、今世の最大の危険因子である勇者は………


「クレジアント、52番か」


 勇者の名前は『クレジアント』、平民生まれだが努力し才能が開花して学園に入学することになる。上にいる平民だからといって見下してくる貴族をバッサバッサと切り伏せて(殺してはない)後に王国を救い、魔王を倒す勇者となる。そんな存在。

 このクレジアントに僕は入学から2年目で殺される。因みに、クレジアントが意図的に殺したのではなくて逆に僕ことクラインの方がクレジアントを暗殺しようとして返り討ちに会うのだけれど。


「他にも気になる人はいるけど、きっとそのうち会えるだろうし今はいいや」


 今は僕の人生の危険因子の所在と動向だけを気に留めていればいい。他にもゲームしていた時に何度も見かけた懐かしい名前がちらほらとあるけど、一期一会ってことで後でいい。あとはすることもないので、入学式の席に着く。

 しばらくすると、一人の背の高くてかっこいい顔立ちをした男の子が隣の席に座った。彼はきっと僕のことを知らないだろうけど、彼のことを僕は知っている。というか、きっと王国のほとんどの人が知っているだろう。


 彼の名前は『スタグリアン・アンサラー・レイシル』。レイシル公爵家の次男で、子爵家三男である僕にとっては雲の上の存在だ。でも僕は知っている、彼は器が大きい。平民であるクレジアントが話しかけても、貴族特有の変なプライドを前面に押し出すことなく友好的な会話をしていた人物だ。


 まさか彼が学籍番号100番だったとは。勇気を出して話しかけてみようか。


「あの~」

「はい、どうしました?」

「いや特に用事はないんですけど、せっかく席も隣同士なので仲良くできれば~って思いまして。あ、先に自己紹介しても良いですか?僕の名前はクライト・フェルディナント・レンメル、レンメル子爵家の三男です」

「おい、お前!この方をご存じないのか!無礼だぞ!」


 そう言って会話(僕が一方的にまくし立てただけだが)を遮ったのは、見かけたことのある顔。ゲーム内でいつもスタグリアンにくっついていた奴だ。名前はヒーラ。

 僕がヒーラにスタグリアンとの会話を遮られた時、スタグリアンがヒーラを制止する。


「ヒーラ、静かに。俺の名前はスタグリアン・アンサラー・レイシル、一応レイシル公爵家の次男だよ。これからよろしく」

「スタグリアン様!こんな下民とつるんでいいんですか!?」

「ヒーラ、失礼な事言わないで。ごめんねクライト君、ヒーラがこんな感じで。あと俺もクライト君にタメ口で話すから、クライト君もタメ口で話してくれる?」

「もちろん!ありがとう!」


 どうやらスタグリアン君とは仲良くなれそうだ。後ろにいるヒーラ君は、うーん。僕としては仲良くしたいけど向こう側が許してくれなさそうだ。それにヒーラ君は侯爵で貴族特有のプライドを前面に押し出すタイプの人間だから、子爵の僕には元より優しくしてはくれないだろう。別にいいけどさ。


 お、隣の席の人がもう一人来たみたいだ。さて、どんな人なのか………な


「………あの、なんですか」

「いや、えっとー、すいません」


 僕のもう一人の隣の人、それは何と驚きな人物だった。彼女の名前は『ユーリア・レーナ・メイヤー』。彼女は勇者クレジアントの将来のメインパートナーだ、関わったらそれ即ち勇者と僕との関係が近づいてしまう。それが良い方向に転がるとは限らないのならば、関わるべきではない。


 僕が彼女に話しかけないのを見てスタグリアン君がコソコソと耳打ちしてくる。


「どうしたの?」

「いや、ちょっとにらまれちゃって………」

「そっか、それはしょうがないね」


 本当はもう少し詳しく説明したいけど、そんなことしても意味がないからやめておく。しばらくスタグリアン君と話していると、入学式が始まった。しかし、普通に退屈だった上に昨日の疲れもあってうとうととなっているとスタグリアン君がポンポンと肩を叩いてくる。壇上に一人立っている女の子を指さしながらこう言った。


「彼女、王女様だって。すごいよね」

「ん、あぁ。首席なんだよね。しかも凄い美人さんだし」


 このヨーダン王国の第1王女様でありながらこの学年で首席の彼女、彼女の名前は『メア・グロガロス・フォープレイ・ヨーダン』。クレジアントのサブヒロインで、ゲーム内ではどういう関係性になるのかは選択肢によって変わる。彼女はあどけなくて基本怒ることはないけれど、怒らせると作中一怖いキャラクターだと覚えている。


 色々考え込んでいたらいつの間にやら式が終わっていた。どうやら彼女は新入生代表挨拶と入学式の締めの言葉を言っていたらしい。可愛らしい声を生で聞けたチャンスだったので、もう少ししっかりと聞いておけばよかったかもしれない。


「それじゃあ俺は寮に戻ることにするよ。またね、クライト君」

「うん!スタグリアン君またね!」


 入学式も終わり寮へと足を運ぶ。悲しいことに、スタグリアン君の寮と僕の寮は方向が違う。明日から授業だし早く戻ろうとしたその時、僕の視界に『彼』が映った。


「………クレジアント」


 それは前世の引きこもりだった僕の相棒であり、今世のクライトの宿敵。彼は気が付いていない、というか僕のことなんて知らないと言った感じだろう。そのことに僕は少し悲しい気持ちになる。気にしているのは僕だけなのかも。

 少し拍子抜けだった。でも彼をこの目で見ることが出来て良かった、僕の方から会いに行くことはもう無いだろうから。

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