貧乳と巨乳は喧嘩する

歩く屍

第1話 貧乳と巨乳

 「あんたね! いつもいつも貧乳貧乳ってうざいのよ!」

「嫌だわ〜、そんなことで怒ってるの? 小さいのは胸だけではないみたいね」

「誰の胸がまな板より薄っぺらいですってっ!」


 あーだこーだと喧嘩しているのを眺めている僕、中他立なかたりつは傍観を決め込んでいた。


 言ってもいないことで怒っているのは、胸の小ささにコンプレックスをもつ板間小娘いたましょうこ


 そして彼女を煽るのは、決まって二谷魅美にたにみみだ。


「ねぇ! あんたもこの駄肉ヨーヨーシンドロームに何か言ってよ!」

「嫉妬は時に見苦しくってよ〜」


 胸の大きさだけでなく心の余裕もある魅美は、駄肉ヨーヨーシンドロームという目立つ単語にも動揺しない。


「ほら、喧嘩しないでよ二人共。胸なんかあっても無くても、二人には良い所があるんだからさ」


 いつもこうやってなだめるのが僕の役目。


 言い合いの板挟みにならないように接していても、胸の大きさというコンプレックスの板挟みに結局悩まされている。


 小娘はあんな風に怒ってるけど、生徒会長に立候補されるほど面倒見が良くて人気。


 ツインテールの髪型は似合ってるし、おまけにたまに見える八重歯は笑顔の時とても可愛い。


 スタイル抜群で人望もあって、素直じゃない所やコンプレックスが無ければ、いい女の子なんだけど……。


「それって……」


 どうやら小娘は分かってくれたようだ。


 と、思いたかったが、雲行きが怪しくなる。


「それって、私のこと容姿しか見てないってこと!?」

「いや何でそうなるの!? 僕がいつそんなこと言った!?」

「言ったじゃない! お前の胸には期待してないって!」

「本当に言ってないことを捏造しないでよ!」


 僕はどっちかというと内面重視なはずだ。


 なのにどうして分かってくれないんだろう。


「二谷さん! もうちょっと仲良くできないの?」

「できませんね。全然できません。できませんったらできません」

「完全否定!? 何でさ! 争う理由なんて無いでしょ!」


 僕の言葉に、二人は時が止まったかのようにピタリと止まる。


 一瞬だけほっとしたが、二人はなぜか急にこっちへと近づいてくる。


「な、何?」

「理由ならあります」


 魅美はそう告げてから、二人は勇気を出して同時に告白する。


「だって、あんたのこと………す、好きじゃないけど、大好きなんだからね!」

「私はあなたのことが……好きですから」


 二人の告白に驚きを隠せない僕は、高校の昼休みの教室で、彼女たちを直視できない程に顔が熱くなっていたのだった。























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