続・犠牲――皆さんの思想を思い切り反映させた短編を!(蒼井狐様企画 2024.7.15)

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 皆様の作品を拝見する中で、決して多くはないのですが、これはちょっと……と感じるものに出会うことがあります。他国や他民族へのヘイト、マイノリティを揶揄する表現、高齢者や生活保護利用者へのバッシング、社会矛盾を美談にすりかえるもの、他者の尊厳や基本的人権に対してあまりにも無頓着なもの――目にするたびに胸が痛みます。


 何も言わず放置することは、差別・偏見・抑圧に加担することに他ならないと痛感しつつも、あくまで「応援」コメント、という趣旨を考えると、非常に悩ましいです。


 最近拝見した作品ですが、場(食肉工場)労働者に対する描写があまりにひどいものがありました。牛のスタニング(ボルトピストルや電流等で家畜の意識・感覚を即時に消失させる過程)作業を担当する作業員が「目を血走らせて」ボルトピストルを牛の頭部に当て引き金を引いている、といった表現には、ぎょっとさせられます。


 だいぶ前の話になりますが、食肉工場の見学とそこで働く人々の話を聞く機会がありました。私はそこで、食肉の現場にいる人々の多くが、友人や恋人、家族にさえ自分の仕事を伝えることができない苦しみを強いられている現実を初めて知りました。


 と畜される動物を「かわいそう」だと言う人たちだって、ビーフカレーや豚汁を食べるだろう、などと野暮なことを言うつもりはありません。肉を食べようが食べまいが関係ありません。食肉工場の労働とそれに従事する人々を勝手な先入観で決めつけ、「煽情的」な部分を自分の表現に取り込んで「残酷さ/非道さ」を演出する、それが間違っていると言いたいのです。


 私は食肉、そして皮革の労働を特別視しているつもりはありません。医療、流通、教育、製造、情報、建築……この世界にあるあらゆる労働となんら変わるところのない、同じ労働です。他の労働とひとしくリスペクトするだけです。「命の最前線で奮闘する尊敬すべき人々」のような安易な持ち上げ方は、「平気で動物の命を奪う残酷な稼業」という偏見と表裏一体です。


 あなたが口にしているお肉は、スープの出汁は、誰が家畜にスタニングを行い、放血をし、解体し、枝肉にし、市場に出しているのでしょうか。

 あなたが町の盆踊りで響く勇壮で華やかな太鼓の音に胸をおどらせる、その太鼓の皮は、食肉工場の副産物です。

 あなたが大谷選手の活躍に胸を熱くする、彼の投げ打つ硬式球の表面を覆う白い皮もまた、食肉工場の副産物です。


 小説などで時折見かけるのですが、「激しい戦闘が終わりあたりを見回すと、そこはまるで屠殺場のように酸鼻極まるありさまだった」式の表現があります。残酷さのたとえに職場を(それも偏見まみれの表現で!)一方的に引き合いに出される方こそ、いい面の皮です。


 余談になりますが、どなたかが「嫉妬」という漢字表記が、という心情をあたかも女の属性のような印象づけになってはいまいか、と指摘しておられました。古代の風習の反映とはいえ、食肉の現場にいる人々が「犠牲」の二文字を見て果たしてどう感じるのだろうか? とふと感じるところがあります。


 食肉工場の見学に参加した時、工場で働く人から「友人との飲み会で自分の仕事の話をしたら、引かれてしまった」という話を聞きました。


 せめて、食肉・皮革労働者が、いつでも、どこでも、誰に対しても、心置きなく自分の仕事を語れる社会にしたいと願います。自分の書くものが、せめてそれを妨害しないことを絶えず留意していきたいと感じております。



*参考*

「家畜の取扱・と畜・解体技術」公益財団法人 日本食肉生産技術開発センター

   https://www.jamti.jp/pdf/tech10-1.pdf

 

 

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