とてもみじかいおはなし
明鏡止水
第1話
お父さんと娘がいました。
娘はまだ小さくて、それから…
それから
ごめんね。
お前がお父さんの事を好きなのは、お父さんが、お父さんだからだ。そういうふうに出来ているからだ。
急にごめんね。
でも、本当にそうなんだ。
折り紙の折るのも千切るのも好きなお前も。粘土を投げてくるお前も、秋刀魚よりホッケが好きなお前も。
全部全部、パパが考えた、お前なら、こうする、……そう考えられた、作られたお前なんだ。
ごめんね、ごめんね。
寂しかったのもある。ママと、お前まで小さいまま死んでしまうなんて、世間から同情された。
でも、……悲しみを乗り越えて、少しずつ笑顔を見せれば……、「どうして笑ってるんだ、被害者のくせに」と言われた。
パパはね、耐えられなかった。
人を亡くした人間には、笑って生きていく事が許されないのか。
取り戻せない。巻き戻せない。
玄関で走り寄ってくるお前も、家の事で疲れたママもいない。二度と見られない。
新しく作るには、前に進むには、お前を。
追いかけるしかなかった。
戦った後でなら、きっと神様は許してくれる。子供を取り戻したい。妻ともう一度出会って結婚して、あの日を絶対、二人きりにしない……。そうも思った。
大切な人を亡くした時、かけられる言葉には、不幸を妬む声がある。
あなたの不幸せが、羨ましい。
落ちている姿がまだ納得いかない。
この世界は、パパが考えた、映画でも、小説でも、漫画でもない。
絵本のなかの、お話だ。
こんなお話は、どこからも出せない。出版出来ない。だから書ける。
ここには、ママが書けない。パパと、お前しか書けない。ママという素晴らしい女の人は、きっと生まれ変わってパパ以外と結婚する。そして幸せになる。
それだとお前は生まれてきてくれない。
だからパパはお前だけは手放せない。愛しているから蘇ってくれ。二人とも。あんな最後はあんまりだ。
お酒を飲んでいるわけでもないのに、支離滅裂な事を言っている。二人にいて欲しい。片方にいて欲しい。
お仏壇を買った。あまり高いものは買えなかったが、親戚がお金を出して助けてくれた。
やがて、お線香の香りが、苦手になった。
その頃だ。
写真を見ながら、画用紙とクレヨンが、勿体無いと思ったのは。
やがて、自分が幸せになる為に、絵本を作った。
画用紙にクレヨンで絵を描いて、鉛筆はなかったので、泣きながら誤字をボールペンで綴りながら。
短いお話を書いた。
きょうはママとおでかけした
かえったらぱぱとおふろにはいってごはんをたべました
泣くしかなかった。
まだ、平仮名も、書けない年の子だったのに。
こんな絵本は、おかしいのだ。
生まれ変わったら、また妻に出会って、それから……、またあの子に会えると信じて生きていく。
そのために。
今を生きねば、と。
悔し泣きする。
うずくまる。
そうすると、家族を心から抱きしめられるようなきがするからと、抱きしめてもらえるからと思うから。
なぜ、自分は家族を喪うことになったのだろうか。
とてもみじかいおはなし 明鏡止水 @miuraharuma30
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